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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
स्कूल जीवन(School Life)
27/35

めしまず

タンザニアにはWi-Fiがなかったので更新出来ませんでした。書き溜めは出来た。


 バンガロールは飯がまずい街だ。


 基本的に味に興味がないのだと思う。


 こんな都市は日本にもある。


 何を隠そう俺の故郷、愛知県だ。

 名古屋近辺といった方が地理に疎い人には分かりやすいかも知れない。尾張だとか三河だとか、あの戦国武将の天下人が三人くらい出た場所だ。


 そこが多分地域的に飯が不味い。


 美人を全員、まず信長が居城安土の方に連れて行ってしまい、次に秀吉が普通の人を全員桃山城に連れて行ってしまい、何とか見るに堪える人を家康が全員江戸に連れて行ってしまったという俗説があると尾張出身の友人から聞いた事がある。

 まさかそんな事はないにしても、料理が上手な人については本当にそれに近い事が起こったのではないだろうか。


 奴らは、何にでも味噌だとかコーミソースをどばどばじゃぶじゃぶ付けて掛けて食べる。

 その味噌さえ掛かっていれば満足だし、味噌の味しかしなくなったしょっぱい食材を美味しそうに食べる。

 おでんにも、味噌を付けて食べる。出汁を入れない白湯で茹でた大根やコンニャクに、味噌をつけて食べる。味噌田楽という別料理だと知るまで、若い頃はそれが普通だと思っていた。串に刺したり食べやすい大きさに切ったりもしていない、ただゴロゴロ茹でただけの奴だ。

 あとコンビニでも中部地方に限って出汁のおでんに味噌を付けてくれるが、それはそれでどっちつかずの邪道だと思う。


 味噌カツも駄目だ。カツにはコーミソースが一番合う。


 名駅前のちょっと行ったところにあるお洒落な居酒屋で、出てきた肴を食べて激怒した。

 まず冷や奴が、木綿だった。

 何かロハスな気分でも演出したいのか、生の木綿。ボソボソして食えたもんじゃない。麻婆豆腐だとか焼いたりしたら美味いのに、生。

 土手焼き、という名称は方言だろうか? もつを味噌でよく煮込んだ例の鍋を、名物と言って流行らせようとしているらしい。

 二十歳前に故郷を出たので、地元の居酒屋で昔からそんなものが出されていたのか分からないが、記憶の限りでは見たこともない。

 最近新しく名物にしようとしてる捏造郷土料理の臭いがプンプンする。


 それがゴムのように硬すぎて噛み切れない上にしょっぱ過ぎる。味噌も何をトチ狂ったのかくどい赤味噌で煮込んである。

 何を間違えたらこんな物が出来上がるのか。八丁味噌押しか。

 赤味噌にしても浅蜊の味噌汁にでもして三つ葉なんか乗せたら上品な味になるのに、何にでもとにかく入れればいいという物ではない。それは馬鹿のする事だ。

 大阪で、よくおばちゃんがやってる汚くて小さな居酒屋。駅前なんかに沢山あるけど、どんな店に入ってもこんな産廃は出てこない。

 幾つか注文してした全部が全然ことごとく美味しくなかった。

 なのに周りの客は満足している。

 お皿や食器類も店構えも今風でシックに纏まっていて、値段も決して安くはない。雰囲気で来ているに違いなかった。

 でも食事というのは雰囲気を食べる訳じゃないのだ。


 美味しい物を食べた事のない人は、美味しさという物が分からない。


 また別の時、転移前に荷物を片付けに帰郷した時、刈谷インターだったかで、もつ煮込みをごはんに掛けた料理を名物料理と言い張って売っていた。


「絶対やめた方が良い」


 俺はやめておいたが師匠が頼んでしまった。一応止めたのだが色んな意味で冒険が好きなのだろう。


「どうしてもっていうなら仕方ないけど、お勧めは出来んよ」


 転移の準備で大阪から荷物を引き払った時、手伝いで師匠にも付いてきてもらっていたのだ。トラックは2トンの転移トラックを借りてドライブ気分だ。

 とにかくこのあたりの土手焼き、もつ鍋はまずい。

 案の定、食べ残していた。


 歴史を調べてもらえればすぐに分かるが、そもそも『ういろう』が捏造名物料理なので罪悪感も抵抗も無いのだ。二匹目、三匹目の泥鰌を狙っているに違いない。品のない話だ。


(余談だがアフリカでは日本人は蛇を食べるとテレビでやっているらしい。

 嘘をメディアだとか、それを利用した誰かが捏造するのはよくある。

 あんかけスパゲティなんて地元に住んでいる時は存在すら知らなかった。小倉トーストもだ。餡子とホイップクリームを挟んだ菓子パンならあった。あと手羽先は割と美味い)


