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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
स्कूल जीवन(School Life)
32/35

ガネーシャとアラビアン


 バンガロールにいるインド人からはそんなに精神性を感じなかった。


 バラナシとかにいる人は悟ってるらしい。のちに聞いた話だが、リョーコさんが行った時小さな子供になんかいい話をされたらしい。


 ガネーシャを信仰している人が多く、安っぽいプラスチックの像が大量に売られている。

 ガネーシャは牙の折れた象の顔をした神様だ。現世でのご利益、特にお金が儲かる効能があるそうでとても人気だ。

 創造と維持と破壊の象徴、ブラフマーとかヴィシュヌとかシヴァとかは最高神でとても偉いんだけど具体的に何をしてくれるのか庶民にはよく分からないのでそんなに人気がない。


 原色の顔料を額に塗って、ヒンドゥー教徒はガネーシャの置物を飾る。


 シヴァの奥さん、パールヴァティが放ったらかしにされて暇だったので自分の垢でガネーシャという息子を作った。

 だが彼はふと帰ってきたシヴァに浮気相手だと勘違いされ首を刎ねて殺されてしまい、それをパールヴァティに詰められたシヴァは平身低頭で謝って、たまたまその辺を適当に歩いていた象の首を刎ねてくっつけ生き返らせた。


 ちなみにその牙が折れているのは、夜お菓子を食べながら歩いていて、こけて月に笑われたから怒って自分の牙を折って投げつけたからだそうだ。


 ガネーシャの祭りではそのお菓子が象の前に飾られる。


 何のこっちゃ。


 ヒンドゥー教の寺院はカラフルで屋根やら壁やらに沢山の彫像が彫られ賑やかというより五月蝿いくらいに飾り付けられている。

 そこにテントを張って、巨大な彫像を飾って、その前で踊り狂う。

 その像は下に車が付いていて動く。

 電線に引っかかったらしく、祭りの日は半日以上停電した。


 ヒンドゥーの寺院もだが基督教の教会もムスリムのモスクも街のいたるところに、何十軒も建っている。

 異教の施設には立ち入らない主義なので、一度も中には入らなかった。

 何を信じようが自由だ。俺だって訳の分からない工具やら、必要もない猛スピードを出せるバイクを盲目的に崇めているのだから似たようなものだ。


 バイクを買ってインド中をツーリングしようという当初の目論見の一つは、カードの問題で中止を余儀なくされた。

 それにインドの広大さを目の当たりにしてちょっと嫌になったというのもある。

 コルカタからバンガロールへ行くだけで、1400キロも距離があるのだ。本州を縦断出来る。これが電車でノンストップで40時間くらいだとして、バイクなら一体何日かかるやら。


 よし、じゃあレンタルしよう。近場をちょろちょろ走る専用にするのだ。

 と、バイクを乗り回しているアラブ人に聞く。


「月4000ルピーで借りれるよ」

「た、高いな」


 ゾブヒン君という背が高くていつもグラサンを掛けている彼はパイロットを目指しているそうだ。

 他のイエメン出身の生徒とは雰囲気が違い色白でいつも洋モク、マルボロを喫っている。確かイスラエル出身だと言っていたと思う。

 タレ目でビリヤードが上手くていかにもモテそうな感じの奴だった。


「じゃあ今度そのレンタル屋に連れてってあげるよ」

「遠いの?」

「ううん、バイクで15分くらいだよ」

「じゃあ歩いて行くのは厳しいか」

「ありえない、歩いたら1時間くらいかかっちゃうよ」


 もしかしたら人の運転する乗りものが嫌なのかも知れない。どうせ死ぬなら自分の運転で死にたい。オート力車はもとよりタクシーもバスも電車も船も、飛行機ですら本当は好きじゃない。他人の選択肢に命を委ねるリスクは極力少ない方がいい。


