妹はどっちだ
帰納法とか演繹法とかの話です…多分
俺は友助に色々と問い詰めるため、俺の自室に招く。華凜ちゃんは愛希たちと一緒に挨拶だとか可愛がりを受けていたりする。何やら黄色い声が聞こえて来るので盗み聞きしている、などということはないだろう。
「いや何。華凜も年頃の娘だからな。その辺りの色々について教授願えればと参った次第だ」
俺はそう嘯いた友助をじぃっと見つめてやる。
「…華凜はお前のことをとてもよく慕っている。それは、俺に対する愛情とは似ているようで違う。違うようで似ている。それが区別できるのは、俺と、お前がいるからだ。
想いに限らず、物事の事象というものは須らく比較によってその定義を得る。俺もお前も華凜にとって兄の様な者、という時点では似ている。が、俺とお前は違う。故に、お前は華凜にとって特別な存在である。つまりはそういうことを証明できる、という話だ」
「つまり、俺にとっての華凜ちゃんと愛希はどう違うのか、という話か」
華凜ちゃんと愛希。二人は俺にとって妹のような存在である、ということ。そして、大事に想っていることは共通している。なるほど。それ以上は深く考えたことはなかったが、愛希が求めているのはその辺りのことなのか。
「愛希嬢は結果ではなく過程が欲しいのであろう。自らの想いが、恋心より生じたものであるという確証が。しかしそれにわざわざ付き合う必要は無かろう」
やれやれ、と友助は溜息を吐きながら締めた。
「まあ分かった。で、聞きたいのだがな友助」
「ふむ。何だ」
「お前もここに泊まるのか?」
「む? いや、その予定はないがなぜそのような質問をする?」
「じゃあ………それ華凜ちゃんの荷物だよな? 何でこの部屋に置くんだ」
いや、何を言っているんだという顔をするな。
「この部屋を使うということで話はついているはずだが?」
「聞いてないぞ」
「察してくれ。華凜は親戚を除いての外泊は初めてなのだ。であれば、誰かが傍に寄り添い、安心させてやる必要があるだろう」
「それは愛希とか霞さんとか明日香とかいるだろう。華凜ちゃんだって女同士の方が安心するんじゃないか?」
「…それは何か? 間違いでも犯しかねんとでもいうつもりか?」
「いやそういうわけじゃないが」
何だ? 友助の声に少し苛立ちのようなものが混じった気がする。それを向けられ、俺は戸惑うのと同時に
(何かがおかしい…)
頭の中に思い浮かぶ。愛希と華凜ちゃん。二人の存在を並べて、二人が俺にとってどういう存在なのかはっきりさせる。つまりはそういうことだ。
けれど、本当にそれだけなのか? いや違う。本当にそれが目的なのか? どこかで何かが引っかかる。友助の真意は、何か別な所にあるのではないか…
「とにかくだな」
まあそれはともかくとして、友助の読めない思惑ということもありこのまま流されてはいかんだろうという思いで言葉を続けようとするが、
「しんいちおにいちゃーん!」
ノックも無しに開け放たれたその声で中断し、
「それではな華凜。礼節を以て、事に当たるのだぞ」
「うん。バイバイおにいちゃん」
流された。それこそまるで図ったようなタイミングで、しかしそこら辺のどろどろとしたものは一旦さておき、俺の膝の上にいつの間にか着地していた華凜ちゃんがバランスを崩しかけているのを支えてやる。えへへ、と笑う中で、華凜ちゃんは大手を振って友助を見送った。
「ああ最後だ真一よ」
何だと問いかける間もなく、友助は言い残す。
あまり華凜を舐めるなよ、と。




