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二話、転生後より

前半説明、後半エピソードです。

 気がつくと俺は、金髪の美しい女性に抱かれていた。これは文字通りの意味で、俺の身体が女性の両腕にスッポリと収まっているのだ。何故俺の身体を軽々と持ち上げれるのだ、と疑問に思ったが、すぐに自分が転生したことを思い出した。

 声を出してみると「あ〜う〜」という声しか出ない。手を顔の前に動かすと、可愛らしい小さな手が見えた。薄々だが、自分が赤ん坊になっていることを自覚する。


「どうしたのマアト、お母さんはここにいますよ?」


 マアト、俺の名前だろうか。ということはこの人は、俺の母さんになるわけだ。前世の母親を知りながら新しい母親を見るのは、なかなか複雑な気分だな。

 しばらく腕の中で揺すられていると、近くから赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。


「あらあらエアリア、どうしたの?」


 母は俺をベビーベッド(だと思う)に俺を寝かせ、違う赤ん坊を抱いた。


「ほ〜ら、母さんですよ〜」


 俺の時と同じく赤ん坊を揺する母。赤ん坊はしばらくすると泣き止んだ。

 あの赤ん坊も母の子供なら、あの子は魔王ということになるな。何故泣いてるのかは不明だが。ってかあれだ、母って堅苦しいから母さんでいいか。

 魔王は俺の隣に寝かされた。


「さ、母さんこれからお出かけするから、二人ともいい子にしてるのよ?」


 母さんはそう言うと、俺と魔王両方にキスをしてから何処かに言ってしまった。キスされたときに少しドキッとしてしまった。身体は子供でも心は十七歳だから、その辺り早く慣れなければ。微妙に魔王からの視線を感じるのは気のせいだろう、うんそうだ。今は赤ん坊なんだし。

 半年後に知ったのだが、俺と魔王は『双子』の兄妹のようだ。神よ、説明不足だぞ。



 ◇



 三歳になって分かったのだが、どうやら俺達は『ハーフエルフ』らしい。母さん、ナノウは耳が切れ長で明らかにエルフだったから、俺達は純血のエルフだと思っていた。でも最近になって、父さん、ハネスが人間であることが発覚したのだ。

 父さんは村で畑仕事をしているらしくて、いつも朝早くに家を出る。なので俺達に構うのは夕方から夜の短い時間だけだ。会話を盗み聞きしたのだが、父さんは俺達に構えないのをとても悲しく思っているらしい。うむ、子供思いのいい父親だ。

 逆に母さんは、いつも俺達につきっきりだ。トイレへ行くのにも階段を上るのにも、「一人じゃ危ないから」と言ってついてくる。少し過保護な気がする。

 俺自身の身体については、まあ年相応の行動しかできない。歩いたり飛んだりはできるが、走るのはまだ安定しない。魔王もそれは同じらしく、よく廊下で転んで母さんに心配されてる。

 言葉は何故か日本語なので、簡単に喋ることができた。まあ親の前ではなるべく赤ちゃん言葉を使っているが。

  魔王、エアリアはまだ言葉を話すのに慣れないらしい。いつも「ああ〜、まあ〜」とか言ってる。理解不能だ。



 ◇


 俺は母さんに似たみたいだ。

 四歳になってふと鏡を見たら、そこには金髪の美少年が写っていた。中性的な顔立ちは母さん似、茶色の目は父さん似だろう。今まで自分の容姿なんて気にしてなかったが、いざ鏡を見るとファッション雑誌の挿絵を見ている気分になった。

 その流れでエアリアを観察してみると、何故今まで気づかなかったのか不思議なくらいの美少女だった。俺とそっくりな顔立ちで、違うところといえば髪型くらいだろうか。俺はただボサボサなだけだが、エアリアはショートヘアにして前髪をちゃんと止めている。

 とにかく可愛い、元気系美少女と言うのだろうか。いやエアリアが元気系かは知らんが。そして俺にそっくり。あれ、これ裏を返せば、俺は女装すればあれくらい可愛くなるってことか。嬉しいような、悲しいような。