 そういえば若い頃、親友と絶交したのもありえない程まずいラーメン屋に連れて行かれたからだった。

 名駅前、その親友の彼女が強引に選んだラーメン屋が糞だった。

 もやしが山のように掛かっていて、ラーメンなら何でも食べられると豪語していたその親友も「まずい」と言った。腐ってたんじゃないだろうか。

 それでも平気で営業しているところを見ると、このあたりの人が見た目のインパクトや満腹度だけで、味なんてどうでもいいと考えているのは間違いない。

 客がそんなだから淘汰されないのだ。


 また別の時。

 九州出身の友達と、チェーン店のラーメン屋に入った。中部地方によくある、だが他の地方では見ない奴だ。


「九州ラーメンといえば豚骨。その中で味の基準点みたいなラーメン屋がここだ」

 と昔、連れて行ってもらった事があって、その店はとても美味かった。


 だから俺の地元の基準点はここだよ、と主張したかっのだ。

 酷いものを食べさせることになるからと、そこは俺が払った。

 で、完食して出てきてイギリスの話をされた。


 イギリスでは健康のためと言って、ビール酵母をドロドロにしたペーストをパンに塗って食べるのだそうだ。

 それはとてもまずいという。

 イギリス人の誰に聞いてもそれが美味いと言う人は一人もいない。

 何でそんな物を塗るのか。


 味の優先順位が低いのだ。


 不味くても健康になるらしい、そう宣伝されているから売れるのだそうだ。

 そんな感じなのかな、と言われて、美味しいものがこの世の中に存在すると知っている人間のパーセンテージが低いんじゃないかなと答えた。

 だから競争原理も何もない。

 餌を与えられてそれを消費する。

 健康にいいと言われてそれを食べる。

 腹が膨れればそれで満足。それ以上は贅沢だ。


 物を食べてその美味しさに感動するような経験を、一度もしないで生きている人々。

 別にそれは勝手だし、それこそ蓼食う虫も好き好きだ。

 俺も最初は餌を食べて腹が膨れれば満足という、そんな日々を20年以上続けていた。ものを食べる感動を始めて味わったのが大学で大阪に出てきて暫くした頃で、料理を食べて幸福な気持ちになる場合と、そうじゃない場合がある事に気が付いた。


 最初は何でなのか分からなかった。


 考えて考えて、それは美味しいからなのだとやっと気付いた。


 これが、美味しいっていう事なのか、と。


 評判や知名度、店構えや立地、歴史、値段。

 そんなものと一切関係のない、直立した評価基準でおいしさというものが存在するのだと始めてそこで気付いたのだ。

 詩は歴史に垂直に立つという言葉がある。

 心にその瞬間だけ響いて、何も残さない。

 そんな幸せが存在するなんて。


 話が逸れたが、しかし、そんな味の貧しい場所で産まれ育った人間をして、それにも増して、バンガロールの飯は酷かった。

 いくら不味いとはいえ、日本では吐くほどの不味さの店に出会ったのは天王寺の蕎麦屋と前述の名駅近くのラーメン屋の二軒程だけだ。


 それが、全然マシに思えるのがこの街だった。

 インドに全国まずいもの連盟みたいな組織があったら、バンガロールのバナサワディーという街は是非一押ししたい。

 ここでは殆どの店で吐いた。

 常に吐き気の戦いだった。

 拒食症になりかけた。


 ビリヤニ、チキンビリヤニ、ライス、チョーメン、名前を忘れたけど何か巻いた奴、チキンバーガー、ベジ(野菜)バーガー、チキンロール、エッグチーズロール、イドリー、ゴビマンチュリアン、あとモモ(餃子)、ベジ(野菜)モモ。


