表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/35

三日目 第二話


朝日を満足するまで眺めたら、今度は朝食のために部屋から出る。その後ろを、私が朝日を堪能している間に着替えていたエンジェルがついて出てくる。二人共部屋から出たら、部屋に鍵をかけて、今日は私が前を歩いていく。会話はなく、途中で清掃用のアンドロイド達と何度かすれ違い、食堂に到着する。ドアを開いて中に入るが、今日は時間が早かったのか、フィッシュ以外は誰も来ていなかった。

「やあ、おはようジョン。昨日の晩餐は気に入ってもらえたかな」

 紳士服を着た老人が笑顔で挨拶してくる。ここが外の、普通の街ならばこちらも笑顔で返せただろうが、今日は気分が悪い。

「死ねよ、人でなし」

 おはようございます、と言おうと思っていたのに、口から出てきたのは汚く、そして乱暴な本音。フィッシュが一瞬呆気にとられ、そして笑う。私の顔はきっと憎悪に歪んでいる。後ろに立っているエンジェルはどんな顔をしているだろう。一度咳払いをし、慌てることもなく、落ち着いて言い直す。

「おはようございます、オーナー。今日もいい天気ですね」

「上司に対して随分な挨拶だね」

「私は当たり前の挨拶をしただけですよ。聞き間違えたんじゃないですか」

 いつも通りの営業スマイルを顔に貼り付けて会話する。上司の前で、あまりひどい顔は見せられない。

「なら聞かなかったことにしておくよ。しかし、さすがに二日で壊れはしないか。一体後どの位持つかな。二日か、それとも三日か。あるいはもっとか……楽しみだよ」


 やはり趣味の悪い男だ。いや、趣味が悪くなければ、こんな島は作らない。薄気味悪い、引きつったような笑いを続けるフィッシュを放っておいて、私は朝食の用意をする。食パンの四枚切りを二枚取って皿に載せ、角砂糖を一つ入れただけのコーヒーを一杯、テーブルに運ぶ。それからまた新しい皿を一枚持って。サラダとスクランブルエッグを乗せて、ドレッシングを少しだけかける。それを持ってテーブルに戻る。用意したパンをトースターに入れたらコーヒーをスプーンでかき混ぜて、一口啜る。腹立たしい事に、やはりこのコーヒーは美味しい。

 それから取ってきたサラダを食べようと皿に手を伸ばすと、皿の上は既に空。乗っていた野菜と卵は、サンドイッチの具になりエンジェルの口の中に。文句を言おうと思ったが、睨まれたので、喉元まで出かかった言葉は音にせず、コーヒーと一緒に飲み込んだ。仕方ないのでもう一度、サラダとスクランブルエッグを取ってくると、ちょうどパンが焼けた。熱々のパンをフォークで突き刺して皿に移す。少々品のない行動だが、それを咎めるような人間はこの場に居ない。

「下品ね」

 一人居たが、気にしない。人の取ってきたサラダを勝手に食べるのと、パンをフォークで刺して皿に移すのと、一体どちらが品のない行動だろう。どちらも同じか。さらに取ったパンに、室温で柔らかくなったバターをたっぷりと塗って、一口かじる。美味い。

「美味しいかい?」

 美味しい朝食と、朝に見た綺麗な景色で良くなった気分も、たった一言で台無しにできるのはある意味尊敬に値する。嫌われ役としてはこの上ない才能だ、とても真似はしたくないが。

「まあ、外で食べていた安物よりはずっと」

 口の中に残ったお庵を、コーヒーで流し込んで返事をする。

「それはいい。じゃあ今日の仕事を教えよう。そのバターの生産工場の見回り。案内はテッド、身長は180cm近い、黒髪の色男だ。君を私の部屋に案内した男といえばわかるだろう」

「ああ、あの男」

 私をヘリに乗せてここに連れてきた男。あの時に一思いに打ってくれていれば、これほど心に傷を負わずに済んだのに。

 今になってはエンジェルが居るから死ぬ訳にはいかないが。ともかく、どうしてバターの工場の見回りになんて行かなければならないのだろう。ただのバターだろうに。まあ、仕事だというなら引き受けるしか無いのだが。

「工場見学は嫌いかね?」

「どっちでもない」

「そうか。まあ、人が食事をしているところや、セックスをしている所を見るよりは楽しいと思うよ。では私は寝坊している職員を起こしに行ってくる。ゆっくり朝食を味わいなさい」

 フィッシュが去ってから、パンに塗ったバターを見る。外で食べていたものとは明らかに味が違うこのバター。味が異なる原因として考えられるのは、製法。品質。そして材料の三つ。

「……まさかな」

 まさかとは思うが、こんな島だ。そのまさかも十分ありうる。その可能性を考えると、無性に吐き出したくなったが、そう都合よく吐き気など起きてはくれない。いや、だが予想があたっていたとしても、履くほどのことじゃない。人肉を料理している所を見たり、人肉料理を食わされたことに比べれば、ショックもまだ小さい。それに予想ができたということは、それに対する心の備え。覚悟もできるということだ。覚悟さえしていれば、受けるショックは小さくて済む。それでも、辛いものは辛いが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