表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーダー -封印の鳥篭-  作者: 朧塚
21/24

#005 錬金術の怪物 4

「なんだか、知らねぇんだけど」


 憎悪の篭った声だった。

 カナリーと、ゴードロックは、自らに降り掛かる、見えない炎の攻撃が、自分達に届いていない事に気付いた。

 何故か、負傷していない。誰かに助けられたみたいだ。

「よくも、俺の肋骨を折ってくれたよなぁ。お前の方は、俺が自ら腕を切り落とす機会を作ってくれたよなあぁ。貴様らを情熱的に抱き締めてやりたい。解体したい、ああああ」

 聞いた事のある声だった。

 ゴードロックは、酷く驚く。

 カナリーも、驚愕していた。

「なあ、おい、何故、貴様が此処にいる? お前、今、我々を守ったのか?」

 元軍人の男は、怨敵の意外な行動がよく分からないみたいだった。

 石柱の上によじ登った、ダウンナンバーが姿を現す。

<何だ? お前は?>

 怪物も、突然の乱入者に、少し混乱しているみたいだった。

「まだ、満身創痍なんだよ、畜生。右腕もまだくっ付いてねぇ、固定している」

 彼は怒りの形相を露にしていた。

 ベレトの背後から、豹が現れる。豹の口には小刀が握られていた。

 この獣は、オブシダンの使う、人造生命体だ。

 カメレオンは、再び透明化する。だが……。

 豹は跳躍して、透明状態のカメレオンに、ベレトの刃を突き立てていた。豹は、反撃に、炎の吐息を受けて、火ダルマになっていった。そのまま、地面に倒れる。

 獣はしばらくの間、痙攣を起こしていたが、やがて動かなくなっていく。

<おい、何をした?>

 ダウンナンバーは、動きを止められて、混乱を起こしているみたいだった。

 この巨体の怪物は、未知の攻撃には、脆いのかもしれない。

 ベレトは、空中を飛び跳ねていた。

 そして、巨大カメレオンの眼球に向けて、刃を突き立てる。眼球は弾力を帯びて弾かれる。だが、彼はなおも、もう一方の眼球に刃を突き立てていた。

 カメレオンは、舌で、彼を払いのけようとするが、ベレトの動きは早く、更に火炎の吐息の射程から離れた位置で、刃を振るっているみたいだった。

 カナリー達には分かった。

 自分達を、見えない檻が囲んでいる事を。

 それをこじ開けるように、ベレトが中へと入ってきた。

「ははあ、お前達も、酷い顔をしているよな。今、此処で美しくしてやる」

 ベレトの眼差しと口調は本気だった。

「はあ? それ処じゃないだろう? ふざけるのも大概にしろ!」

 ゴードロックは、呆れ半分で怒鳴る。

 ベレトは、栄光の手二人と、怪物、どちらを先に攻撃しようか考えているみたいだった。

 突如。

 炎の中から、豹が立ち上がり、三名の隣を駆けていく。

 どうやら、それは通路の側みたいだった。

「ねえ、ベレト」

 カナリーだった。

「三名で奴を倒す事を考えましょう。貴方は錬金術師フルカネリの力を欲している。私達はフルカネリをこの世界から抹殺する事を考えている。利害は対立しない。協力しましょう?」

 魔人は、カナリーの顔を凝視していた。

「骨と肉を同時に切断される苦痛って、どれくらいのものか分かるか? お前にこの痛みが、未だ続いている痛みが分からないのか?」

「……………、他人の痛みはまるで理解出来ない癖に……、自分の痛みには、とにかく強く敏感なのね……」

 ゴードロックは、銃剣をベレトに向けた。

 軍服の男には、栄光の手のメンバーの中で、彼にしか分からないような、強い呪詛を、猟奇殺人鬼に対して持っているみたいだった。

「お揃いね」

 草鞋(わらじ)の音がする。

 赤い着物の女が現れた。

 彼女は部屋の中央に入る。燃え盛る豹が、彼女の隣にはいた。豹は役目を終えたかのように、その場に倒れる。

 そして。

 花鬱は、怪物達を連れてきていた。

 赤色に青色、黄色に緑色の塊が、無数に通路の奥から歩いてくる。

 かなりの量だ。

<『メモワール』、精霊体ナヘマーか>

 ダウンナンバーが言った。カメレオンの眼球は、カナリー達の方角で固定されていた。

<邪魔するんじぇねぇぞ。こいつらは俺を馬鹿にした。俺が焼殺してやる>

 このカメレオンは、露骨に、眼の前にいる軟体に嫌悪を示しているみたいだった。

「これはこれは“やっかい者”のトカゲ、ダウンナンバー」

 カメレオンは、明らかに顔を険しくしていた。

「造物主さまの特別な存在であると自負するのはお止めなさい。貴方は傲慢が過ぎた。なんなら、彼らと共に、この私が始末しましょうか?」

 塊達は一斉に嘲笑しているみたいだった。

 無数の塊は一つになっていく。

 おそらくは、ゆうに数百体に達していたのではないだろうか。それが一列に、堆積が増える事無く、一つの人型に融合していく。

 四色の色彩が、どろどろに混ざった、一人の人型になった。

 目も鼻も口も無い顔が、頭を震わせていた。

<おい、カナリー。てめぇ、やれよ>

 ダウンナンバーが、意外な事を告げる。

<この場を収めてやる。俺は去るぜ。妥協してやる、てめぇ、その鳥篭を開いて、その気持ちの悪い粘液野郎に向けろ! 分裂する前だ!>

 ダウンナンバーが叫んでいた。

 カナリーは、思わず、彼の言葉に従っていた。

 木の扉が開かれる。

 四色の人型は、よく分からないみたいだった。

 おそらく、閉じ込められていて、あのカメレオンは鳥篭の構造、カナリーの能力の大部分を理解しているのだろう。

 それは、何本もの腕だった。

 粘質の人型、ナヘマーを掴み掛かろうと迫る。

 ナヘマーは、それに気付き、すぐに分裂に走る。

 だが。

 腕達は一瞬にして、煙へと変わると、壁や床の隙間や、通路などに逃げようとする液体の塊をつかみ取って、鳥篭の中へと“収納”していく。

 まるで、嵐が去った後の静けさだった。

 一同は、しばらくの間、カナリーと、閉じられた鳥篭を眺めていた。

<どうやら、そこのオカマ野郎の能力も解けたみたいだな。カナリー、俺はお前以上に、お前の力を知っている。今日は此処で一度、引いてやる。ああ、引いてやるぞ>

 ダウンナンバーは天井に両脚を付けると、舌によって天井を破壊していく。そして、大きな孔が空くと、彼はいずこへと去っていった。

 ベレトが全身を震わせて、怒りを露にする。

「ああ? 誰がオカマ野郎だって? 殺してやる、苦しめて、生かしながら殺してやる、気色悪い体色の化け物が」

 ベレトは、跳躍して、まるで底に見えない透明な階段があるかのように、空中へと着地しながら、ダウンナンバーの後を追っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