 この中で食べるに足るものはほんの二、三種類で、それも店によっては不味い。


 ビリヤニは炒飯みたいな作り方だ。

 全然切れない包丁で野菜を力押しで細切れにして、ご飯に炊き込んだ後炒める、それだけだ。

 不味そうな汚い人参と、紫色の玉ねぎと、しなびたキャベツが主なメンバーだ。

 それにマサラをごっちゃり入れる。

 食材が腐っていても気付かないくらい入れる。殺菌出来るくらい入れる。

 いくら高温で炒めたとして、菌は死んでも毒素は残る。あと不味さも。

 それでもそれが何とかなってしまうくらいマサラを入れるのだ。

 むしろマサラさえ入っていれば満足なのだ。


 チキンビリヤニは同じものに蒸しチキンが入る。ご飯と一緒に炊く場合が多い。

 炒めていないのがライス。チキンライスという選択肢もある。

 だが、何で白飯にしないのか。インディカ米には臭みでもあるのか。


 ご飯の代わりに延び延びの中華麺を使った焼きそばがチョーメン。これがまずいのは前にも書いたと思う。


 名前を忘れたけど何か巻いた奴は、好きな人はまあ食べられるらしいが、俺はダメだった。出来損ないのホットケーキに辛い具を入れてオムレツみたいに巻いた料理だ。吐くほどではないが中に詰まったマサラも美味しくないし、無駄に辛いし、変な白いカレーみたいな奴を付けて食べるのだがそれも全然食欲をそそらない味だった。

 マサラドーサだった。



 チキンバーガーは、想像してみてほしい。牛肉のミートパティがヒンズー教的に駄目なので、チキンのミンチを使っている。

 そう、食べられない程じゃない。

 バンズがバサバサなのはご愛嬌だ。


 ベジバーガーは意外といけた。

 バンズの上下に三種類のマサラを塗りたくって、間に豆を挟むのだ。豆と言っても茹でたり蒸したりした奴じゃなくて、日本で節分の豆撒きで投げるみたいなカリカリの炒り豆。

 安かったので買って、意外と吐くほどの味じゃなかった、まあその一度きりだったが。


 インドにはベジタリアンの数が多い。日本では変わり者扱いされないでもない菜食主義が多数派のインドでは、肉料理を置いている店でもどちらかというとベジタリアン寄りだ。

 みんな大好き餃子、インドでの呼称モモにも、ベジモモというのがあって皮の中に野菜しか入っていない。


 クソ不味い。


 日本の餃子は半分くらい野菜が入っている所が多いので、大丈夫だと思ったのだが駄目だった。

 ちなみにうちの家庭料理では、僅かばかりのニラだけを入れたほとんど豚肉ミンチの餃子がおふくろの味だった。あまりうまいものの食べられなかった幼少期、中でも好きだったものの一つで、ソウルフードと言っても過言ではない。

