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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
อาณาจักร ไทย (Ratcha Anachak Thai) currency:Baht(THB/฿) rate:3.0/JPY
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フレンチポテトフライ

更新遅目でごめんなさい、リアルタイムで語学スクールの学園編が始まったので、落ち着くまで書きませんでした

 頃合いを見て、


「ちょっと洗濯物畳んでくるわ」


 抜け出して、4階に上がると彼女はすでに部屋にいた。ノックをしてお邪魔する。

 転移前の三十五年の記憶をフルに駆使して挑む。


 数分後、あっけなく玉砕した。トゥクトゥクという、三輪のバイクのような軽自動車のような奴がタイではよく走っているのだが、奴に飛び込んでそのまま転生したい気分だ。

 転移前の記憶なんて結局のところクソの役にも立たなくて多分、度胸とか自信の方が大事だと思う。


 仕方ないからまた下で飲んでるとさっきのダンサーがいて、


「さっきのあれ、すごい。習ってたの?」


 と聞くと、


「はい一年くらい」

「あれだけうまかったら、クラブ行ってモテモテなんじゃないの。俺なんかあぶれちゃって、お酒飲んで騒いでただけだったから羨ましいわー」

「そんなでもないですよ」


 とあくまで控え目だ。


「大柄な外人とかと違って迫力ないんで、でも注目さえして貰えたら、こっちのもんかなって」

「それで、かわいい子と仲良くなっちゃって、そのまま宿に連れ込んだり?」

「ないんですよ、でもおっさんに」

「連れ込まれたの?」

「いやあそこじゃなくて別のクラブに、入場料払ってもらって連れてって貰ったことならありますよ、値段が高いとこ」

「すげー。お前うまいからこっち来い、って?」

「そんな感じだと思うんですけど」


 おっさんは羨ましくないけど転移前の技術ってのは役立つようだ。


「習おうかな、俺も」

「一年半くらいですよ、まだ」

「それは才能だわ」


 羨ましくても自分ならそんなに努力が続く自信がない。こういう相手はダメだ、タトゥーのボスは可愛げがあったのに彼には勝てる気がしない。


「くっそ」


 その後ボス君が戻ってきて、ダンサーは寝に帰って、二人で深いい話で盛り上がったが割愛する。

 日本でタトゥーが差別されていて、絵が好きで上手だったから彫り師になりたかったけど医師免許が必須で、無ければ非合法な方法しか選択出来ないのでオーストラリアに永住するという。

 異世界に、コテと墨を武器に転移する話で色物が書けそうだ。


 翌日、すぐに宿を出て付近で一番安いところに移った。

 そこが考えられる限界まで汚い。


 二階の8人部屋にはフランス人の旅人が一人いて、ずっと一人で寂しかったんだよおおお、と。

 おっさんだ。もう初老の、おじいちゃんって言ってもいいくらいの年齢で、面倒臭かった。

 まず文句を言う。誰か個人に対してというより、世の中とか近代化して、最近この辺りはどこも観光地と化して何もかもがとてもエクスペンシブで人が意地汚くて、隣にクラブがあって夜中の三時まで煩くて、迷惑極まりない、だとか。あそこは長期間行ってないから分からないが入場者が外国人だと分かると50倍の値段になる糞みたいな門番だとか。それらをとても聞き取りやすい英語で喋る。ちなみに前職の先輩でビジネス英語スピーカーの人が一人いて、とても話し方が似ていたのでその事を糸で連絡すると、


『フランス人やイタリア人は喋るとカタカナ英語になるんやで』


 なんかごめんなさい、そういうつもりで言ったんじゃないんです。

 フランス人はお喋りでこっちが聞き取れても分からなくてもブーブー文句ばかり言って首を残念そうに振って最後にセラヴィ、と言う。

 それが人生さ、みたいな飄々としたニュアンスだと思っていたのだが、聞くと何て糞っ垂れな人生だろう! という嘆きの言葉だそうだ。

 観光に行って何処何処へ行くと安くて素敵な景色が見える、だとかパソコンを持ってSNSばかりやっていると人と人との会話が疎かになるから、自分のスタイルではない。だとか比較的簡単な単語の組み合わせで様々な愚痴の表現する。


