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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
स्कूल जीवन(School Life)
28/35

同郷


 西遊記ってお話では猿とか豚が三蔵法師を守りながら天竺に旅する話で結果経典を持ち帰るだけだけど、史実では法師はアーナンダ大学という所で何年も勉強をしてから帰ったそうだ。

 作者は学園編なんてエタりそうだったので書かなかったんだと思う。

 実際、物語の最後の方はパワーインフレもさることながら、三蔵が各地の悪いやつに攫われて、それを助けるのがパターン化してきて正直飽きる。

 またかよ。

 てか三蔵ちょろすぎ。騙されすぎ。ちょっとは学習しろ。

 でも何かいろいろしてどうせ助かるんでしょ。

 それを様式化したら水戸黄門になる。

 各地の悪徳代官を毎度おなじみに懲らしめて回る、そんなのはおじいちゃんおばあちゃんの楽しみ方だ。

 芭蕉扇とか金角銀角のあたりでワクワクして、他にもお話がまだまだいっぱいあるんだと期待を残しておくのが子供の正しい楽しみ方だと思う。


 実際に異世界を旅をしていても、そんなモンスターはなかなか出現しない。

 華々しく戦ったり、命ギリギリで窮地を脱したり、そんな冒険を書けなくて本当に済まないと思う。


 しばらくは二人部屋に一人の、安穏とした生活が続いた。

 ある日口うるさいオーナーが「また日本人が来るぞ」と教えてくれた。

 学園に予約が入ったらしい。


 先例を思い出して少し不安になったが、すぐに気を取り直した。

 いくら酷くてもあんなモンスターはもう現れないだろう。

 あれをやり過ごせたなら、もう何が来ても大丈夫だ。

 それがとんでもなかった。


「出身はどこですか? ええと、都会じゃないですよね?」

「はぁー??」


 何おう?


 わろた。

 初対面で田舎者と決めつけられた。

 そりゃそうだけど。


「うん名古屋、っていうかその横の豊田だけど、そんなん言うくらいならどんな都会に住んでたんよ」

「大都会、大阪ですけど?」

「大阪のどこなん?」

「東大阪です」

「はぁ? 大都会ぃ? 東大阪大学とかあって大阪の東大、東の阪大とか言ってるあの辺りでしょ?」

「それは知らないですけど、はい」

「工業地帯で町工場がいっぱいあって、中央大通り沿いにずーっと行ったら石切とか奈良の方に続いてる、あの東大阪っしょ? 外環と中環とあるけどどの辺? 内環の内側は東大阪入ってないでしょ」