 初めて店で野菜の入った餃子を食べた時は、騙されたと思った程だ。


 豚も牛も基本的にないので、インドのモモはチキンのミンチが入っている。中身はほぼ肉だけだ。似てない事もない。それを餃子のように焼かずに、蒸したのがモモだ。


 醤油もマハトマガンジーロードの近くの国際食材を置いてるスーパーまで行って買って用意した。赤と緑のカレーを付けて食べるインド式は、駄目だ。

 餃子に必要なのは醤油、ラー油、酢、その黄金の三角形なのだ。

 それとビールだ。

 そこまで用意したモモ、いや餃子が、事情で食べられなくなってしまった。

 店員にキンタマなんて言葉を教えた馬鹿は本当に死んだらいいと思う。

 最寄りのベーカリー以外にもモモを置いている店はあったが、高かったり遠かったりハエが充満していたりであまり頻繁に足を伸ばそうと思える場所ではなかった。


 オリオンモールという、ショッピングセンターが徒歩10分の所にあり、その屋上のフードコートにはドミノピザだとかマクドナルドが入っている。

 入り口の警備が厳重で、聖剣e-goだとかタバコやライターは全部預けないと入れない。

 そこは高い。ローカルフードの五倍から十倍位の値段がする。

 味は、それでも食べられない事はないレベル。高価でモモやラーメンを売っている中華のお店もあって、まずいけど吐きはしないレベルの中華料理が食べられる。


 スープに入ったラーメンというのが本当に少なくて、殆どが伸び伸びの焼きそば、チョーメンでそれも吐くぐらい不味い。

 というか実際吐いた。お金を払うと逃げるように店を出て、オーバーパスの支柱の影で吐いた。線路近くのあの店は最低だった。

 伸び伸びで塩気のない太めのひやむぎみたいな麺が入ったスープヌードルは、だからそれでも貴重な、マシな方だった。


 そのオリオンモール手前にあるビリヤニセンターという店。実は最初に見つけたのがここで、ビリヤニが50ルピー、炒めてないライスが30ルピーと安い。

 ビリヤニやライスに、置いてあるカレーを自由に掛けて食べる。

 二種類あって、辛いカレーともっと辛いカレー。あと白いドレッシング漬けの紫たまねぎがかけ放題。


 スプーンはくれない。


 みんなカレーでべちゃべちゃの手で、ウンコを拭かない方だから大丈夫! みたいな感じでその手もベロベロ舐めながら食べるのだ。

 これが普通なんだ、標準なんだと言い聞かせてよく利用していたのだが何度か吐いて、やっぱりこれ不味いんだと再認識したので行くのをやめた。

 パロッタ始めました、と書いてあってその後で一度だけ行ったが、付けるカレーは同じ味でやっぱりダメだった。たまに茄子みたいな食感の野菜が入っていて、評価出来るのはそれくらいだ。それだけ僅かにマシだった。


 別の店では同じ料理が似たような味で90ルピーもしたし、また別の店では料金こそ一緒だが無数のGが床やらテーブルを這い回っていた、その中では一番まともだと思ったのだが。



 凶悪なのがイドリーだ。見た目は美味しそうな蒸しパンだ。しかし米粉を使っていて、なんと酸っぱい。


 なんじゃこりゃ、としか。


 三食全部カレーではさすがのインド人も辛いらしい。朝はチャパティだとか、このイドリーを主に食べる。

 イドリー専用の鍋というのがあって、日本ではなかなか手に入らないしあっても高い。

 南インドでは、それが大阪のたこ焼き焼き器のような感じで各家庭にある。

 蒸す為の水を入れる鍋パーツと、円板型UFOのような形に成形するパーツがあって家庭用と業務用で大きさが違う。

 練った米粉をサイズに合わせて乗せて蒸す、その為の便利な工夫がイドリー鍋にはたくさん込められている。


 もっと何か別の方向で努力せえよ、と叫びたくなる。


 酸っぱくて白い、粉っぽいそれをビショビショの豆とかのカレーに浸してニコニコとインド人はイドリーを食べる。

 でもそれ、美味しくないから!



 ゴビマンチュリアンは見た目は鳥の唐揚げに似ている。でもベジの店に売っていて、何だろうと頼んだら中はカリフラワーだった。マサラ餡掛けだ。

 当方、『味』が欲しいのだが? 足りないのはスパイスじゃない。

 さらに、たまに歯が折れそうなくらい硬い揚げカスの破片が入っていてその度にイライラした。


 野菜なんかではなくない、本当の鶏の唐揚げもあるにはあった。

 骨つきの唐揚げ。というか小麦粉よりマサラ粉の方が明らかに多い真っ赤な奴が、屋台で10ルピーで売っていたので買った事もある。

 楽しみに家に持って帰って食べた。

 骨。それにマサラがまぶしてあるだけで、肉がなかった。


 ご冗談でしょう?

 残った大量の骨に問いかけたものだ。


 味わい方の違いでおいしいものもまずく感じる事もある。

 例えば日本では柔らかい霜降りのお肉が人気だが、他の大体の国で肉は硬い。それをよく噛むと、じわじわ味が染み出してくるスルメのような味わい方で楽しむものなのだそうだ。

