ブルジュハリファの塔
経典はドバイから日本に郵送した。
教科書だとか服だとか、重くて。
英語は何となく分かるようになった気がするけど雰囲気でそんなつもりになっているだけで、正確に意味を理解出来ている自信はまだない。
国名はUAE、アラブ首長国連邦。ドバイは観光地でお金持ちの国で栄えていてインドと比べて信じがたいくらい道も建物も綺麗で、ぶっちゃけ日本と比べてどうって事もないので本当に書くことがなくて困る。
確かに空港を出て歩道の芝生に野良七面鳥を見たのはインドの汚い野良牛や野良犬と比べて何と素晴らしいんだと思ったりしたし、オールドスークという市場で白いムスリム服とアラビアスカーフを買った時の白熱した値段交渉とか、その服が快適で一日中着ていたら現地人には変な顔をされて浴衣着てる調子に乗った外人みたいな感じだったんだろうとか、西洋人には見分けがつかないみたいで確かにヒゲ生やしてたけどでも慣れないアラビア語で話しかけられてこっちも喋れねーよだとか、ドバイモールの噴水が綺麗だったとか、ブルジュハリファの塔世界一高かったとか、けど結局登らなかったとか、モールに紀伊国屋があってその中にのotakuと書かれたコーナーがアラブ人に大人気だったとか、ガンダムだとかジョジョの限定資料集みたいなのも置いてあって俺の知らない最新のコミックだとかも山盛りだったとか、書籍検索用のコンピュータがあって蔵書の全部が調べられるので漫画家をやっている大学の先輩の名前を検索したがさすがにドバイの書店には置いていなかったとか、取り良せは出来るようなのでリクエストだけして帰ったとか、ちなみにタイのゲストハウスには後輩のラノベ作家の本が置いてあって、彼はプロでなろうのサイトでもいっこ書いていて俺はこんな所に来て何をやってるんだろう、こんなものを書いたって誰も読まないのにと焦燥感を募らせたり、マンガスシとかいう狂った名前の日本食料理屋があってセーラー服を着たおばちゃんが桜の木の下で寿司を握っていて例の赤のアラビアスカーフと白い伝統的なワンピースを着たまま一緒に写真を撮ってもらったらシャッタータイミングが悪く俺がおばちゃんのおっぱいを覗き込んでいる瞬間を撮られてしまったので顔本に載せたとか、宿の近くに日本食レストランがあって、そこの日本人が客も店員も感じ悪かったとか、ドバイくんだりまで異動させられて性格が歪んでいるからだろうと思ったとか、ラーメン一杯100ディルハムで換算すると3000円もしたけど食べずにはいられなかったとか、にもかかわらずクソ不味かったとか、日本人店員ではなくフィリピン人のスタッフはみんな美人で感じが良くて俺がムスリム服を着ていたので「チャーシュー入れてもいいんですか?」って聞かれたとか、一番安かったドミトリーのベッドに南京虫が出て恐怖したとか、その隣で住んでる出稼ぎのフィリピン人の女の子たちが可愛いかったとか、ドミトリー同室日本人バックパッカーの転生者が西洋人たちが飲んで騒いでるのがうるさかったみたいでキレて、英語でクレームを付けていたけど日本語訛りのせいか半分も伝わってなかったのがかわいそうだったとか、ちょうどクリスマスだったので隣のフィリピン人に豪華料理とケーキをおすそ分けしてもらっただとかあったけど、本当に退屈な日記みたいにしかならないのでここでエタったのも仕方ない。
ドミトリーで会った数人とも飲んで騒ぎはしたものの結局そこまで仲良くならなかったし、異世界情緒も手は込んでいるけどまさに作られた書き割りみたいな嘘くささだったし。
実際に行ったら確かに面白いんだけど、それを話したとこでっていう。
四ノ宮君という、師匠の知り合いで友達になった自転車乗りの旅人、一般にチャリダーと呼ぶらしい彼は現在四国で学校の先生をしていて余裕があればムスリムの服を送ってくれと顔本のメッセージで言われた。生徒に見せたいそうだ。
安請け合いしたのはいいが、それが面倒臭くて、ISISが推奨してるブルカという顔全面を覆う覆面、女性が顔を見せない為の奴でウルトラマンの怪獣が歩いているみたいで本気で不気味なそれが欲しいと言っていたがどこにも売っていなかった。
ヒジャブというのがザキアちゃんも巻いていた布切れで、ニカブが目だけを出す忍者のような覆面。観光客向けアラビア服店にはそんな本気の奴は置いてないんだと思う。
何件も探し歩いって、ニカブなら何とか見つけて手に入れた。郵便局までが遠くて、また手続きで手間取って、送料が90ディルハム、3000円近くもした。
その為にもう一度ATMで下ろす羽目になったのだが、それが後々に予算を圧迫する事になるとは、この時は気づきもしなかった。
ちなみに後で知った事だがこの荷物は日本まで来て住所不明で届かなかったそうだ。荷物はドバイに送り返されてしまったらしい。
四ノ宮君は電話でドバイの郵便局に問い合わせけど英語のアラビア訛りがきつすぎて諦めたそうだ。
徒労。
次は誰に何を頼まれても断ろうと決めた。
あとはアフリカの為にロンリープラネットというガイドブックを紀伊国屋で5000円くらいで買入してさっさとアフリカに飛んだ。
予告
約束の地、マザーアフリカへととうとう辿り付いた主人公、しかし空港でまさかの足止めを喰らい大幅な時間を費やす。職員との触れ合い、そしてサファリへの誘い。
次回『母なる大地』
どんな旅にも、旅人本人すら気付いていない本当の目的があるッ!!