エピローグ:俺たちの戦いはこれからだ!
これにて本編は終了となります
「え~というわけでバカ兄貴の公開処刑を始めようと思いまーす」
はーいパチパチパチとまばらに拍手する愛希。
えーっと…ツッコミが入ってもいいんだぜ。怖い。
ここは俺の部屋。手狭な部屋の中で密着しながら寝間着姿の愛希、明日香、霞さん、そして当然のように今日も泊まりに来た華凜ちゃんもいる。
さて、どうしてこうなったか少しばかり整理してみよう。
あの後、霞さんと共に帰ってきた俺達は、何事も無く迎えられた。
「お土産は?」
「悪い。忘れてた」
あっそ、とそれすらもあっさりと流し、靴を脱ぐ。
「しんいちおにいちゃん!」
バタン! と力強くドアが開く音がしたと思ったら当然のようにいた華凜ちゃんが飛び込んでくる。
「なんだかいつもとちがうニオイだね」
まあ洗濯もしてもらったし風呂にも入ったからな。
「ううん。これはこれですきー」
吸い込むようにぎゅうっと抱きついてくる華凜ちゃん。大物だった。
「さて、いいのか霞」
明日香が出てきて、霞さんを見遣る。俺も追って、霞さんの様子を窺う。
「華凜さんも真一さんと離れて寂しかったでしょうからね。私は胸がいっぱいですから、今はいいです」
「今は、か」
面白げに微笑む。
「よい心がけだ」
そして褒めた。
『落ち着きが少々、足りぬ面も目に付くこともあろうが華凜はお前を信じている。だから、心配していたわけではない。ただ、この前、宿泊して、より近くに居続けた反動もあるのだろう。寂しそうにしていてな』
やはり我が家は落ち着く、とベッドの上でだらけながら友助に連絡をする。何で華凜ちゃんがいるのか家族の友助に確認を取る意味合いもある。
『まあ我慢させるのも酷なので、昨日はそちらの家で泊まらせた。無論、その部屋でな』
文句があるわけはないのだが何か落ち着かなくなってきた。鼻を嗅いでみた。何か甘い気がする…気のせいかな。それとベッドの下を確認しておこう。
『しかし随分と景気のいいことだな』
「…間違っているだろうか」
何を差しているかといえば、それは俺が皆と一緒にいたいってことだ。その為に、不義理と言われても仕方がない日々を過ごしたいと思う。その為に、出来ることをしたいと思ってる。
『間違っていると言えば間違っているし間違っていないと言えば間違っていない。そういうことでしかない』
そうだな。結局の所は、自分、か。けどさ友助、そういう理屈はもう分かっているんだ。
『そうだな、その程度はもう俺が言うまでもないことか』
少しだけ寂しそうに笑う。
俺が聞きたいのは友助の言葉だ。友助がどう思うか、という話だ。
『俺が許さぬと言えばどうするというのだ? 華凜を諦めるとでも?』
友助も気付いている。俺が守りたいと思うのは華凜ちゃんもだ。華凜ちゃんが俺の元から離れたいと思うのならそれもいいかもしれない。けど、そうじゃないなら一緒にいてほしいなんてそんな風に考えてる。
「いや、お前の考えを聞くだけだ」
友助が、友助の両親が止めることになっても。
まあ、そんなことにならないに越したことはないのだが。
『さてな。あいにくと確約は出来んさ。あれはまだ幼いし俺自身、愛だの恋だのとは縁遠い身だ。お前がこれからどうするかもしれん。華凜を任せられぬと失望させるようであれば容赦はしないとも』
それを聞いて安心した。譲る気はないが、結局の所、俺は俺の為、という側面が強い。幸せを望みはするけれど、それは自分の為の言い訳になってしまうのでないかっていつも不安だ。
けど、母さんたち、創生氏、直仁氏、そして友助。俺だけじゃない、皆の幸せを望んでいる人たちがいる。なら、俺がヘマをしてもきっと立ち直ることが出来るだろう。もちろんする気はないけどな。
『まあお前が華凜を華凜の意思に関わらず捕まえたいとそう思っていないというのは遺憾といえば遺憾だがとりあえずは良しとしよう』
我ながら中途半端だとは思うが、いつかといわず近いうちにどうにかしたいと思うがとりあえず友助は呑みこんでくれたことに感謝しよう。
『もっとも…奇特な決断をしたからには、当然、要らぬ苦労を背負い込むことになる。とりあえず、今日はそのことをじっくりと味わうがいい』
どういうことだ、と問い返す間もなく、電話は切れ、同時に
「ハーイ、バカ兄貴、清算のお時間よ」
愛希たちが、俺の部屋に乱入してくるのだった。
「HAHAHA処刑といっても別に死刑って言ってるわけじゃなし心配しなくてもダイジョブだってばぁ~」
胡散臭い笑い声と相まって説得力が無いな。そして思い出した。
『わたしもがんばるよ! とりあえずかえってきたら…』
『あ! 華凜ちゃんダメ!』
何か言いかけた華凜ちゃんの言葉を遮るように愛希が叫ぶ。
え? 帰ってきたら何があるんだ?
