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ただのトラック転移で異世界観光  作者: 都築優
อาณาจักร ไทย (Ratcha Anachak Thai) currency:Baht(THB/฿) rate:3.0/JPY
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犯罪計画

カンボジア代表のマラソン選手がブービー賞だったそうですね。行ってないけど

 衝動的なモフりたい欲と狂犬病こわい防衛機制が俺の中で激烈な葛藤を繰り広げた。


 外務省だか防疫だかのサイトではわんこに舐められただけでもワクチン接種しろと勧めてくる。

 さらにタイは狂犬病の死亡者数が世界一多い国だとか。まさか飼い犬まで狂っちゃいないだろうけど、どこかで喧嘩でもして噛まれまだ発症してないだけという可能性だって考えればあり得ない話でもない。

 だが。だが。かわいい。

 心がきゅんと鷲掴み、こいつは致命的だ。


 部屋は空いていて、疲れていたのでドミトリーではなくシングルにチェックインした。

 わんこは最大限の自制心を働かせて、首まわりを数回撫でるに留めた。


 4階建てで、三階に庭園がある。

 まず共同のシャワールームで体を流し、汚れた服の洗濯を終えると掛けて干す。

 庭園にワイアーが張り巡らせてあり、ハンガーも余ってる奴を借りた。

 湿度は半端なく高いが、外なら多少は乾くだろう。


 蒸し暑い。

 何が楽しくて人は東南アジアなんていう異世界に行こうとするんだろう。

 汗だくになるし、さらに食べ物は全部辛いし、野良犬も多いし、道も汚い。

 頭がおかしいんじゃなかろうか。

 清潔なお風呂のぬるま湯に浸かる生活を知っていると、湯船もなくトイレと同室の冷たいシャワーを使うだけという現状に思わず涙目になる。その上それは紙もない、きっと知らない誰かが左手で拭いた後の汁の飛び散ったトイレなのだ。自分の中にいる駄々っ子が盛大にわがままを言いはじめる。


「やだ! こんなのやだ!」


 仕方ないじゃない、今はこれしかないんだから。気分だけ悪いのと、汗でベタベタして本当に気持ち悪いのとどっちがいい?

 などと騙し騙し、言う事を聞かせる。

 最後まで納得なんてしてはくれない。

 涙目で怒りでぷるぷる震えながら睨んでくる。

 ごめんって。


 部屋に戻って少し寝た。

 シーツが綺麗なだけで幸せだ。

 ここは網戸もついている。

 最上階4階の一番安いクーラーも無い部屋で、扇風機が熱波を掻いている。

 車内泊での寝不足の所為で、それでも睡魔は襲いかかってきてくれた。


 時空間の歪み差が、タイは二時間、30度ある。マレーシアが一時間、15度だったので、少しずつ西へ進んでいる計算なのだがあまり実感は湧かない。次のインドも三時間半で52.5度なので意外と大した時空間の歪み差でもないだろう。


 やっと起きると夕方で、洗濯物を見に行くと端に寄せてあった。

 にわか雨が降っていたらしい。出来るスタッフが、勝手に屋根の下まで移動させてくれたようだ。

 庭園でタバコを喫っていると日本人が現れた。

 写真が趣味だそうでキヤノンだかニコンだかのデジタル一眼レフカメラで撮ってくれた。

 綺麗な写真、他にも笑ってるおっさんとかはたらく子供とか何枚も見せてくれる。

 俺はハジャイのホテルにあったドリアン禁止の看板(禁煙の隣に禁ドリアン)罰金2000バーツ! とか驚愕、緑のイクラが乗ったお寿司! みたいなしょうもない写真しか撮ってなかったので、見せ合いっこをして何か負けた気分になった。


「おもしろ写真とかはないの?」

「僕、基本人しか撮らないんすよ」


 意識の高い奴だった。


「そっか、すげーな」

「今は趣味ですけど、こらからはネットで収入も」

「へえー、なにそれ」


 かっこいい。

 これはでも微笑ましい。

 特別な自分の人生に希望を抱きながら新しい道を一歩踏み出しちゃったんだろう。影ながら応援してあげたい、具体的には100クリックくらいなら。この地に足の付かぬというか、自らの不安をどこか隠しおおせないところが一番のチャームポイントで、こんなおっさんにも昔そんな頃はあった。今もたいして変わりはしないが。

 だから、話をさえ聞いてあげれば大方満足して喜んでくれる事を知っている。

 またしばらく日本語を聞いていなかったので懐かしさで気にならない。さあ何でも語りたまえ。

 で、端の部屋に泊まっている日本からの転移者が全異世界一周を目指していて、今カオサンロードにタトゥーを入れに行っているから後で会ってくれるように言われたので、快諾した。


「マジ凄いんすよ」

「うんわかった」


 昼間この庭園で他の日本人たちと優雅に薬草を喫しているそうだ。

 何故だかとっても嫌な予感がして、楽しみでならなかった。


 屋台にごはんを食べに行き、物売りとマッサージの呼び込みと観光客の多さですぐに飽きた。

 地下にあるハンバーガー屋の前の通路にドゥカティのMH900eというスポーツバイクがディスプレイで置かれていたので尾崎る計画を練っていたら隣で欧米人の若者も熱心に写真を撮っている。


「イタリア人か?」


 と聞く(イタリア製なので)と


「フレンチだ」

「そうか」

「お前のバイクか?」

「そんなわけあるか。でも今から盗んじゃうから、お前も手伝えよ」


 世界限定2000台で発売当時新車価格が15,000ユーロもした奴だ。中古もプレミアで値段が下がらない。

 窓ガラスをぶち割って脱出、爆走して国境まで逃れ逃れ辿り着いたら、分解してスクラップと偽って輸出しよう。フレームナンバーは打刻し直さなきゃだな。分け前で揉めそうだ。


「かっけーよな」

「だよな」


 バイクは国境を越える。

 名前も知らないフランス人と、言葉もほとんど通じないのに同じ気持ちなのがわかった。


 クラブがあったのでバケツに氷とストローを入れてカクテルを回し飲みする欧米人達にまぎれて深夜3時まで踊って騒いだ。

 日本人はタイに行けばモテる、というのが師匠からの啓示であったのだが、全然うそだ。

 欧米人は基本的にアジア人に興味がないし、タイ人も自分ら同士で盛り上がっている。

 あぶれちゃった仲間のブータン人の若者、野郎4人と仲良くなり、実は俺ワンチュク大統領と同い年だとかブータン行きたいけどビザが高過ぎるから密入国させろだとか適当に喋って帰った。


 深夜。

 悔しさを胸にほろ酔いで戻った宿の一階には、日本人たちがたむろしていた。



※予告※

集う日本人転移者たち。ダンサー、ボクサー、ジャンキー、タトゥイスト。そして彼らは女をかけて斗う。


次回『宿、恥じ入れどムエタイ叩いたM奴隷。ジハードや!』実はこれ回文になってまして前から読んでも後ろから読んでも同じ文になるんですよッ!

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