 だがこれはそんなレベルを超えている。



 インド旅行者のブログで、なんとシャトーブリアンが食べられる店がマハトマガンジーロード近くにあるという。

 ブログでは絶賛していた。

 牛肉がほとんど食べられない国で、まさかそんな高級料理がたったの1000ルピーで食べられるとは。

 バンガロールは発展したIT都市なので、外国人向けにそういう店も少数だが存在する。

 シャトーブリアンを知らない貧乏舌の皆様のために説明すると、テンダーロインとかサーロインとかいろいろある中で、一番柔らかい部位だ。

 腰の辺りで、牛が筋肉を一番動かさない所なので極上の食感なのだ。

 牛一頭で1〜2キロしか取れない貴重な高級品、日本で食べたら2万円は下らない。

 それが1,000ルピー、1500円ちょい。

 これは行くしかないでしょう。


 行った。


 実はそんな高級料理は俺も実は初めてだ。

 ミディアムレアで頼んだ。

 350グラムの、少なめの奴を頼んだ。

 それでもでかい。凄いヴォリュームだ。

 出てきたものを見ると、実際子供の腕くらいはある。

 期待に胸を膨らませて一口。

 何これ。

 はあ?

 こんなもん?

 言うほど柔らかくもないし、噛み締めてもそんなに味もしない。かと言ってジューシーでもなく、脂も滴らない。


 ブロガーが嘘つきで、インドの牛は最高級部位でも不味いのか。

 俺が、高級料理の味が分からないバカ舌なのか。


 どっちでも構わないがそれは全部食べ切れなかった。

 多すぎたのもあるし、延々と味のないスポンジを噛んでるみたいな感じだった。

 ソースも選べてマッシュルームソースにしたのだが浅薄な味。

 俺さあシャトーブリアン食った事あんだぜ、って低脳な自慢が出来る位のものでしかない。


 味ではなくスパイス、という味覚や食文化の違いがメイン。

 限界ギリギリまで不潔だというのがサブ。

 予備は俺の味覚が保守的な所為だろうか、敗因は。

 ケチって安い店にばかり行っていた所為だけではない。


 マンゴーが黄色くなると医者が笑う、という諺がインドにはあるという。

 英語の学校の先生が教えてくれた。

 柿が赤くなると医者が青くなる、という日本の諺と対照的に、インドでは熟れたマンゴーを食べて食中毒の患者が続出、結果医者の笑いが止まらなくなるのだそうだ。

 そういう文化の違いは如何ともしがたい。


 とにかく殆どが口に合わなかった。


 タイにいた頃が懐かしい。殆ど全部がおいしい。吐くなんて事は一度も無かった。戻ったらきっとパクチーだってバケツ一杯食べてやる。

 カレーは好きだし未知の味は平気な方だと思っていたのだが、自分を過大評価していた。


 高くて何とか食べられるものか、安くて食べるのもがキツいものか、その二種類の究極の選択だ。

 この後に書く数個のレストランが無ければ修行僧か即身仏みたいになって本当に浄土に招かれていたかも知れない。


 メインロード沿いのチキンロール屋は割とマシだった。

 ケンタッキーで売ってるような、唐揚げを焼きたてパリパリの薄いパロッタ? で巻いた奴が30ルピーで食べられる。マサラが振ってあってスパイシーなのに一回当たって一週間くらい寝込んだ。


 学校の最寄りベーカリーで割高40ルピーで売っているエッグチーズロールは美味かった。

 まず、マサラが入っていない。

 それだけで称賛に値する。

 学園の生徒はアラブ人が多いので、彼らの要望が通ったのだろう。マサラが入っていない料理はどこを探してもこれだけだった。

 皮に包まれた優しい味の卵焼きとチーズの塩気が絶妙なコントラスト。

 下品な日本語の単語を連発するのを止めない馬鹿店員が適当に作っていてサイズもまちまちなのだしたまに冷たいのだが、これだけは朝食として欠かせない。毎朝一個か二個は頼まなければ午前の授業を空腹で過ごす羽目になる。