うん……迂闊だった。
「とりあえず俺は何をすればいいんだ?」
「さあね」
それこそ判決を待つ罪人のように不安になるんだが
「しょうがないじゃない。バカ兄貴がバカばっかやるからこっちだっていろいろ持て余してるの」
それを言われては立つ瀬がないな。
「前にも言ったが我らというか我抜きで話を進め過ぎだ」
「かすみおねえちゃんのうちでなにがあったのかきかせてもらいます」
「私の日は終わりですがその分、遠慮するというのも嫌なので」
理屈で言えば通ってなんていないのだがそれは俺も同じだ。そういうことも必要なんだろう。
「なるほど霞さんの家でそんなことが…霞さんのお父さんはともかく、静香さんに詩織ちゃん、ねえ?」
改めて考えてみる。
詩織ちゃんは俺のことを姉の婚約者だとか結局、血のつながらない比較的遠い人物、とでもいえばいいのか。言い方は悪くなるかもしれんが、実の妹のようというかどうあがいても恋愛対象と見做すことが出来ず、逆に安心するのだ。
「なるほど」
華凜ちゃんが納得する。この感覚は実際、兄貴のいる華凜ちゃんなら分かるかもしれない。妹系と妹は違うというだけの話だし実際の妹である愛希と比較するとおかしいことを言っているような気もするが、時と場合によるものだろう。そういうものだ。
「それで原田静香、か」
今回は出し抜かれた、という側面もあるがそれだけではない様な複雑な感情をこめて、明日香はその名を呟く。その名を呟かれた俺の反応を見守るように、皆も俺を見る。
さて、端的に言うと…困る人物だ。直仁氏もそうだが結局の所、いわば『敵』になりそうな一面も持っているし何を考えているのか読めない面もある。けれど、実際に話をしてみると思いの外、落ち着くというか落ち着いてしまうというか。緊張感と警戒をある程度は持たないといけないというのは分かるのだが。
うん。それとお姉さんみたいなというか実際にお姉さんなのだ。頼ってくれといえば頼ってしまいたくなるようなオーラ。俺は兄貴になりたいと常日頃目指すのだが故に尊敬の念を持っているのと甘えてしまいたくなるような…
「はいストップー! ダウトダウトー!」
愛希が叫んでいるのが聞こえて思考の海から這い出る。気付くと、愛希だけじゃなく皆が白い目で見ていた。
「ちなみに真一さんは随分と静香さんを頼りにして帰り道でも思い出すようにしていました」
拗ねた様に密告する霞さんであった。
「ふむ、真一の好みはあれか…きちんと躾けねばならんな」
逞しいことこの上ないな。いや俺が言えた義理ではないんだが。
とはいえ俺は自分の好みだとかそういうのを深く考えたことはないが静香さんが俺の理想の女性像かといえばそれはちょっと違うと思う。普段、うまくやれているかどうかは別にするとして愛希に華凜ちゃんという妹のような女の子が周りにいた。だから姉のような存在というのは珍しいというか一種の清涼剤のようなものというか引き寄せられるというか…
「はーいだからダウトダウトー!」
考えれば考るほどドツボにはまっているような考えを愛希は何とか中断させてくれた。
浮ついたなんやかんやはあって叱るべしだが、ようやっと見えてきた。俺は、愛希に、明日香に、霞さんに、華凜ちゃんに。兄だとか妹だとか究極的に言えば関係ないと思うのだ。
もちろん、愛希とは義兄妹だしそれは変わらない。怒られるかもしれないが華凜ちゃんだけではなく明日香や霞さんも兄みたいな存在として支えられればいいなと思ってる。けれどそれは俺の中にある思いの表層だ。表面でしかないのだ。
その奥にある、もっと深くある、この先を歩みたいという想い。ああそうか、今更ながらこれが愛希の欲しがっていたものだろうかと気付いたりするがそれが静香さんにはないのだ。
「ばっかじゃにゃあの!」
愛希が顔を真っ赤にしながら顔を背ける。
