#004 黄金の遺跡 3
『黄昏の大祭壇』。
地元の住民達からはそう呼ばれている。
何かの文化の遺物なのだろうが、その研究は進んでいない。
次元共通語が通じない区域だ。翻訳本も持ってきても、この地元の住民の言葉はよく分からない。ただ、遺跡には近付くな、という強い警告は行われる。
この辺りは、昔から忌み嫌われていたらしい。よく近付いた人間がいなくなるのだと。
メンバーは、近隣の村人達からは、充分な情報は手に入った。
能力者の大きな功績の一つは、あらゆる文化、国家間において、更に多次元世界において、共通の言語を創った事だ。それは、世界中に、多次元世界中に広がっている。おそらく、この功績を行ったのは、神に類する力を持った者だろう。
白いハトが、遺跡の入り口に止まった。
まず、テラリスが遺跡を探索する事となった。
援護として、オブシダンが、自分の獣達を送った。
†
「罠らしきものは、特に確認出来ないな」
テラリスは通信機にて、他のメンバーと通話していた。
彼の持つ通信機は、各々に電脳上でメッセージを送信、受信出来る機械だった。リアルタイムで、それが可能だ。たまに、不調を起こして、雑音が混じるのが玉に瑕だが……。
<何か生命の気配は無いのかしら?>
花鬱がメッセージを送信する。
<今の処、特に無いですね>
テラリスは返す。
<もう俺様が突撃していいのか?>
ゴードロックは相変わらず、血気盛んだった。
テラリスは、遺跡に描かれた文字を解読しようとしていた。
トーテム像のようなものも並んでいる。
彼は入口付近にまで近付いていく。
<何か嫌な予感がするわ。テラリス、戻った方がいいかもしれない。後は無人兵器として機能する、私の獣達に任せて>
オブシダンがメッセージを送信する。
<もう少しだけ入り込んでみます>
テラリスはみなに告げる。
†
テラリスは、仲間達を出し抜く事を考えていた。
フルカネリの力を手にしたい。それが彼の目的だった。
そもそも、メビウスなどのようなものに仕えていても、前途は有望では無い。ならば、もっと権力に焦がれるべきなのだ。彼はそのように考えていた。
「ピラミッドの内部とかって、こんな感じだよなあ……」
彼は一人、呟く。
周辺に罠が無いか、自らが召喚したハトを飛ばして、感知していく。
後ろには、オブシダンの豹型の獣達が待機していた。
ハトは震えていた。
テラリスは、自らの軽挙妄動に気付く。……手遅れだった。
「ああ、クソォオオオオオオオォッ!」
彼は悲鳴を上げて、遺跡の外へと引き換えしていった。
濁流のように、その液状のものは、彼と、オブシダンの獣達を襲っていく。
†
双眼鏡を手にしながら、遺跡から離れた場所で、栄光の手のメンバーはその光景を眺めていた。
遺跡の入り口に、深緑色の液体が流れていき、小さな河を作っていた。
中には、テラリスがいた。彼の全身が液体に絡め取られている。そして、徐々に彼の身体は、服は、溶解していき、テラリスは苦しみと救援の声を上げながら、内臓をブチ撒けて、骸骨化していき、ついには緑の液体と同化していった。オブシダンの獣達も同じ末路を辿った。
栄光の手のメンバー達は、それを見て唖然としていた。
きっと、大災害で、自らの家や街が、一瞬にして押し潰されたら、こんな感覚に陥るのではないだろうか。
ゴードロックは怒り狂っていた。
「ああ、ふざけやがって、また仲間が戦死……、ああ、クソがぁあああぁっ!」
彼は、ミキシングの時と同じように、我を失っていた。
どうやら、緑色の液体は生きているみたいだった。
軟性の身体を震わせながら、また、遺跡の奥へと戻っていく。
†
ベレトは、更に遠い場所から、小型望遠鏡を使って、その光景を眺めていた。
そして、露骨に蔑みの視線を送る。
「馬鹿だな。しかし、『グリーン・スライム』か。それもかなりの大型の……」
ベレトは、自分だったら、引っ掛からないのに、といった顔をしていた。
「グリーン・スライム?」
傍らにいたデス・ウィングは訊ねる。
「知らねぇのかよ? アメーバ状の生物で触れたものを溶かすんだよ。おそらく、別世界から持ってきたんだろ」
「ああ、文献で見たような。私も一つ欲しいな。瓶の中に詰めて売ろうか」
「売ってやれ。いっそ、買った奴を喰う仕様したらどうだ?」
「いいな、それは。だが、悲惨さをより良くする為に、購入者ではなく、購入者の家族や友人のみを喰らう、という仕掛けを仕込んで売った方がより面白いだろうな」
デス・ウィングの言葉を聞いて、ベレトは腹を抱えて笑った。




