四日目 第三話
突然に言い渡された休日。エンジェルの要求にしたがって外に出ることになったが、どこへ行くかまでは決めていないし、私自身もどこか行きたいところもない。それでもどこかへ行くのは決まっている。どこへ行くかは、これから決める。
建物の外に出て、島の略図が書かれた案内板を見上げる。昨日散策したのはビーチ沿いの道。普通のデートに選ぶならまず候補に上がるであろう場所だが、一緒に歩く相手との関係は恋人ではなく、加害者と被害者。さらに言うと、つい昨日暴漢……否、暴女に襲われ首を締められた場所でもあるので、寄りたい場所ではない。
他の施設は、空港。宿泊用のホテル。お楽しみ用のホテル。レストラン。病院。ちょっとした森林のある公園。
空港。空港か。客の飛行機が停められてたな。行って、ハイジャックして島から逃げるようか……どうせすぐに撃墜されるだろうし、そもそもたどり着けるかどうかも怪しい。やめておこう。ホテルには用事もないし、ビーチと同じように寄りたくもない。何が悲しくて毒の沼に飛び込まなければならないのかと。
レストラン。仕事でなければ、ホテルと同じように寄りたくはない。
病院は……メンタルケアのできる人間、この際アンドロイドでもいい。が居ればすぐにでも飛び込みたいのだが、この島に精神科医なんて必要ないだろう。どいつもこいつも診察するには手遅れだ。むしろ医者が倒れる。
となれば、残るは公園。地図の左上に描かれた円形のスペース。今日はそこで過ごそうか。見た限りでは、ちょっとした森林も併設されているようだし。人工だろうと自然の中でゆっくり過ごすのは、なかなか良い心の癒しになる。空中庭園なども人工の自然だが、それでも気分はかなり落ち着く。
「公園でいいか?」
私が勝手に決めた目的地をエンジェルに伝える。嫌なら他の場所を提案してくれるだろう。
「悪くないけど。海はどうなの」
「お客様が水着で戯れてる」
「……やめときましょう」
それが懸命だ。森にも人は居るかもしれないが、きっと海よりは少ないだろう。遊ぶなら森よりも海。私の勝手なイメージだが、二択でどちらがいいかとアンケートをすれば、海を選ぶ人のほうが多いだろう。
なら、人が少ない方を選んだほうが、頭のおかしい奴らと接する可能性は低い。彼らの近くに居る時間が短ければ、それだけ正気でいられる時間が伸びる。
彼らは猛毒。触れるだけで身を侵す。しかも吐息にまで微弱な毒が含まれるから、そばにいるだけで害がある。
森林浴は、溜まった毒気を抜くのにちょうどいいだろうと思っての選択でもある。
「行こう」
「ええ。行きましょう」
公園までの道のりは頭に入れてある。広い島だが、外の都市部の駅よりは構造が簡単だ。まず迷うことはない。
言葉を交わすこともなく場所を移り、特に何事も無く公園の入口に到着した。目の前に広がるグラウンドには四百メートルトラックの線が引かれているが、そこには誰も走っていない。ただ、人が居ないかと言うとそうでもなく。客が一人、隅っこのベンチで裸の商品を自分の上に座らせ、野外で交尾を披露していた。私の視線に気付くと、興奮したのかまるで見せつけるように身体の動きを激しくし始めた。商品の喘ぎ声もまた激しくなり、獣の声が晴天に響き渡る。
お楽しみのためのホテルがあるのだから、そこですればいいものを。わざわざ外でするなんて。
「まるで獣ね」
「まるで獣だ」
二人して全く同じタイミングで、全く同じ思いを吐き出す。珍しく意見が合い、僅かな共感を覚えるが、それは一時の事。あえてそう設定されているのだろうが、彼女と私の思考は根本的に異なる。
しかし、獣か。まるで、という表現は正しくない。客と、商品。そのどちらも、その有り様はまさしく獣。ケダモノだ。




