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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
อาณาจักร ไทย (Ratcha Anachak Thai) currency:Baht(THB/฿) rate:3.0/JPY
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トレイン・トレイン

 宿にたどり着くと、線の細い美人のマッサージ屋さんはずかずか俺の後ろに付いてくる。

 エレベーターで部屋の階まで登っている間もずっと、にこにこ微笑みかけてくる。

 カードキーを開け先に入って、


「ちょっと待ってろ」


 と、貴重品を隠す。出て、


「ええよ」


 キーを所定の位置に挿すと電気が流れエアコンが動き始めテレビがつく。


「お水頂戴」


 冷蔵庫の中のフリーのミネラルウォーターを要求される。


「まあええけど。外暑かっただろうしな」


 なんか図々しい気がしないでもないが、宿を教えて貰ったのは間違いない。

 コップに注いでやるとこれが美味そうに飲む。


「疲れてたんや。まあ他にカモいなさそうだったしな」


 と、言って改めて英語で話しかける。


「でも俺40バーツしかないんだからな」

「OK.先に頂戴」


 財布から20バーツ紙幣を二枚。あとはコイン数枚しか入っていない。


「本当はいつも400バーツなんだけど特別ね」


 寝転べと言われる。

 シングル料金だったがベッドはダブルだ。値下げ交渉はダメだったが朝食が付いてくるし広い部屋にしてやると言われたのだ。

 横になるとうつ伏せになれという。

 頭から背中、腰、足まで丹念にマッサージを施術してもらう。

 長い距離を歩いて俺は疲れていたようで、とても効いた。


「ありがとう、君マッサージすごい上手だね」


 なかなか腕もよく、力強い。

 そう、線の細いのは顔だけで、腕も足もごつくて太いのだ。

 彼は一通り終えると化粧を直して商談に入った。

 舌舐めずりをして、ポケットからゴムを取り出す。


「もう少しお金があれば」

「ないって。さっきから言ってんじゃん」

「ATMがー」

「無理、飲まれちゃうとヤダから」


 海外のATMではたまにカードが出てこなくなるトラブルが発生するという。係員のいない夜にそれが起こったら、対処の仕様がない。


「じゃあ楽しい事は出来ませんよ」


 実は最初から、無理矢理襲われて女にされちゃうんじゃないかとハラハラだったのだが、その心配は無さそうだ。目的はただお金のみ。なら大丈夫、ない。

 宿が警備のいるホテルなので騒ぎも起こさないだろうし。

 更に、次の手が来た。


「日本のお札を見せて」


 これ、聞いてたやつだ。

 見せるだけならと渡すと、いつの間にか何枚かすられているという手口。初めて聞いたので、本当なんだと感動した。(そのうち聞き飽きる事になる)


「もう全部換金しちゃってて、ない」


 疑わしげな顔をする彼に空の財布を見せて、


「あとはコインが残ってるだけ。俺からお金のにおいしないだろ」


 しばらく名残惜しげに様子を伺っていたがおそらくそのレディボーイはようやく諦めたようで、席を立つと部屋を後にした。

 ドアの所まで見送って、


「ごめんな、儲けさせてやれんで」


 と、出る瞬間にぺろんとお尻を触ってあげた。俺にそのけがあるとかじゃなく、礼儀というかけじめというか「俺は最後まで騙されていたんだからねっ」という優しさで。

 硬かった。


 翌朝。

 起きてフロントに朝食は何処だと聞きに行くと、もう終わったとの冷たい返事。


「10時までです」

「何とかならないの? 一時間くらいいいじゃない」

「不可能です」


 慇懃無礼。

 こんな街はすぐに出てやる。

 ハジャイは碌な事がなかった、荷物をまとめるとすぐ駅に向かう。

 あと両替だ。隠し持っていたドルをバーツに変える。何件か回って換金率のマシな所を探すが、交渉したおっさんが俺からドルを奪って、


「待ってな、今替えてきてやる」

「ばかばか、信じられるか。今交換じゃなきゃこの話はナシだ。返せい」


 と結局最初の両替所にする、など無駄な動きばかり重ね、ハジャイの印象をさらに悪くした。


 14:15発の夜行列車で街を離れる切符を買った。

 ハジャイ駅は熱波の中。

 端の日陰の喫煙場所で一服していると老夫婦に話しかけられる。

 英語が達者なおじいちゃんと、出身地だとか適当に話した。彼がタバコをつけようとしてライターが点かないのを見て、俺がマレーシアで1リンギットでマクドの道を聞いたおねーちゃんから買った青いライターで点火してあげると、自分の持っているこのタイ製はクソだと言って投げすてる真似をした。


 そろそろ発車時間が迫って来たのでお別れを言い、出発の3番ホームに向かう。


 そのまま待つこと16:00。電車は2時間も遅れて着いた。

 さっき「遅いよ?」と聞くと「ディレイ、ディレイ」とだけ教えてくれた係員に「この電車で本当に間違いないね」と確認。座席を確認して荷物を網棚に乗せる。

 近くの席のおばちゃんたちの荷物も手伝ってあげる。

 彼女たちはお喋りを始め、炒った豆のおやつを分けてくれる。

 車内販売の豆売りが通って、一人のおばちゃんは巨大なソラマメみたいな、誇張なしでマシンガンの弾倉くらいもある奴。それが束になった奴を3つも買うとビニール袋に詰めて貰っている。一枚じゃ重くて破れてしまうと文句を言い、新しい黒い袋を持って来て貰って、二重にして詰め直す。


「これ食べるねん」


 おばちゃんがジェスチャーで言う。


「うまいねん」

「わかったよ」


 午後の湿った風の中。田舎の時間はゆったりと過ぎてゆく。


 夕日が落ちる。

 俺は座席に座っている……少しだけ、汗ばみながら。

 今は18:00。電車はまだハジャイの駅にいた。





※予告※

ついに明かされる旅の目的、電車の中での不品行。深夜に進む電車の中では一晩中蛍光灯があかあかと照り続けていた。


次回『深夜特急の車窓から』てれってってっててーれれ(略ッ!)

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