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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
مليسيا (Malaysia) currency:Ringgit(MYR/RM) rate:25/JPY
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ハーレムの奴とか

 朝早く宿を引き払うとバイクを借りた。

 ミッション付きのはあるかと聞くと35リンギットだと言う。30に負けてというとすぐOK。出てきたのを見るとスクーターで、


「ごめんもうないわ。先に借りられちゃってた」


 と爽やかな英語で謝られた。


「えー、じゃあ25」


 というとそれで通った。自転車レンタル料なみだ。

 国際免許を見せて乗車したが、最悪なくても借りれるらしい。仮に捕まっても20リンギットほど警察官に包んだら解放されるという。国際免許取得に費用が4000円ほどかかるので、比べれば賄賂の方が安い。

 運が悪ければその限りではないものの。


 特に目的さえなくただ適当に走って小さなその島を一周か半周かしただけで、海が綺麗だったのとお寺に巨大な観音像があった位しか、書くことはない。


 淡く弾ける水飛沫。黄色の砂浜に溶けた海が、はるか沖まで澄んで透き通って見える。光が射して水底に白い雲の影が落ちる。

 水着はある。衣類圧縮袋に押し込んである。

 じゃあ少し泳ごうか迷ったけど面倒臭かったのと、疲れそうだしバイクに乗ってた方が楽しいのでやめた。

 一人でじゃぶじゃぶやって楽しめるような歳でもない。女の子でも探して声をかけたりすればマシだったかもしれない。


 海には勝手に常夏を謳歌させておいて、汗臭い借り物のヘルメットに手をかける。

 都市部を離れると全員ノーヘルで、生暖かい風に吹かれて乾く汗や、道端にずっと並ぶドリアン屋とか、地元の速い奴にぶち抜かれたり意地になって追いかけっこしたり、その辺は書いて伝わるとも思えない。

 後ろから誰か2ストの甲高いエンジン音が迫ってくるワクワクや、回しても回しても遅いスクーターをノーブレーキでコーナーに倒し混む、薄い接地感と砂利の浮いた曲がり道。前に子供をカブの荷台に乗せたおじいちゃん。車は道を譲ってくれる。たまに降りて景色を見ていると遅かった奴にまた抜かれる。


 お寺のはるか遠くから、その観音像は見つけられた。山の上に建立されたそれは何十年もかけて作られたとか何だとか。

 偶像崇拝はブッダも下らないって言ってる筈だけどムスリムほど禁忌にはしていない。ま、仕方ないんじゃねえのって感覚だと思う。好きにすればいいんじゃね、俺関係ねーし、と。

 その草創期に修行するぞ派といらんやろ派に分かれた時も人気だったのはより厳しい方で、本人はやれやれ、とかそんなスタンスだったらしいし。

 日本の有名な(モンク)で一休宗純さんという人が、友達のお坊さんの家で仏像を膝枕に寝てて、俺の商売道具に何をするって怒られた話。その程度のものだ。

 駐輪場に停めて、観音像だけど


「ビッグブッダは何処だ」


 と聞くと親切に順路を教えてくれた。

 順路はおみやげ物やさんが90%を占めていて、最後まで登るといい景色だった。

 見上げる観音像もなかなか衆生を救ってくれそうな尊い顔をしている。

 昔の知り合いが仏像好きで、サブカル的な趣味で仏閣巡りしていたのを思い出した。


 鞄は重いんで置きっぱ、というかバイクに縛り付けっぱなしにしていたが幸い罰当たりな奴はいなかったようだ。鍵にワイヤの気休め、お守りが効いたのか無事だ。

 アイテムボックスもインベントリも買えなかった俺が持つのは例によって背囊(バックパック)、ではなくバイクの燃料タンクに吸盤で付けるいわゆるタンクバッグと、リアシートにくくるシートバッグという奴だ。形が想像つかなければ名称で検索すればすぐ出てくるだろう。

 インドでバイクを買って乗り回す予定なのでそうした。

 今回のツーリングはそのチュートリアルのつもりだった。


 馬はダメだ。

 異世界といえば定番だが、実際の話奴は遅いしいう事をなかなか聞いてくれないし、一日に25キロも歩くと疲れてしまう。まぐさもあげないとダメだし、水も飲むし面倒くさい。鋼鉄の銀馬、これに限る。


 シートバッグの方は肩紐を付けるとリュックになる便利な奴だ。前にカラビナでタンクバッグを付けて胴鎧のようにぶら下げている。

 そんな普段リュック形態で世を偲んでいるシートバッグさんもようやく面目躍如。ちゃんとスクーターの荷台にくくってある。

 だがタンクバッグはかわいそうにお買い物フックに引っかけられた。スクーターなんで仕方ない。

 こんなはずじゃ……。とプルプル震えながらほぞを噛んでいる事だろう。今夜は枕を涙で濡らすだろう。


 いい宿にした。

 ちゃっちゃと一周を終えて早めにスクーターを返すと昨日見つからなかった宿を発見した。

 ドミトリーだが欧米人ばかり泊まっていて、乳首が浮き出すTシャツの女の子たちが同室。だが男連れ。カップルとかハーレムの奴らばかりで、結局その膨らみを横目でちらちら見れただけだった。

 ハーレムの奴とか死んじゃえばいいのに。

 ハーレムの奴とか死んじゃえばいいのに。

 俺が枕を涙で濡らした。

※予告※

「もう、騙されない」そう誓ったあの日の思い出、歯軋りするほど悔しかった過去。

そして出会った日本人転移者は盗賊に全財産を盗まれていた。


次回『信じるチカラ』どの港へ向かえばいいかを知らぬ旅人にはいかなる風も追い風とはならないッ!

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