第一回チキチキとき☆めき婚約者だって女の子だもん(はぁと)会議ポロリもあるよ
ふざけたタイトルですがシリアス多めでお送りします
ところ変わって我が家のリビング。さて…勢いのまま集めてはみたが改めて話をするとなるとどう切り出したものかと愛希は悩んでいた。
「勝手に人の心情をナレーションするんじゃない!」
「ぬ? 違ったか…妹のことを誰よりも理解していると自負していたのだが」
「惜しかったな。恐らくあとはデリカシーの問題だ」
ぽんと友助が俺の肩を叩く。このバカコンビが…! とどうやら元気を取り戻したようで何よりだ。
「それじゃあひとつ!」
と声を上げたのは華凜ちゃんである。
「わたしも…わたしもお兄ちゃんのこにゃにゃちわです!」
「失礼。婚約者の間違いだ」
くそう。友助め。兄として上手くフォローしてやがる…!
まあとは言ってもだ。
「悪いがそれはない」
これは譲れない一線であるから俺としても断りを入れなければならない。
「ふむ…なるほど。我が妹と婚約をした覚えはない、と。お前は確固とした態度で宣言するというのだな」
そういうことだ。
『真一お兄ちゃん結婚しよ!』
だったり
『う~お兄ちゃん…わたし小○校で行き遅れてて…』
だったり
『お兄ちゃんお兄ちゃん! これ学校でくばられたプリントでね』
だったりと色々あったものの俺はそれを跳ね除け…いやそこまで強く出られるわけはないがやんわりと退けていた。
「覚えていないということはない、と?」
こくりと俺は頷く。涙目になっている華凜ちゃんを横目にしていても、だ。
「でも…でも…!」
「華凜ちゃんが本気でそう言い張るのであれば俺も男として出来ることをするつもりだ。けど俺は自分に正直な女の子が好きだな」
「…かっこつけちゃって」
愛希が呆れた様に言う。
これは、華凜ちゃんだからこそ向けている言葉だ。いい子だと思うから、こうやってカッコつけられるのだ。
愛希はそれを分かってくれているようで、兄としては嬉しい限りである。
「すまんな」
「いや何。こちらとしても礼を言うべきだと思うぞ。我が妹と、俺の目の届かぬ所でも一人の人間として真剣な付き合いをしてくれていることが分かり、何よりだ」
さて、どうだろうな。俺はそれほど自分が出来た人間とは思わない。多分、そんな人間だったらこんな事態にはなっていないだろうしな。ただ…
『しんいち…くん…』
個人的な問題だ。
「…やはり真一を婿に迎えたいという想いは増すばかりだな。だがそれも縁あってのこと。今回は想い故に出過ぎた真似はせぬように自重せねばな」
「ふふ。だが完全に黙する気はない、ということか」
友助の言を受け面白そうに、にやりと明日香は笑う。まあ何も言う気が無いならそもそもここにいないしな。
「さて話を戻すか…うん。愛希が話を提示するのが筋だろうな」
それが何かは分からないが、何かを訴えたいからこそこうしているのだろう。
「…明日香さんも霞さんもこれでいいの!」
バン! とテーブルを叩き、立ち上がる。
「バカ兄貴のことなんて知りもしないのにわけのわかんないことに押し通されて、それで…」
それで…と続けようとしながらも口ごもり、顔を赤くする。しかし、続ける。
「…恋くらいさせろってのよ!!!」
そして、叫ぶ。言葉だけ聞いてもよく分からないだろうが…それは、俺の胸に響いた。
「生憎と…我には恋などというものはよく分からん」
しかし、あまりにも冷静過ぎる声で以て、帝崎明日香は答えた。
「だが、それは、それほど重要なものか?」
「っ!」
愛希は激昂しかける。だが、一つ溜息を吐くだけで終わった。
言葉足らずだったというのもあるだろうが…何故だろうか。堂々と悪びれもしていない筈なのだが、明日香の顔を見ると、文句を言う気は失せた。
「明日香さん…想いが無いのなら育んでいけばいいと思うんです」
「育む…って」
今度は、橘霞が応える。
「一緒に過ごしていけば、その人のことを知るようになっていけば、好きになっていけます。だから、今から始めればいいと思うんです。形はきっとそれほど重要なことではありません」
「重要じゃないって…」
「親子だって、生まれる子供も産む親も、選んでいるわけではありません。けれど、いっしょに過ごして絆を育んでいきます。上手くいかなかったりすることもあるかもしれませんが…それでもそうやって過ごしていくものです。
なら、夫婦だって初めに形があって、それから絆を育んでいっても、いいと…そう思います」
愛希は黙る。それは、きっと触れたことの無い価値観だからだ。
けれど…その言葉はどこか空虚のような。そんな印象を受けた。
「…ぁあああああああ!!!!!!」
さて、と二人のことを考えていると、愛希はしばらく頭を抱えているかと思えば唐突に叫んだ。
「気に入らない! 私は認めないわ!」
そして、実に簡潔に自らの思うところを述べた。
「分かったわ……ふん。明日香、私は私の考えるところは止めない。なら、あなた達を変えてみせる。これはおかしいんだって、そう思わせてみせる」
「ふ…中々どうして面白い人間であったな…愛希」
「愛希さん…なぜそこまで」
「仕方ないじゃない霞さん…これでも、短すぎる付き合いだけど…何だかんだで二人のこと…そんな嫌いじゃなくなっちゃったんだから」
こうして、俺達はずっとこんなふうにぶつかっていくのだろうと、そんな予感がした。
次の話から少しばかり特定のヒロインにツッコんだ展開にしようかと