 大阪の環状線の話だ。

 内環の内側が都会で、中環までが普通で、外環まではまだ過ごしやすくて、その外側は田舎というイメージだ。堺の方はまた別だが。


「そうですけど名古屋よりは都会ですから。あんかけスパゲティとか無いですから」

「はぁー?」


 と、面白い奴だった。

 だからすぐに打ち解けた。

 名前をシン君と言う彼は着ている服がすごい。蛍光色に近い花柄蝶柄鳥柄のTシャツに、これもまた柄物のズボン。それがでも邪魔し合わずに成立している。お洒落さんだ。

 そんなのどこで買ったの? と聞くと、


「ZARAです、豊田には無いでしょうけど」

「東大阪にだってないやろ」

「んでも電車一本で行けますもん」


 悔しくてググったが、やはり豊田にはそんなお洒落服の店はないようだ。大阪は心斎橋と梅田にもあったはずだ。名古屋は知らない。


「でもねお前の服、目が痛いってよく言われるんですよ」


 うん。


 何着くらい持って来てんの、と聞いたら三着くらいですよなんて言っていたが、後に洗濯したりしているのを見たら明らかにその三倍はあった。


 それから少しして、カナトくんという音楽一家らしい青年も入獄して来た。

 ブラーのTシャツを着ていて、洋楽の話で盛り上がった。

 オーナーは彼にも色々教えてやってくれと俺に任せた。既に牢名主みたいな扱いだ。


「ここのオーナーうるさいから、ドアとか静かに締めないとすぐ文句言いに飛んでくるんよ、気をつけて」


 二人とも旅行経験が長いらしく、日本人と海外で会った時に必ずする会話が邪魔臭いという話になった。


「今迄どこに行きました? とか必ず聞かれるでしょ、あれ」


 ちょっと考えていいアイデアを思いついたので言った。


「番号にしたらいいんじゃない?」

「は?」


 アメリカンジョークでこういうのがある。

 牢屋に入った新人の囚人が、先輩たちが数字を言って笑い合っているのを聞いた。

 何なのそれ、と尋ねると、


「俺たちが言うのはどうせ毎回同じジョークばかりさ。もう全員がそれを覚えちまった。何度も同じ事を言うのが面倒くさくなったから、番号を振って言ったことにしようと決めたんだ」


 新人はなるほどと感心して、


「じゃあ自分も何か言っていいですか?」


 と許可を得ると、


「46番」


 と言った。すると何故か今までにない程の大爆笑が監獄の中に響き渡った。


「今のは何てジョークだったんですか?」


 暫くしてようやく笑いが収まったあと、そう新人が聞くと先輩たちは、


「傑作さ、今のは新作だったんだ」


 ……というように、「今迄どこに行きました?」と言うのを1番、これからどこに行くんですかを2番。「××国にいったよ」とか「××国に行くよ」言うのを各国の国際電話番号で表せば、省略できるんじゃないかと提案したのだ。

 「ご出身は?」は0番にすれば国際対応だって可能だ。


「例えば日本は+81番だし、アメリカは+1番だったかな。インドは+46? ググればすぐ分かるよね。+271番とか知らない番号なら、『それどこでしたっけ?』って新鮮な気分で会話出来るっしょ」

「うん」

「ゼロ、プラスエイティワン。

 ワン、プラスフォーティシックス。

 ツー、プラスツーハンドレッドセブンティーワン。

 それだけ言えばだるい会話が三行で終わるよ?」

「うん」

「せやね」


 あまり響いてはいないようだった。


「最初はなかなか通じないだろうけど、4年後5年後にはそれが国際標準になるようにこの三人から、プラス46(インド)から広めて行こう!

 白人とかにも怖気付かないでNo.ゼロってがんがん質問して行こうぜ!!」


 と力説したらある程度の賛同は得られたと思う。

 どこか地球の最果てで、誰かとそんな会話になる度に、各自でこの話をして広めて行くのだ。

 異世界旅行が少し便利になる。

 読者様も転移する事があれば是非。


 カナト君は何を言われても動じないタイプで、ドアなんかいつも乱暴に閉めていてその度にオーナーが飛んで来るのだが、「あー、分かった分かったごめんごめん」とか言うだけで結局何も改めない豪気な奴で、少しハラハラした。