 もしくはここ。少し遠いので早起きして行ったメインロード添い、オリオンモールの向かいに毎朝店を出している露天のカレー屋がある。

 そこのは人参とジャガイモと玉ねぎの入ったほとんど日本のカレーで、プリという揚げたチャパティみたいな奴で掬って食べる。

 ここは次点で美味い。食べるに値する。ライスもあったがプリの方がうまい。横でおばちゃんがひたすら生地を丸く広げて揚げている。

 たまに牛が、食器を洗うためのバケツに首を突っ込んで水を飲みに来る。

 おっさんがおばちゃんに手を伸ばして、多分叩く専用の太い木の棒を取ってもらう。

 飲み終わった頃を見計らって、その棒で思いっきりぶん殴る。


 —— 牛は、インドでは神様なのですが、インドでは神様を殴ります ——


 それを見て笑えるし、カレーも30ルピーで安い。プリはなんと揚げたてを4枚も乗せてくれる、なかなかの店だった。

 ただ、朝からこれを食べると油っこくて昼までもたれる。


 それからいつも昼を食べる店があって、 何と、置いてあるのが神々しい白飯。あごの割れた受け口のおっさんがしゃもじではなく薄いプラスチックのお皿でステンレスのプレートに適当によそい、それにカレーをぶっかける。

 その味が毎日違って、どれも美味い。赤くて辛いトマトベースにオクラの入ったものや、ナスに似た野菜の入った緑っぽいカレー。名称は知らない。

 たまにトウのたったオクラを使っている日があって筋だらけで噛み切れないという事もあるにはあったが、合格点を下回ることはない。

 あと直径、20センチくらいのでかいポテトチップスみたいな奴と、野菜の揚げ物を二つ入れてくれる。

 半分くらい食べるとそのカレーがなくなるので、残った白飯に辛いスープを追加する。


 それが何より絶品だった。


 見た目は犬の餌だが、器もゴミバケツの蓋みたいな入れ物によそわれて出されるそれが、この近辺ならぬバンガロールで最高に美味なる料理だった。


「ごめん明日休みやねん」


 とか、毎日通っていたら受け口の多分店長が教えてくれるようになった。いい奴だ。

 心の用意もなくここが閉まっていると地獄だった。

 グリーンカフェというバナサワディー駅で降りたクークタウンのメインロード沿い。ローカルフード店で、一食30ルピー。

 激安。

 しかもここのだけは、イドリーですら割といける。今でもまた食べに行きたいと思う店だ。

 朝と昼しかやっていないので、行かれる際はご注意されたし。



 ナン。

 プリ。

 パロッタ。

 チャパティ。

 あとなんとかいう奴があって、無発酵パンに分類されるらしい。

 インドでは米に匹敵する主食級の奴らだ。

 小麦を練って焼いただけの、ピザの下に敷いてあるような奴だ。

 専用の炉が必要なナンは、置いてある店が近場では二軒位しか無くてそんなに安くもない。

 バターナンや、ギーという溶かしバターみたいな奴を掛けたナンはちょっとした贅沢で、誰かが学校を卒業したお別れだったり、新しい日本人が来た時の歓迎で食べに行くくらいで、普段食ではなかった。


 プリは生地を丸くして中華鍋っぽい深目の鍋に油を満たして揚げた奴だ。

 揚げたては円盤型の風船みたいに膨らむのも視覚的に楽しい。これは油っこくて胃にもたれるがなかなかだった。

 パニプリという露天商が道端で売っている丸く揚げられた小さなプリに香辛料の効いたスープを流し込んだおやつみたいな奴は、15ルピーで7つという割り切れない料金設定でなかなか美味かった。パニは水という意味でプリに入っているのでパニプリなんだとその露天商の青年が教えてくれた。


 パロッタは多分同じ生地を炒めたものだ。パリパリの皮が香ばしくてこれもなかなかだ。ゴビマンチュリアンを出すベジの店で食べられた。それ自体の味は決して悪くないのだが、掛けるカレーが不味くて我慢して食べた。


 チャパティはホットプレートみたいな鉄板でただ焼いただけのカスだ。全然美味しくない。大抵の店にはあったが見向きもしなかった。


 最後になんとか言う奴は、生地に野菜が練り込んである。


 総括しようと思ったが、このあたりは俺が書かなくてもインド料理のサイトだとかを見ればもっと詳しく正確に載っているだろうからあとは省く。



 あとバンガロールと言っても広いので、俺の住んでいたブバネーシュワル周辺が高級住宅街という事もあって飯屋が少なかったのも食に困った原因の一つだろう。

 住民は外食などせず、きっとおいしい家庭料理を食べている。イドリーとか。


 100ルピーでオート力車に乗って隣町まで行けば、500ルピーも出せば高級料理店で日本レベルの普通に美味いラーメンだって食べられる。

 一杯500ルピーと少々、日本円に換算すれば750円強と普通だ。でもペットボトル2Lの水が30ルピーなインドの物価価値で考えたら2500円分くらいの、ありえないほど強気な値段設定のお食事。

