士道友助の策
「というわけでどうすればいいと思う」
俺は目の前の男、友助に問う。昼休み、友助と二人きりで話をするために屋上で弁当を持って顔を突き合わせていた。
「一つ聞くが、お前は俺にどのような返答を望む?」
「どのようなって?」
「前にも話をしたことがあったと思うが、この件に関して、妹御とお前のどちらに味方するかといえば、俺はお前の味方だ。味方でしかない。もし、お前が俺に第三者としての言を望むというのであれば、期待には応えられんよ」
なるほど。そう言われて気付いた。深い考えといえるほどのものもなく、ただ聞いてほしいだけだったのだと。
「なるほど。であればあえて言うが、お前は今のままであればいい」
本来、友助は俺の味方であることを標榜している。しかし友助自身は公正さを重んじる性格であり、バランスを取るために寧ろ俺への言葉は控えようとする。それでも言葉にしたと言うのであるからそれはよほど強い意味での忠告なのだろう
しかし、それに頷くことは出来なかった。俺が今のままでいてはならないから、こういった面倒な事態になっているのではないのか。
「これは結局の所、戦いなのだよ。どちらが己を貫くか、というな。愛希嬢がお前を自らの望むように変化を求めるのであれば、逆。お前が愛希嬢を自らの色に染める、というのも一つの手だ。そうは思わんか?」
「…いや、俺が愛希が不幸せなのが嫌なだけなんだ。俺にとって俺が俺であることとかそんな面倒なことなんかよりな」
「なるほど。が、結局の所、愛希嬢の要求を呑むのは真一には不可能と思うぞ。であれば、呑みこんでしまえばいい。そこから有無を言わせず幸せにしてやればいい。それが男の甲斐性というものだ。それに…」
「それに?」
愛希もどこか詰まる様だったが。一体、何があるのだろうか
「まあいい。さて、それにしても…」
む? 何だ、友助の雰囲気にやや不穏なものを感じる。
「納得できぬというのであれば俺にひとつ考えがある。悪いようにはならぬはずだから、安心しろ」
そうして友助はすっとペットボトルのお茶を一飲みし、立ち上がる。
「いや、何を」
さて、友助のどこか不機嫌のような、それでいて不敵に笑うような態度に、しかし、
(まあ友助だしなぁ…)
そう思い直し、腰を落ち着かせて進まなかった箸を進ませた。
さて、放課後、とりあえず家にさっさと帰るように友助に言われた。
「ぬ? 何か妙だな」
明日香は玄関を開けた先で声を上げた。
「そう言われると、いつもより掃除が行き届いていますね。お客様が来られるのでしょうか?」
と霞さんも追従する。
まあそんなことはさておくとして、俺は、自室で寛いでいた。すると、ピンポーンとチャイムの音が鳴る。
宅配便かな? などと軽く疑問がよぎるのだがまあどうでもいい…と思っていたのだが、なぜか母さんがにやにやと笑いながら、俺に出る様に言う。
釈然としないながらも、ガチャリと玄関の鍵を開ける。すると
「お・に・いちゃーーーん!!」
と思いきり抱きついてきた影を必死に抱え、倒れ込む。かまわずすりすりとしてくる謎の物体(いや分かってるんだがな)の頭を撫でるとはにゃあんと可愛い鳴き声を上げた。
「な…何事?」
「む」
「まあ」
そして、愛希たちも覗きこんできた。すると、後ろから何やら荷物を抱えた友助は、こう宣言した。
「今日からしばらく華凜を預かってもらうことになったのでよろしく頼む」
「よろしくね。しんいちおにいちゃん」
「な…なぁあああ!!!」
いや、友助よ。何を考えているんだ?
華凜ちゃん編は予定なかったしまあ多少はね?