「ゆうしゃ、そんなに私を見つめてどうしたんですか?」


 遠くから眺めていたのだが、どうやらガン見し過ぎたらしい。エアリアがジト目でこちらを見ている。


「いや、あの、エアリアと俺ってそっくりだな〜みたいな」

「……本当にそれだけですかね? やましいこと考えてないですか?」

「いやそんなことは」

「………………」


 無言で睨むエアリア。別にやましいことを考えたわけではないけど、何故か焦ってしまう。俺はきっと、こいつに嘘をつけないな。


「ま、そんなことはどうでもいいですよ」


 どうでもいいんかい。


「それよりゆうしゃ、今日は散歩にいくらしいですよ」

「あ、そういえばそうだったな」


 朝に母さんがそんなこと言ってた気がする。とりあえず着替えねば。

 部屋の端にある木製のタンスを開ける。母さんは俺達の服をタンスの下にしまっている。俺達が自分で服を取りやすいようにだ。こういう小さな所に、母親の優しさを感じる。

 一番下の引き出しから、長袖と半ズボンを取り出す。麻布のような生地で出来ていて、野生感溢れる茶色だ。今は春っぽいので(この世界に四季があるのかはまだ謎だが)この格好で大丈夫だと思う。エアリアは既に、流そとホットパンツ的なものに着替えている。


「マアト、エアリア、散歩行くわよー!」


 玄関から母さんの声が聞こえてきた。


「ちょっと待ってー!」


 部屋着をちゃっちゃと脱ぎ、用意した服を着る。靴下はないので素足で玄関へ。エアリアは先に玄関で待っていた。サンダルのような靴を履いて、母さんに続いて家を出た。

 外は晴れていて、暖かい太陽の光に少し目が眩んだ。


「ほらマアト、手を繋ぎなさい」


 母さんはそう言うと、俺の前に手を出してきた。


「あの、母さん。別に一人で歩け……」

「ダーメ、もし転んだりしたら危ないでしょ?」


 相変わらずの過保護、どうにかならないものかね。エアリアはというと、既に母さんの手を握っていた。何故抵抗がないのだあいつは。


「ほら、早く繋ぎなさい。別に恥ずかしくないでしょ?」


 かなり恥ずかしいのだが、まあ見た目は子供だから他の人はなんとも思わないだろう。諦めて手をとった。


「よし、じゃあ行きましょー!」


 母さんは調子よく歩き始めた。俺は引きずられるようについていく。散歩コースはいつも決まっていて、家の周りを一周する約十五分の道のりだ。

 童話に出てきそうな家が立ち並ぶ住宅街を歩いていき、畑にぶつかった所で曲がる。そしてまた直進。見えるものといえば、木造の家と畑、青空くらいのものだ。個人的にはもっと自然豊かな道を歩きたいのだが、まあこの過保護な親がそんなこと許すはずがない。遠くには草原が見えるのに。

 ちょうど家の裏の辺りを歩いていると、前から母子が歩いてきた。


「あらセリアさん、こんにちは」


 母親の方はセリアさん、黒髪に小麦色の肌の美人さんだ。俺達の近所に住んでるらしい。


「あらナノウさん、こんにちは。ほら、カンナも挨拶しなさい」


 セリアさんは隣にいる女の子にそう言った。


「……こんにちは」


 この無表情な女の子は、セリアさんの娘、カンナちゃんだ。セリアさんと同じ黒髪をぴっちりとおデコで揃え、ピンクのワンピースを着ている。


「こんにちは、カンナちゃん。ほら、マアトとエアリアも」

「「こんにちは」」


 カンナちゃんは無表情のまま俺達に頭を下げた。散歩はよくするのだが、その度にセリアさんとカンナちゃんに会う。なので俺達は顔馴染みになっている。カンナちゃんに関しては、幼馴染みになるのだろうか。


「ちょっとお母さんお話するから、カンナちゃんとその辺で遊んでなさい」


 母さんはそう言うと、セリアさんと世間話を始めた。あの過保護っぷりはどこへやら。

 さ、遊べとは言われたものの、こんな道端でやれることなんて何も無いぞ。


「どうします、ゆうしゃ」


 エアリアが俺に耳打ちをする。視線の先には無表情なカンナちゃん。


「どうするってもなぁ、この場合どんなことをすればいいんだ? しかもカンナちゃん、なんかあれだし」


 残念ながら幼い頃の思考なんて既に消滅してるので、子供らしい遊びなんて思いつかない。しかも相手は無表情な女の子、感情が全く読み取れない。それにカンナちゃん無口みたいだし、大人しいし。


