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婚約者が突然現れたのだがどうすればいい?  作者: 山崎世界
秋月愛希編:秋月愛希は愛を希(のぞ)まない
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華凜ちゃんとの関係

 華凜ちゃんが何をしに来たのかというと、夕食が出来たので俺を呼びに来たのだそうな。

 友助もさりげなく誘われたが断り、仕方なく俺と華凜ちゃんは着席する。

「…」

「どうですか? 何か食べられないものなどはありませんか?」

「ん。だいじょうぶです。というかおいしいです。キライなものがあってもへっちゃらになっちゃうとおもいます」

「そうですか。それはよかったです」

「……」

「それでは、好きなものはありますか? この機会に華凜さんに御馳走したいと思うのですが」

「…かすみおねえさん。やっぱりなにかあった?」

 そういえば霞さんの騒動の時は華凜ちゃんのことも避けるようにしていたのだったか。

 いや、それ以前に霞さんはさり気ない気遣いが出来る人だがこうして前に出る(いやそれにしたって控えめだが)ことはしない。

「何かという程ではありません。ただ、そうですね。私は華凜さんともう少し仲良くしたいな、とそう思ったものですから」

 そう言って霞さんはちらりとこちらを見た。

「…んんー?」

 華凜ちゃんは首を傾げる。眉を少し寄せて、何やら考え込むように人差し指を頭に当てる。

「……」

「ふむ。なるほどあの男の妹、か。中々どうして、というところか」

 明日香はじぃっと華凜ちゃんの方を見つめていた。

「あまり睨みつけるな。小さい女の子だぞ」

「さて、それこそ礼を失しているというものかもしれんぞ真一」

 含み笑いを浮かべながら、明日香は視線を外した。

「むぅだめだよしんいちおにいちゃん」

 ぐいいっと俺のほっぺを突っついてきた。

「あすかおねえちゃんだって女の子なんだからもっとやさしくしないと」

 明日香は、呆気に取られたように固まった。

「いっつもそんなたいどじゃあ、いつ愛想つかされたってしらないんだから」

「…いや気にするな。今さら気を置かれたらむしろどうすれば分からん」

「むぅ。あすかおねえちゃんはそれでいいの?」

 明日香は今度こそ硬直した。

「…真一に蝶よ花よと愛でられる、と?」

 さて、珍しく困り果てた、という顔を浮かべる明日香はしかし、豪快に笑った。

「ええっと…?」

「いや悪かった。気にしないでくれると我も嬉しい」

 安心させるような笑みを浮かべる明日香に、華凜ちゃんも一つ頷き、食事に戻った。

「………」

「それにしても華凜ちゃんしっかりした子ねぇ」

 今度は母さんがしみじみと言う。

「えへへそうですか?」

 華凜ちゃんはちょっと誇らしげに謙遜した。よし、と可愛く拳を上げたりもする。

「まあちょっと甘えん坊みたいだけどね?」

「はう」

 そして居心地が悪そうに縮こまる華凜ちゃんであった

「うふふ。いいのいいの」

 母さんは遠く、どこか眩しいものでも見る様にこちらを見つめていた。さて、何故そのような表情をするのか、と疑問に思ったところで

「…………」

 カンッ! と箸が食器を大きく弾く音がする。その主は…さっきからずっと黙っていた愛希だった。

 愛希は食事が始まってから目に見えて不機嫌だった。行儀が悪いぞと注意するのも憚られるほどにガチャガチャと音を立て、眉をしかめていた。

「…あきおねえちゃん?」

「…何でもない何でもないからね華凜ちゃん」

 愛希もそれを華凜ちゃんにぶつけるわけにはいかないという分別くらいはついているようだが、如何せん感情の制御が未熟な面があるから凄絶な笑みになってしまっている。

 華凜ちゃんも小さく悲鳴を上げざるを得ない。

「どうしたというのだ愛希。今日の夕食に嫌いなものなんてないはずだろう?」

「んー? あるけど?」

「…そうなのか」

 もしかしたら簡単に解決するのかもしれない、などと考えてしまった。

「で、それは何だ?」

「バカ兄貴のバカ面」

 しかし、それは当たり前のように間違いであったと気づかされた。

「…あいにくと自分の顔は見えないものでな何が気に障ったのか後学のために教えてくれ」

「華凜ちゃん膝の上に乗せて悦に浸るバカ面よ」

 食卓に着いてから、俺が席に着いたのを見計らって、華凜ちゃんは俺の膝の上に乗ってきた。

「いったい何が悪いというんだ」

 それを愛希が気に食わないと言う。もしその原因が俺にあるのなら、解消したい。華凜ちゃんはきっと何も悪くはないのだ。

「バカ兄貴がバカ兄貴だからよ」

「いやだからそれが」

「私…私だって…!」

「いい加減にしろ」

 明日香の声が響く。厳かに場を静め、俺達は、我に返る。

「えっと…えっと……」

 俺達の間にいた華凜ちゃんは、今にも泣き出しそうな顔をしていたのだ。

「…ごめんな」

 俺は、ゆっくりと頭を撫でる。それくらいしか、出来ることはなかった。


「ごめんな華凜ちゃん」

「んーん。だいじょうぶだよ」

 波乱の夕食が終わり、お風呂から上がってきた華凜ちゃんは、床に就くため、俺の部屋に来た。

「…はぁ…」

 何でこう上手くいかないのかね。

「…しんいちおにいちゃん…」

「ごめんな。情けないところばっかり見せて」

「…」

 ぐっと華凜ちゃんは、俺の胸に顔を寄せ、同時に俺の胸元を少し引っ張るようにした。

「華凜ちゃん…?」

「…くぅ…むにゅ…」

 そして、その体から、ゆっくりと力が抜けていった。

「…ごめんな」

 その体をゆっくりと持ち上げ、布団をかぶせる。そして、謝りながら、俺は華凜ちゃんの体を抱き締めた。

 こうして、華凜ちゃんとの一日目は幕を下ろしたのであった。

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