 で、3日もしないうちに彼にインドちゃんの例の洗礼が起こった。そして何故か俺も再発して一週間寝込んだ。

 俺は直前に食べたメインロード沿いのチキンロールが一番怪しいと思っている。何故かいつもと違ってまずかったからだ。

 カナト君はスーパーのアイスを食べた所為じゃないかと言っていた。

 インドではよく停電が起こるので、冷凍庫のアイスはしょっちゅう溶けたり凍ったりを繰り返す。その度に細菌が繁殖して汚染されるのだそうだ。

 熱もあったし、下痢と嘔吐が止まらないカナト君と俺。何故かシン君には伝染らなかった。で、トイレで吐いていると背中をさすってくれたりする。

 ジュースだとか水やクッキー、カップヌードルを買って来てくれる。

 めっちゃいい奴だ。

 しかも払うと言っても受け取らないので無理矢理机の上に置いておいた。


 インドの病気はインドの薬が一番効くそうだ。


 三種類の抗生物質を練り込んだ上に各種ビタミンと、更に乳酸菌まで入っているという乱暴な薬が薬局に売っていた。


 インドは国際的な薬の特許条約に加盟していないそうで、ジェネリックでない新薬でも何でも激安価格で製造販売出来るという。


 この人数の人間が、この劣悪な環境の中で病気で死に絶えたりしないのは、安い薬が手に入るからに間違いない。

 バンガロールはかつて黒死病(ペスト)で全滅しかけた土地らしい。

 わずか数人の生き残りが何とか外に連絡して、WHOだかがようやく薬を届けた頃には死屍累々の山だったそうだ。


 薬に高いロイヤリティを掛けられてしまう条約などに加盟してしまえば、それは間接的に貧乏な人を殺すのと同じ事だ。

 インドに国民皆保険制度なんてない。

 そんな国家の殺人を受け入れられるほどインドの貧乏人は弱くないのだ。


 医学生問題に筆を割いた所為でで書かなかったが、ちょうど入学すぐの頃にバンガロールで大規模な暴動(ストライキ)が起きて街が燃やされた。

 水問題で、愛媛と香川みたいな話らしい。

 上流にあるバンガロールが下流のタミル地方に水を送るためにダムを解放するようにという採決が裁判で決められ、それに反対したバンガロール人が暴れた。

 忘れたが何とかいう日本人のガス抜きのお遊びみたいなデモじゃなくて、警官が死ぬくらいの奴だ。

 でもインド人は慣れたもので、日本での台風警報くらいの扱いだ。

 学校が休校になって先生が注意を喚起する。

 だいたいインドと言うのは治水が悪くて、その水の殆どもさとうきびだかの農業に非効率に使われて80%以上を無駄にしているそうだ。

 うどんを茹でる為の水とは違って命に関わる程の話ではない。

 それでもそれだけの騒ぎなのだから、薬を値上げなんかしたら政府はとても治安なんて維持出来ないだろう。


 ガンジーの標榜した非暴力非服従の理想は血で血を洗う戦いの結果生み出されたものだし、インド人が基本的にどんな喧嘩になっても手を出さないのも、ヘイトを稼ぐといとも簡単に命を奪われるからに他ならない。

 ターバンを巻いた例のインド人のステロタイプ。シーク教徒が弾圧された事がある。

 マハトマガンジーとは関係のない、女性で同姓なだけのインディラ・ガンディー大統領。彼女はパキスタンのように独立を求めて反乱を起こしたシーク教徒の過激派を軍を出して虐殺する。


 結果、暗殺。

 4ヶ月後に、シーク教徒の警護警官から撃たれたそうだ。


 インド人のバイタリティは半端ない。


 80ルピーくらいで二週間分買えたその子指くらいの大きさもある黄色い薬は、効いたのか分からない。

 寝込んだのは一週間だった。


 カナト君は旅の途中で寄ってみたというスタンスで、ここには1ヶ月しか滞在しないという。1ヶ月分の学費を払って一週間寝込むという、可哀想な状況だった。


 そして安全な食べものがないと、毎日パッケージに子供の顔が描かれた市販クッキーばかり食べていた。


「これが一番うまいっすよ」


 確かに。

 彼は1ヶ月程で卒業して行った。最初は次はインドの別の場所を巡ると言っていたが、このあたりの料理のあまりの不味さと不衛生さにこの国に絶望してタイに戻る事にしたそうだ。