「でも外国人は気をつけないと。乗る時は、絶対にフルフェイスのヘルメット。それと長袖長ズボンを着ていた方がいいよ」

「ああ、事故とか危ないよね」

「ううん、違うんだ。

 警官さ。

 インド人の警官はすぐ捕まえようとしてくるんだ。

 ぼーっと走ってたらすぐ『ほらこっちおいでー』って。

 俺は肌の色が違うから目立つんだろうね」

「そっちかよ」

「うん、別に大した違反した訳じゃないのにさ。罰金2000ルピー、何回払わされたと思う?」

「警官は最悪だね。逃げたら撃たれるのかな?」

「多分ね。外国人だと本当に容赦ないんだよ」


 いままで中東だとかアラブなんて土地、エジプトやアフリカと混同していて、どんな異世界文化か分からないどころか認識の空白地帯だった。

 石油が出るくらいしか分からなかった。

 あとISISが出るくらいしか。

 分類では西アジアに入るらしい。


 でも実際に会ったアラブ人は面白かった。

 最後の方でやっと知ったのだがイエメン人が殆どだったらしい。


 イエメニーは優しい。

 嫌な奴や面倒くさい奴がいない訳ではないが、嘘つきのインド人と比べ物にならないいい奴ばかりだった。


 ただ、ムハンマド君が沢山いて、俺は名前を覚えるのを諦めた。

 最初はいちいちメモを取ったりして頑張ったのだが、いつの間にか卒業したりいなくなっていて無駄だと悟ったのだ。


 その中のどれかのムハンマド、ヒゲダルマのメガネ君が18歳で厨二病を発症していた。

 意識高い系で、プレゼンテーションの授業でスティーブジョブズについて話すような奴だ。将来はドクターになりたいそうだ。たしかムハンマド・ハサン君。


 彼は移動の為にいつも自転車に乗っているのだが、何と 指 ぬ き グ ロ ー ブ を、いつも嵌めている。


 あまりにもかっこよかったので、写真を撮らせてもらった。

 キメキメのポーズで何枚も撮らせてくれた。


 その2日後。


 彼は指を怪我して包帯を巻いていた。グローブの、指ぬかれている部分だった。

 頼んだらそれも嬉しそうに撮らせてくれた。


 超いい奴だ。


 厨二病でもいい奴なら全然嫌な気分にならないし、恥ずかしいと思うからこそ黒歴史になるのだ。彼にとっても俺にとっても、これは単なる青春の一ページだ。


 隣のPGにはアラブ人ばかり住んでいた。

 アラブ人はうるさいし言うことを一切聞かないので、うちのオーナーは出入り禁止にしたそうだ。

 いつも洗濯物を干していた屋上の手すりが一本取れていて、聞けばアラブ人が隣に飛び移って折ったのだとか。四階建ての家の屋上だからそこそこ高いのだが。

 元気な奴らだ。

 いつも隣からは夜遅くまで騒ぎ声が絶えなくて、その度にうちのオーナーがクレームを言う。


 隣には何度か遊びに行った。

 もちろん下の階段からだ。


 アフメット君は超真面目っこの敬虔なムスリムで、時間が来ると欠かさず床に敷物を敷いてお祈りを始めるちょっと暗そうな奴だ。

 アラビア語を教えてもらう代わりにひらがなの五十音表をノートに書いてあげた。

 ローマ字で補足を書いたものに、さらにアラブ文字で書き足していた。


 アボバゲ君というガリのやつは19歳で、シーシャを一緒に吸った。

 水タバコで、瓶の上に香り付きのタブレットを置いて火を点ける。グレープ味が人気だそうだ。

 ただ、それが1時間以上持つので、ちょっと休憩に一服というわけにはいかない。

 あまり学校に来なくてカメネヘンリで遊んでばかりいる悪い生徒だとムーサ先生は嫌っていたようだった。


 バシャイアちゃんという小柄な女の子が可愛かった。あごは割れていたけど綺麗な顔をしていて、手を抜いていない。

 ムスリムの、お姫様みたいな性格で傲岸不遜。見てて面白いけど近くにいると面倒くさい。

 身勝手なせいか小学校ではいじめられていたけど克服したそうだ。

 リョーコさんとザキアと同じPGに住んでいて、いつもバシャイアの自分勝手な振る舞いに振り回されたけどお姫様の言うことだから仕方ないかと諦めていたとか。

 例を挙げて説明したいが忘れたので割愛する。

 サレム君という弟がいて、暗い奴で気が合った。いつもお姉ちゃんと喧嘩ばかりで、でも毎回負かされるそうだ。ほとんど英語は喋れなかったけどお前の気持ちは分かる。

 サウジアラビアの学校に入学するために途中で帰ってしまった。


 他にもファザコンのムハンマドだとか名前は覚えてないけど沢山の友達が出来た。


 インドを去る時に別れが辛く感じられるほどだった。



 糞味噌にけなしたバンガロールの料理だが、最近新たな知見を得たので追加する。

 バンガロールは標高の高い土地だ。

 機内食が美味しくない理由をご存知だろうか。気密が保たれているとはいえ、高高度を飛ぶ航空機の中は気圧が低い。

 気圧が低いと舌や鼻が麻痺して、味を感じなくなるのだ。

 そのかわり地上で食べたらえぐみのあるようなものが逆に美味しく感じられる。

 トマトジュースが最高に美味しく飲めるのが機内食なのだ。

 そしてバンガロールで飲んで美味しく感じたのはトマトジュース。

 現地人は、多分標高の高さに慣れて舌も味を感じるように変化してしまっているのだ、それに四ヶ月じゃ慣れないだけだったという結論。



※予告※

祭り、神との対話。目に見えない全てのものに在る、本当に本当の事。価値と意味。


次回『花火』危険を冒して未知の世界を旅しようとしない人に、人生はごくわずかな景色しか見せてくれないッ!

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