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婚約者が突然現れたのだがどうすればいい?  作者: 山崎世界
秋月愛希編:秋月愛希は愛を希(のぞ)まない
32/51

度量の差

切りが悪いので分割します。期間空けてるくせに何とやらですが…

 霞さんと華凜ちゃんが仲良く台所に立っている間、俺も皮むきくらいは手伝おうとしたものの、

『こういう場面は見ないのが礼儀というものですよ』

 霞さんが珍しく茶目っ気を見せてくるので俺は退散することにした。

 そして、今は明日香が俺の部屋を訪れていた。

「なるほどそういった次第か」

 明日香からしてみればいきなりの事態で口に出しはしないがさぞ混乱したことだろう。

「あの男の策にしては妙に意地の悪いことと思ったがお主も一枚噛んでいたとはな」

 やれやれと溜息を吐く。

「このままで大丈夫だと思うか」

「あの男の性質は純朴でしかない。心配することはなかろう。まあ…色々と面白くないというのも分からなくはないがな」

「…」

 当たり前のように言い放たれたのだが…面白くない、のだろうか俺は。

「愛希の心乱れる様に胸を痛めているという部分もあるだろうがな。一番引っかかっているだろう部分は、結局の所、愛希のことを分かってやれないこと。これが、悔しい。これに尽きるだろう」

「友助は…霞さんは、分かるんだろうか。何で、一番近くにいて、一緒にいた俺が、分からないんだろうな…」

「それだ」

 ぽつりと漏らした呟きに、鋭く指摘してきた。

「それとは?」

「お主は愛希のことを気にしすぎているのだ」

「…いや待て何を言っているんだ」

「あれはな。心の奥底と表面が乖離している面倒な気質の持ち主なのだ…まあ人のことを言えた義理ではないがな」

「考えすぎ、てことか?」

「そうだな。お主は、お主にしか明かしていない愛希の言葉一つ一つを真に受けてしまっているのだろう。基本、あれの言葉は本人にすら真偽は分からぬ。それを全て真なりと受け取ってしまえば矛盾しか生まれまいよ」

「なら、俺が愛希の言葉を分かってやれれば…」

「理屈はそうだ。が、無理だ。そして無理がたたり、視界が狭量になりがちだ。それが原因で判断の為の材料が足りんのだ」

「視界が狭い、か…」

 そこで思い至るのは華凜ちゃんのことである。

 愛希が俺にとってどういう存在であるか、というのと同時に、華凜ちゃんが俺にとってどういう存在なのか。それを見定めよ、と。友助はそれを言いたかったのではないか。そして、俺はそれを蔑にしていなかったか、と。

(友助が怒るのも道理、か…)

 色々見えてきた気がする。

「あと、愛希や周囲のことを知ろうとするのはいい。ただ、今の愛希のことを気に懸けるくらいのことはしろ…面倒でたまらん」

 すまん、と苦笑いを浮かべながら俺は謝るのであった。


「今日の夕飯は華凜さんが手伝ってくれました」

 和やかな拍手により始まった夕食である。

「はいおにいちゃん。あ~ん」

 ヤ○キーではなく正真正銘のあ~んだった。人生初のやつであった。

 にしてもあれだな。華凜ちゃんはしつけが行き届いているようで箸を綺麗に使いこなしている。手ブレひとつしていない。凛としていて力強さがある。霞さんは動きが柔らかなのと微妙に対照的である。

 まあそれは置いておくとして。華凜ちゃんの腕では届かないので徐々に無理な体勢になっていく行儀悪を許すわけにはいかない。親友にも顔向けが出来ん。というわけで

「あむ…むぐ」

「ど、どうかな?」

「美味いよ」

華凜ちゃんが差し出してきたのは人参だった。潰れているような引っかかるような妙な食感がする。力や思いきりや慣れやらが色々と足りないのだろう。形や大きさも不ぞろいだ。

 だが、心の中には感謝しかない。ごろごろの人参を噛み締める歯ごたえもいいし崩れかけた人参の、出汁が染み込んだほろほろもいい。まあ一般的に言えば失敗かもしれんが目の前に華凜ちゃんがいて、美味しいと感じてしまうのだからしょうがない。

「えへへよかった。でもやっぱりかすみおねえちゃんにかんしゃしないとだめだからね」

「ん。そうだな」

 横目に見える明日香は笑いをこらえる様にしていた。狭量な俺と違い、よほど周りが見えている、と感心せざるを得なかった。

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