 風邪で寝込んでいる間に日本人の女性がまた二人入ったらしいとシン君に教えてもらった。だがクラスが違ったので治っても殆ど会わなかった。滞在も1ヶ月だと言う。

 1時間目と2時間目の間に、生徒はほとんどベーカリーに寄る。お菓子だとかパンやエッグチーズロールで小腹を満たす為だ。

 ベーカリーで横の窓からチャイを買うのだが、その時に出すのが楽なチャイを店主は優先してくれる。

 結果、店内で並んでいた彼女らを横入りする形になって何回か文句を言われたくらいだ。


「あー、ずるーい」

「インディア・スタイルっすよ」



 で最初からいた日本人女性。リョーコさんと言ってこの人は見た目は全っ然そんな事ないのだが、これが冒険家でジャングルでバンジージャンプをこなしたり経験豊富だった。

 少し年上だと言う事だが年齢は最後まで聞かなかった。

 同じくらいに見えたのだが。

 フィリピンで英語を習っていたが合わなくてインドに変えたらしい。

 韓国資本の英会話学校がフィリピンには腐るほどあって、一月20万円ほどで英語が習えるそうだ。全寮制で食事付きで、朝から晩までみっちりと勉強するので、それが合う人にはレベルアップにつなががるそうだ。そうコルカタで会った日本人が言っていた。


「私のところはもうちょっと安かったですけどね。昔だったからかな、日本人相手の電話対応(コールセンター)の仕事があって、それを何時間かすると割引になるっていう」


 そこが自分のペースに合わせて貰えなくて挫折したそうだ。


「私馬鹿なんで英語の単語とか全然覚えられなくって」


 と常に極端なくらい謙遜するが、同じ授業で俺が詰まった時「えーと、これって何て言うんでしたっけ」と聞くと即座に適応する英単語を教えてくれる。


「毎日予習しないとついて行けないんです、本当に」


 とぼけたふりをしてなかなかの曲者だと思った。

 他にも東南アジアはいろいろ巡って、俺の行かなかったアユタヤ遺跡なんかも見に行ったそうだ。


「どうでした?」

「野良犬が怖かったです」


 タイの犬は狂犬病のリスクが高い。

 インドでは政府が狂犬病の注射を全部の犬にしているので安全だ、とムーサ先生が太鼓判を押してくれた。

 インドはそんなに危なくないらしいと聞いて、それからはわんこを撫でるのに躊躇しなくなった。(だが今、気になって調べたのだが、毎年二万人で世界一の死者だそうだ。大嘘だった)

 世界でも危険な地域はルーマニアだとかタイ、南米らしい。

 政府が腐敗している国に狂犬病が蔓延している場合が多いと、師匠に教えてもらった。ルーマニアでは犬ではなく主に蝙蝠が媒介するのだそうだ。バンパイアの伝説なんていうのはきっとそこから来ているのではないだろうか。


 で、その危険なタイで夜中に何十匹もの野良犬に囲まれてしまったのだそうだ。


「よくご無事で」

「本当に怖かったですよ、周りじゅう囲まれて吠えられて。

 私、通じるはずないのに日本語でごめんなさい、ごめんなさいって何回も謝っちゃったんですよ」

「いやタイ語でも絶対通じなかったでしょうけどね、それ」

「私何にも悪い事してないのに、何でこんなに謝ってるんだろうってちょっと思いました」

「そりゃあそうでしょう。

 噛まれずに済んだんですか?」

「それで、声を聞いた近くの人が助けに来てくれて、木の棒を持って追い払ってくれたんです。本当にもうダメかと思いました」


 じわじわ来る。

 海外旅行をする友達はあまりいないそうで、ほとんど一人で廻っているという。

 次はアフリカに行く予定なのだとか。


「いいっすね、僕もインドのビザが切れたら次はアフリカ行けたらなって思ってるんですよ」

「サファリに行きたいんですけど、ナイロビってすごい治安が悪いから心配で。よかったら一緒に行きませんか」

「んーじゃあ予定が合えばそうしましょうか」


 風まかせで動いているので、口約束だった。

 これがその後にとんでもない事態を引き起こそうとは、この時は誰も知るよしもなかった。


 それともう一人、4ヶ月後に俺が学校を去る直前に日本人が入ってくるのだがそれはまた後に記そう。



※予告※

古くは三國志や水滸伝の時代から受け継がれてきた手法、群像劇。

ケモくんすごい!


次回『亜細亜人』ウィンディズブロウィ(略ッ!)

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