#005 錬金術の怪物 1
デス・ウィングは、あくまで傍観者だ。行動に移すのは、ベレトだけだ。
ただし、通信機による相談は受け取ると言った。
だが、彼はプライドが許さなかった。
あくまで、彼女の立場を重んじるつもりでいた。彼女は協力者ではなく、傍観者なのだ。
「俺ならどうにでもなるんだな」
彼は自身の周囲にある空気を固定しながら、グリーン・スライムの濁流を防いでいた。ただの一滴も、自身の身体に触れる事は無い。
空気を固定する事によって、ナイフやランタンの飛距離を伸ばして、辺りを探っていく。
†
祭壇があった。
何か異形の神像が建てられている。
悪魔や竜を象ったものなのだろうか、人型をしていた。
ベレトは、此処に来るまでに、様々な事を思索していた。
彼の目的はフルカネリと繋がる事だった。全知全能とさえ呼ばれる、遥か昔の錬金術師。そのような存在の力を手に入れる事だった。あるいは、そのものの配下になる事なのかもしれない。……配下、彼の人生においては、誰かの下に付いて動くなど考えられなかった。
やはり、自分以上の存在なんて無い。彼はそう思い、ナイフの柄を強く握り締める。
祭壇は、気配に満ち溢れていた。
「誰かいるのか?」
彼は訊ねる。
神像に、気配が集まっていく。一人ではない、確かに複数いる。
ずるずる、と、這いずるような音だ。
「お前は力が欲しいのか?」
気配は訊ねる。
ベレトは頷く。
「私はナヘマー。この遺跡の番人だ」
「何を守っているんだ? 錬金術師の遺物か?」
石段や壁などを這いずる音が近付いてきた。赤い色の液体だった。血ではなく、まるで、リンゴやスイカなどのフルーツ・ゼリーのような赤だった。
赤い色の液体が、彼の近くに集まっていく。
それは、人の形へと変わっていく。
「お前が番人か……?」
「そうだ。そして、お前を試す事にする。色は赤だ」
人型は、意味深な事を告げた。
†
カナリーは鳥篭をかざす。
何故だか分からないが。
すると、遺跡の周辺にいた、緑色の液体達は、身を引いていく。
他のメンバーは、みな驚いた顔をしていた。
「さあ、行きましょう」
花鬱も、ゴードロックも、驚いた顔をしていた。
だが、カナリーの言葉には、何故か強いものがあった。元々、この場所は、カナリーが決めた場所だ。彼女には、未知の力がある。他のメンバー達も、それに何か畏怖のようなものを感じ取っていた。
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