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婚約者が突然現れたのだがどうすればいい?  作者: 山崎世界
秋月愛希編:秋月愛希は愛を希(のぞ)まない
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あまえ

 朝、目を覚ますと目の前には天使がいた。

 まあ羽根が生えていたりするわけでもなく、ただの比喩でありつまり華凜ちゃんでしかないのだが。小動物のように布団に丸まり、あどけない顔で目を閉じて、くうくうと可愛らしい寝息を立てている。

「と、そうだ時間」

 呆けているわけにもいかない。

 時計を見ると、もうそろそろ起きねばならない時間だった。

「朝だぞ。起きよう」

 耳元でそっと声を掛け、体をゆさゆさと揺らしてみる。

「んー…」

 すると、緩慢な動きで手を宙にさまよわせ始める。

 そして俺の体に突きあたる。

「んー…?」

 表情に不思議そうな色を浮かべ、俺の体に這わせる。

「ふわぁ」

 そうして、ゆっくりと、目を開けた。

「ぇ…?」

 固まった。

「おはよう」

「ぇ? え? ここ…わた…」

「落ち着こう。大丈夫だから」

 いつもとは違う寝起きで混乱しているのだろう。布団をぺたぺたと叩いてみたり周りを見回してみたりする。

「あ、しんいち、おにいちゃん…うん…」

 とりあえず俺をきっかけに落ち着き、我に返ったようで…そしてゆっくりと考え込むようにして…ボンッ! と爆発するように顔を一気に紅くした。

「えっと…えっと……ちあうよ? しどーけのかくんで早寝早起きはキホンだから。いつもはね。めざましがここらへんにねえっと…」

「無理はしなくていいぞ。慣れない環境に調子を崩しても仕方がない」

 あう~と穴があったら入りたいと言わんばかりに縮こまる華凜ちゃんに対し、俺は溜息を吐き、そんなことを気にすることはないのだと説く。

「俺は嬉しいぞ。華凜ちゃんの見たことの無い一面を見れたからな」

「むぅ。いじわる」

「意地悪のつもりはないんだが…参ったな」

「なんてね。わたしもしんいちおにいちゃんのなさけないところが見れたからおあいこなのです」

 あははと笑う華凜ちゃん。おおう…してやられたというやつか。

 さて、着替えるか………着替えていいのだろうか?

「えっと…だいじょうぶ…だよ?」

「そう言ってくれるのはありがたい。が、俺は一応、後ろを向いている。紳士だと俺を信用してくれると助かる。後、下着姿が見苦しいというのならばすぐに出て行くから」

「うん分かった」

 さて、俺は制服を、華凜ちゃんはカバンを手元に寄せて着替えを始める。

 衣擦れの音がする後ろで、俺が着替えを一段階進めるたびに何やら反応する声がする。

「はぁ…はぁ…」

 そして着替えを終え、振り向いた華凜ちゃんは何やらとても疲れた様な様子だった。


 当然のように学校はあり、俺と友助は顔を合わせる。

『息災であったか』

『うん』

『ふむ…うむ。そうか。それはよかった』

華凜ちゃんに再び相まみえた時の反応はあっさりとしたもので、しかし絆の強さは窺わせるものだった。

 そして昼休み。友助は俺に、家での詳しい様子を聞いてきた。

「なるほど」

 そして半ば予想していたように、驚きも無く受け入れていた。

「友助。どうにか穏便に事を運ぶことは出来ないものか?」

 愛希は目に見えて不機嫌だった。華凜ちゃんの手前、それほど強くは出ないがそれにより自らに溜め込み、漏れるように周りに当たるようになる。

 このままでは誰にとってもよくないことなのではないか? と。俺は考えた。

「さて、それは甘い考えというものだな。むしろ愛希嬢が、感情の制御が上手くいかんというのは僥倖というものであろう。溜め込み過ぎることもないし、今こうして問題意識もきちんとあるのだからな」

とはいえ、真一の言も間違っているわけではない、と。友助は続けた。

「なんだかんだ言って諍いなど無いに越したことはない。出来るのであればやはり平和的に行うのが一番であろうさ。だが相手は愛希嬢だ」

 分かっている。取り繕うだけならいくらでもできるかもしれんが、それが嫌だと言ったのが愛希だ。なら、弱音を吐くわけにもいかない。か…だが

「愛希は一体何に怒っているんだ?」

 それを俺が気付くことで、早く終わらせることが出来るのではないか? そう思い、友助にヒントだけでもと思い、聞いてみた。

「それは間違いなく嫉妬であろうさ」

「…愛希が、女として華凜ちゃんに? ってことか?」

 けれど、言っては悪いが華凜ちゃんは俺のことを兄のように甘えている、その部分がどうしても混じっている。愛希が違うと言い切り、否定したそのものではないのか。ならば、俺と華凜ちゃんの関係に嫉妬する要素など、無いはずではないのか。

「それがそもそもの間違いなのだ」

「どういう意味だ?」

「さて生憎とこちらの見当も外れているやも知れぬのでな。それにこれは、お前が…そして愛希嬢が自身で気付かねばならぬこと」

 そう言って、友助はこれ以上の問答は無意味、と遮った。

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