 確かにこの宿は色々と酷くて、3階の左側なシャワー室兼トイレにウンコが流れていないだとか、それを流そうとしたら詰まっていて溢れそうになるし、それをいくら宿の人に言っても下を使えとしか言われない。1階は洋式ではなく、タイ式のしゃがんでする奴だ。汚い桶に自分で水を汲んで流す水洗システム。及びウォシュレットシステム。

 仕方なく3階の右側を使うがすぐ隣にあると思うと気が悪い。何か臭ってくるような、シャワーもなんか使いたくない。

 フランス人はその日は別に何も言わなかったが翌日、3階のゴミバケツが片付けられているから宿の誰かがやっと働いたんだ。きっとトイレも治ってるに違いないぞ、と嬉しそうに教えてくれた。


 そいつはよかった、とタオルを持って階段を登って見れば左側、針金でドアを止めて人が入れなくしてあった。


 確かに対処はしてある。

 でもそうじゃないんだ。


 根本的に解決する気は無いのか、この異世界で千歯こきならぬゴムカップを発明して売れば大金を得られるのか詰まり、ないのか。棒の先に着いたあまり目にしたくない黒くて半球状のあいつが。

 何で移らなかったのかというと、フランス人が寂しがるのは別にいい。フライトが、お浄土へ向かう格安の奴が一週間も後だったから節約した。

 汚いのは死ぬほど嫌だったが昼間は出歩いていればいいし、この先インドでははるかに予想を超えて汚い可能をも考えると、慣れるか鍛える必要があると感じたのももう一つの理由だ。


 3日目だったか、夕方、フランス人が嬉しそうな顔をして帰ってきて、タッチパネルの液晶タブレットを買ってきたのだと見せびらかす。

 その日は宿泊客にインド人が増えていて、3人でその三星のコピー商品だというそいつを囲んだ。


「自分自身へのクリスマスプレゼントなんだ」

「真夏なんですけど」

「とにかく充電しないと」

「コピーなのにとっても高かったんだ」

「これはどーやって使うんだ?」

「てかお前パソコンいらんゆーてたやんけ」

「チェスがやりたくって、でもこのスマホだと画面ちっちゃいから押し間違えて負ける。すると滅茶苦茶腹が立つ」

「チェス移したいの? 新規ダウンロードの方が早くない?」

「写真も沢山移したい、16ギガと64ギガのマイクロカードを一緒に買ったんだ」

「何でだ、全然充電しないぞ」

「たぶん充電電力より消費電力の方が高い、ってこれ英語で何て言ったらいいんだ」


 で、何故か裏蓋を開けてシムカードを入れてみる事にして、スマホから移した。なんか大きさが違う気がする。


「じゃあ右じゃないの?」


 コピー品だからなのかソケットが二つある。

 何気なく借りて押し込んで見ると、取れなくなった。

 フルサイズシムを入れるソケットに、横向きでマイクロシムを入れてしまったようだった。

 気まずい。

 ぴったりはまって取る隙間もない。

 インド人が「貸してみろ、押したらカチッて音がして出てくる筈だ」


 と更に奥に押し込んだ。

 そんなので治る筈もなく、事態は更に悪化。

 こんな筈じゃなかったんだが。

 対処法をググるがコピー品には品番もない。

 お買い取りという言葉が脳裏をよぎる。

 いらない三星のコピータブレットが荷物に追加される。

 フランス人は見るからにしょんぼりしている。


「ごめんて」


 最悪だ。


※予告※

逆上するアラン、逃げまどう人々、火を噴くほど辛いトムヤンクンスープヌードル。王都の電器店は何故か日本人転移者に優しかった。


次回『やるか逃げるか』どれだけ旅をしたとしても自分自身から逃げる事など出来ないッ!

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