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婚約者が突然現れたのだがどうすればいい?  作者: 山崎世界
秋月愛希編:秋月愛希は愛を希(のぞ)まない
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秋月真一は愛する生き物である

友助による主人公解説。痒いところに手が届く…んでしょうかねぇ

内面に秘めているだけなので地の文が多いです

 さて、ひとまずの決着を見ることとなったが一体何がどうなったのか、話を聞くために昼休み、俺は真一を呼び出した。

 明日香嬢と霞嬢は、とりあえずよしとしたのか昨日のような戯れを止めた様だった。そして俺の意も汲んでくれたようで二人きりとなることを了承してくれた。もしかしたら愛希嬢と積もる話もあるのかもしれんが、まあ俺の知るところではないか。

「…なるほどそうなったか」

 朝の様子を見て、華凜が本懐を遂げることが出来なかったのは分かった。しかし、玉砕しているのであればもう少し落ち込んでいるものと思ったが…なるほど。そういう決着かと。意外でも何でもなく、むしろすんなりと納得出来た。

「いや、俺としてはどうしてこうなった、と…」

 さて、この期に及んでと言うべきか。仕方のない面もあるが傍から見ているとやはりじれったいと思ってしまうが。

 ふむ、そうだな。そもそも愛希嬢は、真一のことが好きである。どうしようもないくらいにだ。これは絶対の前提としてもいい。

 そう、どうしようもないのだ。たとえ真一とどのような関係であろうと。兄と妹として接していようと恋の炎が消えるわけもなく…いや、むしろその関係性すら愉しんでしまうような、そんな人間が秋月愛希なのである。普通に照れ隠しに憎まれ口を叩いてはいたもののその実、真一に兄として甘え、萌えていたに過ぎぬのである。兄と妹として悩んでいると言われても、実際のところそんなものは『あぁまた何か言ってるな』程度の戯言と言ってしまってもいい。

 そうだな。今回の愛希嬢の情動は事実、心の奥底で不安に思っていたことでもあるのかもしれない。だがしかし、本当に真一をモノにしたいというのであればそんな概念的で掴みようもないものに執着すべきでないのだ。むしろ義妹という近い立場から外堀を埋めるなり既成事実を作るなりすればいいだけなのだ。その後で、枕元で好きなだけ語らうなり何なりすればいい。理想を抱いて溺死しろというやつだ。

 だから、華凜にスキを与えることになるのだ。危機感が足りない。ならば思い知らせてやればいい。…やれやれ。今回、言質を取れればと思っていたのだがさすがにそこまで甘くはないか。

 さて、複雑なようでいて単純に過ぎない愛希嬢の愛と情を看破すればいいと真一に求めるのはいささか酷というものだろう。これは、真一と愛希嬢の始点。言うなれば真一にとってのトラウマだ。

 真一は自分が思っているよりもずっと、兄として上手くやっている。けれど、それを自分で認めることが出来ない。周りが何を言おうとも、だ。

 秋月真一は愛する生き物だ。好きなものを大切にしたい、可愛がりたい、幸せになってほしい。それが自らの幸せだと言って憚らない。情けは人の為ならず、を地で行く人物とでも言えば理解が進むだろうか。それは真一にとっての本質でしかないが、それが愛希嬢とのいざこざでさらに加速したことも事実であろう。

 だから、普通なら放っておけばいいものを、悪手でしかないとしても、変態的と言ってもいいほどに気に懸けてしまう。さて、そう考えるとその辺りをどうにかしたいという愛希嬢の願いがあったのかもしれないが…まあだからといってやはり同情できるものではないな。

 決死の覚悟の華凜の邪魔をしおってからに…そっちがその気であるのならこちらもそれなりの対応をさせてもらおう。

「さて、話を聞くと…真一、お前は華凜と同衾していたのか」

「それはそうだろう一緒の部屋なんだから」

「ふむ、なるほど…では一緒に風呂に入ったりしたか」

 不審そうな目を向けながらも、頷く。なるほど、華凜も中々に大胆なものだな。

「いったいそれの何がおかしいんだ」

 なるほど。真一から見てみれば華凜はただ甘え上手に見えることだろう。さて、であればこそ、真一と、実の兄である俺との差異をはっきりとさせてしまおうではないか。

「華凜はな。もう俺や父とは風呂に入らんし同衾もせんのだよ。男女七歳にして席を同じうせず、というやつだ」

「…ぇ?」

 驚いているな。ふふ、そうだその顔だ。

「まあ親父殿もそれなりに子煩悩でな。華凜が申し出てきたときには多少面食らったようだが仕方がない、と諦めたのだよ」

「…華凜ちゃんから言ってきた…?」

 薄々分かっているだろうに何でという顔をするな。

「まあ俺と母が教育した面もあるが、やはり肌を晒すのは心に決めた人間でなければならない、とな」

「…それを聞いた俺はどうすればいい?」

「ははは悩め。大いに悩むといい」

 今は一方的なものでしかないのだが、さて、華凜の想いはいつか繋がるだろうか。とりあえず、ささやかな復讐を込めて、親友に届けるとしよう。

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