 ラーメン自体は350ルピーなのだが、VATとか税金とかサービス料が合わせて150ルピーくらいあって、それだけで普段なら5食は食べれる値段なのだ。でも麺食いの俺にとって、ラーメンだけは食べなければ本当に命に関わるので仕方なく食べた。我慢をし過ぎれば最悪の場合きっと死んでしまう。

 なかなか美味しい超高級レストランで替え玉もないままに奮闘するその姿は劉表に逃げられた項羽くらいの、ケツァルコアトルに棍棒で殴られちゃったテスカトリポカくらいの俠気はあったと自負したい。

 ただ、いくら交通費も合わせて1,000円少々に過ぎないとしても普段の20倍のコストなので余り頻繁には行かなかった。

 遠いので面倒臭いし、オート力車ドライバー(リキシャラー)との交渉がダルいし、それで値段を決めても絶対降りる時に何だかんだ理由をつけて追加で要求してくるし、本気で鬱陶しいのだ。



 少し北へ足を伸ばせばカメネヘンリ町というムスリムの、イエメンやサウジ出身の人が沢山住むチャイナタウンならぬムスリムタウンみたいな場所があって、そこで90ルピーもする見た目チキンロールそっくりなシャルマ、エッグチーズロールみたいなショクシューカ、多分ターメリックかサフランの色で黄色い、長い米のピラフで豆が入ってるカプサ、チキンライスはマゴーツ、蜂蜜パンのスペシャルアリーカなどなどが食べられる。だが歩くと1時間くらいかかる上に高い。日本食程ではないが、インドローカル食の三倍くらいかかってしまう。

 オート力車だと片道70ルピーも掛かる。



 50ルピーもして割高だがスーパーではニッシンのカップヌードルも売っていて、カレー味とマサラ味とイタリアントマト味の三種類。

 全部スパイシー。

 さらに蓋の糊付けがきつすぎて全然開かない。

 製法が違うのか、日本かどこかで払い下げた古い機械を使っているのか。

 どうしようもなくなった時はそれを食べた。



 あとラッシーは美味かった。

 小綺麗なジュース屋さんがあちこちに建っていて、味もいろいろある。

 グレープジュースを混ぜた奴が一番だった。冷たくてシャリシャリのシャーベット状になった生絞り葡萄が濃厚なラッシーに混ざって絶品だ。30ルピー程。

 雑菌は乳酸菌の酸で全て殺されている。筈だ。


 そんな大丈夫な店が見つからなかったら確実に死んでいただろう。

 拒食症になりかけた。事実、体重も減った。インドで痩せるダイエットという本が書ける。売れないだろうが。

 ちなみにこのあたりのインド人のおばちゃんはほぼみんなデブだ。菜食主義と体重に関連性はない。

 家庭料理はきっと美味しいのだろう。

 仲良くなったPGのオーナーには悪いけど、次は絶対にキッチンのある所に住むから。洗面台の水をヒーターで沸かしてラーメンを作るしか出来ない生活は二度と御免だ。ガス代は高いし買える揃う食材も微妙だけど、その辺で売ってる牛の糞以下の奴より100倍マシな奴が作れるのは確実だから。


 家庭料理が恵まれている人は幸せだ。インドでも日本の中部地方に住む人の中にもそんな幸福な家庭に産まれ育った人も多いだろうと思う。

 外ではとりあえずお腹を膨らませて、おいしいものは家庭で食べる、という文化は美しいと思わないでもない。


 給食が日本人の味覚を破壊したなんて話も聞いた事がある。でも飢え死にするよりはマシだ。

 同じ材料でも、美味しくする工夫や努力は出来るだろう。でもそれは贅沢なのだ。

 贅沢は敵だ。錠剤だとかペーストを食べて24時間戦える企業戦士だけが日本を支えている。

 無駄なものを省いて、生命の維持と活動の為のエネルギーだけを摂取する。それが正しい生き方なのだ。羊のゲロでも食べていたらいい。


 詳しくないがミリ食という趣味があるそうで、各国の軍隊のレーションを食べ比べて賞味するそうだ。

 自衛隊員の話でも、美味い乾パンはやはり大人気で、不味い奴は嫌われるという。本職の兵士ですらそうなのに、不味いものをあえて摂取して気にしないというのは何と余裕のない、非文化的な行いだろうか。


