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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
भारत गणराज्य (Republic of India) currency:India Rupee(INR/Rs) rate:1.5/JPY
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大都会

 街のあまりの綺麗さに、驚愕した。


 切符のチェックは結局最後まで無かった。

 親切なおじさんとは、駅でお礼を言ってそのまま別れた。

 彼は最後まで紳士だった。

 インドのこんな最低ランクの電車にも、人物はいるのだと感慨深かった。


 駅を出ると、日本でも見慣れた大都会の街並みがあった。


 バンガロール、今風に言えばベンガルールという街はポンペイ、同ムンバイに続くIT都市で、開けているとは聞いていた。

 牛のうんこが全然落ちていない。

 それどころか、犬のもだ。

 コルカタでは2〜3メートルごとに必ず2個3個投下されていたそれが、20メートル歩いて1個見るか見ないかだ。


 ちなみにガンジス川を誇るバラナシはもっと酷くて、10センチおきに牛糞が落ちていると師匠に聞いた。


「うん、絶対行かない」


 観光とか別に好きじゃないんだ、実は。

 死んだ人が焼かれてるのを目の前で見たって、だから何なの。誰だってそのうち経験するんだよそんなの、自分の目じゃ見れないとしても。それだって魚を焼くのも種族しか違いはしない。

 バタフライ? 水着の洗濯が面倒くさいよね。むしろもう着たくなくなりそう。三分の二が病気になるって話も俺大丈夫やったわーとかあかんかったーとか自慢話の種にくらいしかならないだろうし。

