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オーダー -封印の鳥篭-  作者: 朧塚
3/24

#001 栄光の手 1

 幼い頃から、自分は呪われていた。


 カナリーは、決意して、その場所へと向かう事にした。

 きっと、此処から引き返せなくなるのだろう。

 路地裏の奥を進んでいくと、巻き貝のように、螺旋階段が目立つビルが見つかった、高いビルだ。この先に例の人物がいるのだろう。その人物は彼女に興味を示してくれた。

 彼女は階段を登っていく。

 くるくると、街全体が俯瞰出来るようになっていた。

 この街は都会で、田舎を故郷に持つ彼女にとっては、目まぐるしいものがとても多かった。日陰で生きていた自分にとっては、とてもカラフルに見えた。

 彼女は全身、漆黒の服に身を包んでいた。黒い編み込みの入ったワンピースに、黒いブーツ。黒いネック・コルセット。ワンピースの下は黒いパニエと黒いドロワーズ、ドロワーズの下には黒いショーツをはいていた。そして髪の色も、カラスの濡れ羽のように黒かった。ボブにシャギーを入れた短めの髪だ。彼女は黒が好きだった。自分自身の内的世界を一番、表現しているような色彩に思えたからだ。

 彼女は、黒い布に包まれている、ソレを、今から会う人物に見せなければならない。

 彼女の全身もまた、黒尽くめだった。

 黒いドレスを纏っていた。

 幼い頃から、自分は光の世界で生きられないのだと気付いていた、だから、この服はカナリーにとっての自己主張だった。

 彼女はビルの頂上に辿り着く。

 そして、ドアを開ける。

 中には、闇ばかりだった。

 少しだけ、日の光よりは心を和らげてくれる。

「あの…………」

 確かにいる筈だろう。

 しばらくして。

 窓が開けられる。

 光が刺し込み、その人物は少しだけ輪郭を露わにする。顔はよく見えない。そもそも、気配がまるで無かった。

「この先に椅子がある。座れ」

 女の声だ。冷たく、無感情だ。抑揚がまるで無い。

 カナリーは恐る恐る、部屋の中へと入る。そして椅子を見つけて腰掛ける。

 これは“面接”なのだ。

 彼女の受け答えによって、これから先の未来が変わるかもしれない。

「お前の言う例の物は持ってきたのか?」

「はい……。というよりも、いつも肌身離さず、持っています」

「見せろ」

 カナリーは、硬い机の上に、黒布に包まれたものを置く。彼女は黒布を取った。

「ふむ。成る程な」

 光によって、次第に、目の前の人物の全身が現れていく。

 暗闇の中に、整った金色の顔の女がいた。どうやら、彼女もまた、闇に溶けるように、漆黒のドレスを身に付けているみたいだった。髪の毛は螺旋のように巻かれている。

 黒いドレスを纏った二人の女は、互いを見つめ合う。

「お前の名は?」

「カナリーと言います」

「そうか。私はメビウスと言う」

 彼女は手にしたものの布を取るように言われる。

 布を取り去ると、そこから出てきたものは、鳥篭だった。大型の鳥も入れられそうな木製の鳥篭……。扉は硬く閉ざされている。

「貴女が“中枢”だと私は聞かされて、来ました。貴女自らお会いして下さると……」

「私の眼で見る必要があったからな」

“力を持つ者達”の組織を束ねる女、メビウス・リング。

 彼女は、人間大の球体関節人形の身体を持つ、動く人形だ。そして、絶対的な、この世界において実力者でもある。

 メビウスはカナリーの全身を冷たい視線で眺めていた。感情は分からない、いや、そもそも無いのかもしれない。

 無機質な顔のまま、メビウスは口を開く。

「問うが。お前はこれから先、どのような不幸も覚悟の上か?」

「はい。理解しているつもりです」

「苦難の道を歩む事になるかもしれないぞ。お前は簡単に命を落とすかもしれない」

「覚悟の上です」

「お前は、お前自身の力を、どのように理解している?」

「使命です………………」

 メビウスは表情を微動だにしない、代わりに、カナリーは脂汗を流していた。

 表情を持たない相手が、こんなに怖いとは思わなかった。

「人を殺した事はあるか?」

「…………、あります。私の力で」

「お前はお前自身の力に名を付けているか?」

 突然、意表を突かれた。カナリーは困惑する。

「無いです、…………力は力としか…………」

「物事には名前が存在する。万物のあらゆる事象には名が存在するのだからな。だから、お前はお前自身の力に名を付けるべきだ。この世界においては、お前のような力を、個々が好きなように名付けている。お前が私達の領域に入った後、最初の仕事は、お前自身の力に名を付ける事かもしれんな」

 メビウスは鳥篭をまじまじと眺めていた。

 これが極めて、危険な物体なのだと、彼女は理解しているみたいだった。

 それが分かっている故に、価値があるのだと、彼女は考えているのだろう。

 そして、彼女は判断を下したみたいだった。

「合格だ。お前は私の下で動け」

 カナリーの顔が、少しだけ紅潮する。胸が高鳴っていた。

「お前が仕事を一つこなす度に、給料を送ろう。指令は私ではなく、別の者を使う。早速だが、このファイルに目を通して貰おうか」

 渡された黄色い封筒の中には、特別任務を行う組織『栄光(ハンド)の(・オブ・)(グローリー)』の行うべき事が書かれていた。




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