 プリーのなんとか君の母はどこかのホテルで料理人をしていたらしい。そこは多分本当だ。

 だいたい自分の舌や心の感覚を信じないで、こう作れと言われたから間違いないのだと言い張る狂信者にダメな料理は作られる事が多いように思う。

 下手に給食の栄養士の資格があったりすると、他の人の意見を受け入れないのだ。


「まずいよ」

「じゃあ自分で作れ」

「うん分かった」


 しゃかしゃかしゃか。


「出来たよ」

「私は健康の為を考えて、こうやって教えてもらったしふじこふじこ」


 と発狂。

 これがよくあるダメなパターンだと思う。

 失敗と経験の積み重ねで、美味しいものが作れた時の感動はひとしおだ。

 批判を恐れて自分が正しいと理屈を言い張っても美味しい料理は生み出されない。

 ……だがそれも仕方ない事なのかも知れない。

 物を食べて感動する事を知らない人に、それを伝える事は本当に難しい。


 象を見た事のない人に、口でいくら説明しても伝わらないのだ。


 そうでなくて、でも味覚がおかしいなら一度病院を受診した方が良い。医学的な要因の場合も稀にある。



 味には文化的な側面と個人的な側面が両方ある。

 名古屋料理や南インドのバンガロール料理が大好きな人がいたら、それはその人の好みなのでいいと思う。

 悪口を書きまくったが、個人的な感想で一般論ではないと当社比的な逃げも打っておく。個人の好みの集合体。究極的にはあるの集団に属する人、彼らそれぞれの、心がどう感じるかでしかないのだ。


 一時住んでいた大阪の平野区に新しくイタリアンの店が出来て行ったことがあった。ワインが充実していたのだが地域性で、お客さんが頼むのはビールばかりだと店長が嘆いていた。

 俺もワインの味なんて分からないのでごめんって言ってビールを頼んだ。


 不味いものを知らずに食べているなんてかわいそう、そんな事を言われたら人によっては気分が悪いだろうと思う。

 俺だって人の事は言えないバカ舌の持ち主で、高級店の中華やフランスのキュイジーヌなんて殆ど食べた事もないし大抵は全然口に合わない。それをかわいそうなんて言われても知った事かと怒鳴りつけたくなる。

 それでも、味のために心を砕いている料理人の努力を思えば、そのちょっとした工夫を放棄してのうのうと存在し続けている不味い店を許せない気分にもなる。


 食通を気取る気もその資格もないが、物を食べるとは他の命を奪う行為だ。いくらベジタリアンだろうが、それこそフルータリアンだろうが動物は他の生き物の命を頂いて生きている訳で、嫌々仕方なく食べるより、心から喜んで美味しく食べたいものだ。奪われた命に感謝して、決して吐いたりなどせず。

 プリーで食べた虐待的な味のお魚カレーを思い出して欲しい。あれだって、調理法や調味料の違いでは浮かばれたのかも知れない。

 なら不味い料理こそが、食べられる為に失われた命に対する、冒涜だとすら思うのだ。


 最後に、はじめに長い前振りで使ってしまった中部地方の名誉回復の為に言っておくが、美味いお店はある。嫌いだった茄子が大好きになった絶品の茄子パスタを作ってくれた今池の喫茶店だとか、天白区のたまたま入った天麩羅屋だとか、食べた後に幸せを感じるような本当においしい料理を出す店はあるのだ。

 あとコーミソースは美味い。中部地方でしか見ないが、掛ければ不味いものも全然気にならなくなる魔法のソースだと思う。

 何が入ってるんだろう。マサラではないと思うが。



※予告※

同じ言葉を話し、歴史背景や共通認識を近くする者。学園生活。


次回『同郷』僕の前に道は無くて、もしあってもそれは無視して無い方にだけ進むッ!

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