 人生観変わったわーとか、今までちんけな枠組みの中でとらわれて生きていたくせに、自分で目を背けてただけじゃないの。

 あほくさい。


 クリーンな方がいいに決まってる。エントルピーだか知らないが、汚すのは簡単なのだ。綺麗にする方が大変だ。


 バンガロールは美しい街だ。

 ゴミだってそんなに散らかっていないし、道路も舗装されていて、合剤が割れたりも少ししかしていない。


 こんな奇跡の場所が存在したのか、インドの中に。


 とりあえず地獄特急32hを我慢した自分へのご褒美に、高級ホテルに泊まってあげる事にした。

 マハトマガンジー道路、略してMGロードというメインストリートに、宿泊施設がたくさんあるという。


 道程は4キロ少々だ。

 とても近い。

 電車では直線距離にして1200キロ以上を走破したのだ。32時間で割ると、時速37.5キロ。遅っ。


 通りで、野良犬たちとエンカウントした。

 5、6匹の群れだ。

 プリーやコルカタの犬と比べてアグレッシブに、人間様に向かって吠えかかってくる。

 大都会、綺麗な街並みに抑圧された野生の叫びだろうか。

 鬱陶しい。

 もちろん紐で繋がれたりなどしていない。


「やんのか?」


 手を振り上げて一歩踏み込むとビビって逃げる。

 でも背を向けて去ろうとすると、吠えながらまた走り寄ってくる。


「ついてくんな」


 そこへ前からよぼよぼのおばあちゃんが歩いてきて、足元の小石を拾うと犬に向かって投げ付けた。

 当たった訳でもないのに、悲鳴をあげて逃げ去る犬たち。

 なるほど。

 そうすればいいのね。

 おばあちゃんはちょっと得意げな顔をしている。


「ありがとう、参考にするよ」


 MGロードへの最短ルートは、大きな公園を横切る道を通る。

 生い茂る木々の下を木漏れ日の中を歩いていると、催した。


 大きい方だ。


 冷や汗が流れる。

 公園内に有料トイレを見つけて駆け込んだ。だが、そこはロックされて閉まっている。今日はお休みらしかった。


 万事休すだ。


 牛の糞もあまり落ちていないこの綺麗な街に、人の糞を撒き散らす羽目になりそうだ。


 地図のアプリで最短のコースを検索するも、とても間に合いそうにない。

 公園は広い。

 だがその中心に、地図に図書館が載っているのを発見した。

 一縷の希望を胸に、内股で歩く。


 煉瓦造りの落ち着いた雰囲気の建物だった。

 万引き対策だろう、入り口でカバンを預けさせられた。


 別に構わない、この危機さえ乗り越えられるなら。

 静かな図書館内を疾走する。

 コンピュータルーム? こっちじゃない。

 広い講堂のような場所を過ぎて、英語の本のエリアを抜けると、あった。


 本というものは不思議なもので、そのインクの匂いのせいだという説もあるが何故か排便をしたくなる作用を持つらしい。

 豆知識だが、もし読者の中で便秘に悩む方などいらっしゃればこんなパソコンやスマートフォンなどではなく、古本屋か図書館に行ってみるといい。

 そこでしばらく立ち読みでもしていれば、きっと望みのものが訪れるだろう。


 だから図書館には大抵トイレが付いている。


 それが全世界共通の認識なのかは知らないが、バンガロールのここにも当然だとは思うがあってくれた。


 それもトイレットシャワー付きのなかなか綺麗なインド式だった。

 と鞄を取り返して外に出る。


「ここにはもう足を向けて寝れないねえでやんす」


 手を合わせて拝む。


 ホテルの1軒目は満室で、もう一軒行った方は空いていた。


 カードで支払う。莫大な出費だ。一泊2000ルピー、3000円もの贅沢だ。

 切り詰めれば10日は暮らせる。


 でもいい。1日くらいは贅沢をしてやろう。

 頑張って電車にも乗ったんだ。

 明日からは勉強ずくしの英語生活が始まるのだ。


 綺麗で清潔感にあふれお湯も出る。部屋から一歩だって出る気が起きない。

 ホテルの一階が、レストランになっている。


 有名店だとガイドブックに書かれていた。値段も掛け値なしにプリーの十倍する。

 だが、まずい。

 食えたもんじゃないとまでは言わないが、ブバネーシュワルの安宿で食べた感動には遠く及ばない。


 同じマトンカレーとナンを頼んだのに、食べていてそれだけでうきうきしてくるようなあの味ではなかった。

 単に羊肉の入ったカレー、それとナン。

 何が違うのか、店構えも食器や給仕もはるかにいいのに。

 全部食べても何も感じなかった。


 この先4カ月を過ごす事になるバンガロールは、一箇所だけ例外があったものの基本的に飯がまずい町だった。


 イギリスの直接占領下に置かれた期間が長かったからだろうか。しかし料理は南インドの伝統的なものなので、まずいという部分だけ影響されるとも思えない。

 大抵は何でも食べ、エリンギ以外の食べられない食材はないくらいの俺が何度も吐き、拒食症になりかけた程、ほとんどのレストランの料理はまずかった。

 

 それは後々に語るとして、このレストランでカードを切ろうとした事が、この後の不幸の元凶だった。


 使えないと言われて返されたのだが、このレストランの馬鹿店員が、どうやら俺が押すべき暗証番号を勝手に入力して、それも三回以上間違えやがったらしい。

 それ以降、メインで使う予定だったそのカードは二度と使えなかった。

 郵送を頼もうにも、インドにクレジットカードみたいなものが無事に届くのかも分からない。

 その上、連絡先には海外からは掛けられない日本のフリーダイアルしかない。ウェブで探すもメールアドレスも書いていない。


 予備で緊急用の、限度額をショッピングもキャッシングも各10万円に抑えておいた奴で、その中からどうにかやりくりする事になった。

 さらに悪い事に、その予備のカードは支払い日が2ヶ月後。大分先にならないと払えず限度額も復活しない。


 通帳には入っているので連絡して先に支払えたらいいのだが、連絡先は先述の通り。


 つまりそれまでに10万円を使い切ってしまえば、そこでthe endだ。首をくくるしかなくなる。


 一月あたり使えるお金は3万円しかない。


 今月3万円、来月3万円、再来月3万円で過ごすと、やっと今月の分が引き落としが掛かり、最初の3万円分回復する。

 そのローテーションで何とかやりくりしなければいけない。

 そんなギリギリの極貧生活、家賃学校代生活費全部込みで使えるお金が月33,333円。

 この時それを知っていたら、途方に暮れてしまっていたかも知れない。


 そう、知らなかったのだ。


 実は、それに気付いたのはインドを去ってアフリカでケニアシリングが下ろせなかった時で、それまで何も気にせず遊んだり飲み歩いたりしていた。

 それで全く問題も感じなかったのだ。


 インドの生活費、激安。



※予告※

正直、この話は私怨の愚痴に満ちているので読むことをお勧め出来ません。


次回『三人の阿保』旅は寛容を教えるッ!

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