表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーダー -封印の鳥篭-  作者: 朧塚
20/24

#005 錬金術の怪物 3

 カナリーはゴードロックを連れて、走っていた。


「なあおい、お前はこの道を知っているのか?」

「……ええ、何故か見えるんです…………」

 大柄の男は、とにかく彼女を信じるしかないみたいだった。

 神像があった。

 どうやら、先程のミイラと、液体の怪物がいた場所にあった神像よりも、はるかに大きい。両手に壺を持っている女人の像だ。

「多分、……此処なんです…………」

 何故か、強い確信があった。

 おそらく、此処が、この遺跡で、一番、広い空間なのだろう。

 カナリーの持つ、木の鳥篭が、震え始める。

 中で、何かが脈動しているかのようだった。

「おい、何かやばい事態になっているぞ?」

 軍服の男は焦り始める。

 辺りに、瘴気(しょうき)()れ出しているような気がした。

 木の鳥篭の扉が開いていく。

 中から、脚が現れる。

 それは、爬虫類(はちゅうるい)のような脚だった。

 カナリーは怯えていた。



 そこには、かつて幼い頃に見た、巨大カメレオンが姿を現していた。


<ようこそ、カナリー。大きくなったな>


 カナリーは膝を付いて、仰け反っていた。

 カメレオンは、舌の伸縮を繰り返していた。

 怪物は全身から、あらゆる邪悪さを放っているかのようだった。

<俺はお前の“記憶”の中に閉じ込められていたんだよ。恐ろしい力だな。やはり、お前は造物主さまに(あだ)為す者になるんだろうな。お前の両親がそうであったように。それにしてもだ。ようやく、出る事が出来た。あれから、十年以上も経過しているのか?>

 その怪物は、二人を凝視して、吟味していた。

「なんだよ? お前は?」

 ゴードロックは、呆けたような顔をしていた。

 しばしの間、事態を把握していないみたいだった。

「パソコンに映っていた、貴方の像は?」

<お前が幻視したんだよ。俺はお前の行動を中から見ていたぜ。此処に集められた者達は、メビウスが作った、恐れ多くも、造物主さまに挑もうとする者達の集まりだろう? みな、俺様が焼き殺してやる>

「分からないが、こいつはお前の敵なのだろう? なら、俺達の敵だっ!」

 ゴードロックは、機関銃の引き金を引いていた。

 カメレオン、ダウンナンバーの身体に弾丸は命中するが、弾き飛ばされていく。

 怪物の皮膚は、鋼のように硬いみたいだった。

 ダウンナンバーは、透明化する。

 そして、嘲りの声を上げていた。

<俺様は強いぜぇ。造物主さまがお創りになった生体兵器の中でも、屈指の力だろうなあ>

 カメレオンは、二人の近くで姿を現し、口から炎の吐息を吐き散らしていく。

 ゴードロックはカナリーを掴まえると、跳躍して、炎の攻撃を避けた。

<また封じられないように、念入りにしておかないとな。もっと、恐ろしいものを見せてやる>

 怪物は口を大きく開く。

 ダウンナンバーは、再び、火の吐息を吐く。

それは途中で、透明化していく。

 ゴードロックは、蒼褪(あおざ)めた顔になる。

<これで、避けようが無いだろぉ? ほらほらぁ、すぐに焼死体に変えてやるよ>



 壁に大きな衝撃があり、大きな孔が開いていた。

 壁の一部全てが丸ごと、壊れていた。

 花鬱は、何が起きたのか分からなかった。

「すげぇ、勝手な事だけどよ。停戦協定を結ばねぇか?」

 聞いた事のある声だった。

 花鬱は、一瞬、息を飲む。

 何を言っているのか、よく分からないみたいだった。

「ベレト…………?」

「貴様らを追ってきたんだ。……まあいい。この部屋があったのに気付いたのは幸運だった。向かい合わせの部屋だったんだな。孔を開けた先にお前がいるなんてなぁ」

「悪いけど、取り込み中なのよ」

「こっちもだよ」

 赤い球体が、次々と、現れていく。

「何、敵を増やしに来たのよ!?」

「助けてもやるよ」

「あんたも敵だよっ!」

「やかましいっ!」

 花鬱は、刀の一本をベレトの顔に向けた。

 ベレトは、花鬱の肩に触れる。

 和服の女は、迂闊さに気付いた。あの赤い物体は爆発するみたいだ。もし、動きを固定されれば、絶対絶命だ。

「こいつら、どうやって倒せばいいか分からねぇ。どうすればいいんだろうな? 取り敢えず、お前の周囲にも、大気の盾を張っておいたぜ」

「ふざけるんじゃないわよ」

 花鬱は、怒りを露に、ベレトを睨む。

 ベレトは、通路を遮る、三体の黄色い人型を小刀で切り付けていく。すると、彼らは固定されて、動きを封じられているみたいだった。

 黄色い塊の代わりに、赤い塊が、花鬱の周辺で爆裂していく。

 何度かの爆発の後、花鬱は、その場を動いた。

「あんた、最低な事に自分自身の能力を理解し切れていないのかしら? あんたが、自らの周辺にある大気をあんたの力で、操作しているみたいだけど。あたしには、防御膜じゃなくて、タダの檻になってんのよっ!」

 花鬱は跳躍して、赤色と黄色、両方から逃れる。

 ベレトは、すでに、この部屋から離れていた。

「ははっ? ああ、違うぜ。この怪物は何かを守っている。それを手にするのは、俺だけでいい。つまり、お前を一瞬だけでも騙したんだよ」

 ベレトは、引き攣った声で反論する。

 …………。

 ナヘマーと言ったか。

 赤色の方も、花鬱に押し付ける事が出来た。

 結果的には、自分に有利な方に持っていけた。

 ……本当に共闘するつもりだったんだよ。ああ、味方は俺の大気の固定を動かせねぇんだな。俺がつねに、マスター・ウィザードの力で触れていなけりゃいけねぇんだな。

 そもそも。

 彼は、仲間という概念が無かった。

 いつも、私利私欲のみで生きてきた。だから、そういう能力が発芽した。

 連帯なんて、そもそも出来るものじゃないのだろう。

 ベレトの隣を、獣が走っていた。豹だ。

 おそらくは、オブシダンの創り出す獣だろう。

「おい、やるか? いいぜ、相手になるぜ。愛の契りを交わそうか? 俺は人間しか趣味じぇねぇんだけどなぁ」

 彼は獰猛な視線を、獣に向ける。

 豹は、彼を攻撃せずに、まるで彼を誘導するように、通路を走っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