「まあそうですけど………とりあえず世間話でもしますか」

「俺はお手上げだ、任せたエアリア」

「ゆうしゃにも意外な弱点があったものですね」

「ほっとけ」


 エアリアはニヤケながら、カンナちゃんの方へと歩いていく。その横顔を見てると物凄く不快な気分になった。


「カンナちゃん、今日なに食べました?」


 俺をバカにしといてそれかよ。


「……パン」


 無表情で答えるカンナちゃん。微動打にしない目にどこか冷たさを感じる。


「どんなやつですか?」

「……まるいの」

「えぇと、今日はいい天気ですね」

「……うん」

「あー、カンナちゃんは晴と雨どっちが好きですか?」

「……晴れ」

「で、ですよねー! 私も晴れが好きなんですよー!」


 横目で俺に助けを求めるエアリア。知るか、お前のコミュニケーション能力が低いだけだ。


「えーっと……好きな食べ物は?」

「……肉」

「肉ですか、あのジューシーさがたまりませんよね!」

「私、脂が少ないのが好き」

「あ……そーなんです、か」


 終わったな。

 横目で俺を見てるけど無視、ひょいっとそっぽを向く。すると目の前に、ひらひらと蝶々が飛んできた。綺麗な青色の羽をした蝶々は俺の隣を抜けていくと、カンナちゃんの足元に生えてる雑草に止まった。


「あ、蝶々ですね」

「………………」


 カンナちゃん、安定の無表情。蝶々にも反応なしか~、と思っていると、カンナちゃんは蝶々の止まっている草の前にしゃがんだ。そして蝶々をガン見。


「………………」

「あの、カンナちゃん?」

「………………」


 すててと俺の元へ戻ってくるエアリア。少し不満気な表情だ。


「なんなんですか、あれ? 私の話には興味ないよー、みたいな?」

「まあまあ落ち着けよ、お前の会話術がヘボかっただけさ」

「む、今のは聞き捨てなりませんね」

「ま、生き物なら俺に任せろ」


 俺はエアリアの肩をポンポンと叩いてから、カンナちゃんの隣にしゃがんだ。カンナちゃんは俺に反応もせず、一心に蝶々を見つめている。


「綺麗だよな、蝶々」

「…………ん」


 今のは返事でいいのだろうか。


「好きなのか?」

「…………ん」

「………蝶々の口ってどこにあるか知ってるか?」

「…………あたま?」

「まーそうなんだけど。ほら、ここになんかグルグル巻のやつがあるだろ」

「…………ん」

「これが口なんだよ」

「っ!?」

「うおっ」


 突然俺の顔の方を向いたカンナちゃん。そして安定のガン見。


「……ほんと?」

「あ、ああ。本当だよ」

「…………すごい」


 そう言うと、また蝶々観察を始めたカンナちゃん。無表情だったけど、目がキラキラしてた気がする。


「マアトー、エアリアー! 帰るわよー!」

「はーい!」


 どうやら雑談が終わったみたいだ、エアリアは母さんの元へと走っていく。


「カンナちゃん、俺もう行かなきゃだから。じゃあね」

「…………ん」


 俺に少し目線を向けて、首を縦にふるカンナちゃん。彼女なりの挨拶なのだろうか。俺は軽く手を振りながら母さんの元へと戻った。


「さ、帰るわよ」


 そう言って俺の前に手を差し出す母さん。俺はため息を吐きながらその手を握った。

 俺達はセリアさんに軽く挨拶をしてから、散歩道に戻った。


「マアト、エアリア、カンナちゃんとどんなこと喋ったの?」

「蝶々のことだよ、俺が説明してあげたんだ」

「よく言いますね。俺に任せろとか言っといて、教えたのはじょーしきじゃないですか」

「でもカンナちゃん、喜んでたじゃないか」

「喜んでたんですか? あれで?」

「ふふふっ、仲が良いわね、二人とも」


 嬉しそうに笑う母さん。その笑いを聞いてるとなんだか自分が子供みたいに思えて、恥ずかしくて黙ってしまった。まあ身体は子供なんだけども。

 けど、別れ際のカンナちゃん、ほんとに嬉しそうだったな。なんというか、生き生きしてたって感じ。まあ無表情だったんだけど。表情が分かりにくいだけで、カンナちゃんはやっぱり年相応の感情があるんだな。


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