「ま、とはいえそれでも多少は浮ついているというのは事実であろうよ」
そうだな。情けないことだが俺の個人的な事情というかそういう面があることは否定できない。
「というわけで今から我のことを姉上と呼んでみよ」
「どういう罰ゲームなんだ」
「いいから呼んでみよ」
ごり押しだな。
「…姉、上」
「何だ真一よ」
お互いに平気そうに……してはみるが無理があるわ。恥ずかしさが多くを占めるだろう衝動に顔を真っ赤にして背けるが何だこれは
「何だこれは」
明日香も同じだった。というか自分から振ってきたんだろうに。
「バカ兄…真一。お姉ちゃんよ」
「オネエチャン」
「棒読みすぎ! 何なの!?」
いやあだってさすがに無理があり過ぎるぞ。
「しんいちくん。おねえちゃんだよ?」
今度は、華凜ちゃんが手を広げて、言う。
「…」
「バカ兄貴、何で固まってんの?」
「ゴメン。これはさすがにまずいと思うんだ」
ちょっといいかなと思った俺をぶん殴ってやりたい。ショックを受けている華凜ちゃんには悪いが。
「真一さん。どうでしょう」
ぱぁっと待ち構える霞さん。心なしか包容力がいつもより三割増しだった。
「霞さん。霞さん!」
「いやですよ。お姉ちゃんって呼んでください。難しい年頃なのは分かりますが」
「ておい! 離れろバカ兄貴! 霞さんも微妙に役に入り込まないで!」
吸い寄せられるように霞さんの腕の中で悶えていたが愛希に中断させられる。霞さんがちょっぴり残念そうな顔をしたのは気のせいなのかどうか。
「何なんだ! おっぱいか! おっぱいなのか」
女の子が深夜におっぱいおっぱい言うんじゃありません。すみません柔らかかったです。
「人には得手不得手というものがあるということだ。先程も言っていたが別に真一は姉嗜好とかそう言ったこともないしあえて不利な土俵で戦うこともあるまい」
「うん? どういうこと?」
「お前が今、霞を羨む気持ちがあるように霞もまたお前を妬むような側面があるということだ」
ちらりと霞さんを見る明日香。その視線を受け、霞さんは顔を真っ赤にして頬を膨らませる。俯きはしない。こんちくしょーめーといった感じだろう。
愛希は何だか分からないけどまあいっか、と呟きながら溜息を吐いた。
三者三様…いや華凜ちゃんもか。俺一人では、結局の所、分かってやれない部分、解決できないことが出てくると思う。
けれど、大丈夫になるまで。いつか、誰かと結ばれて、どんな困難も二人だけで乗り越えられるとそう確信できるまで、せめて今はこうしてお互いを支えたいとそう思う。
うん。だから、皆の前で俺は宣言する。
「みんな、これからもよろしくな。婚約者として」
「あーはいはい」
軽っ! ここまで騒いでたくせに軽っ!
「というわけで寝よう! 明日も学校だし」
「…それはいいんだが」
当然のように部屋から出ない。うん。もうツッコむまでもないことになりつつあるな。それはともかくとして手狭になるからどうしたものか。
「あ。じゃあわたしがこうしてうえになればいいんだよ」
思いっきり体を上から重ねてくる華凜ちゃんである。理に適っていた。
「それじゃあもっとくっつかないといけませんね」
「仕方ないなバカ兄貴は」
「いやそれ俺関係な…」
「…くぅ…」
「寝つきいいな明日香…て強い! ちょっと離れようか」
俺達がこれからどんな道を歩むのか分からない。けれど俺達は無敵だと。根拠なく、いや俺達が根拠だと。そんな風に思えた、日常の一幕だった。
この後、キャラ設定(改)として今回の小説のまとめを投稿しようと思いますがまあ読まない人もいるでしょうしね。この場でお礼申し上げます。ここまで読んでいただきありがとうございました。ありがとうございましたぁああああ!!(土下座)
次回作にご期待くださいと言うのも知らねえよですが続きかくことになったらどうか温かい目で…それではごきげんよう……




