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婚約者が突然現れたのだがどうすればいい?  作者: 山崎世界
秋月愛希編:秋月愛希は愛を希(のぞ)まない
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確かめなければならないことがあるわ

「…確かめなければならないことがあるわ」

 満を持して、と言わんばかりに真剣な顔をして、俺に同行するように命じてきた。

「お母さん!」

 なーに? と間延びした声で聞き返してくる母さんに、しかし愛希の言葉はあーだのうーだの歯切れが悪いことこの上なかった。しかし、隣に座る俺を見て、深呼吸して、切り出す。

「…ねえお母さん。私が婚約者だって親戚中に言ってた、とか言ってたけどさ」

「そうねぇ」

「…………まさか知ってた?」

「そうねぇ」

「やっぱりかぁああああああああ!!!!」

 明らかに端折はしょり過ぎてる感もあるがお互いの認識にそう違いはないのだろう。

 俺がバカ兄貴である由縁だとかつまりは俺達の関係を再構築するにあたる色々を。何もかも見通されていた、と。

「…愛希? もしかして、だけれど。後悔しているの? 周りを固めてしまうような真似をしてしまって」

「…それはない。後悔なんて、してない」

「…そう、よかった」

 震えるような声に対し、はっきりと応えた。それに対して、深く安堵するように。母さんは身体から力を抜いた。

「私達はね。あなた達に感謝しているの」

 今はいない親父の言葉も乗せ、母さんは告げる。それは突然ではなく、常に考えていたことなのだろう、と察せられた。

「大切な人を失くして、ぽっかりと穴が空いて…正直に言ってしまえばもう結婚なんてうんざりかしら? てそんな風にお互いに思ってね。慰め合うようにあの時の私達は接していたの」

 それは、知らなかった二人の関係。二人はただ仲のいい二人だと思っていた。結婚した後も、お互いにパートナーを失くした後も。関係なく付き合うくらいに仲がいいだけだと。

 けれど違った。きっと、今、俺達にはまだ分からないような打算も二人の間にはあったのだ。もう愛すること、愛されることに疲れて、けれど寂しい。そんな風に、都合よく一致したのが、二人だったのだという。

 元々、付き合いは長いが、お互いの恋人を素直に祝福するくらいに馴染みすぎた関係でそんな風に発展することはないだろう、と考えていたらしい。

「けれどあなたたちは純粋に仲良くして、当たり前みたいに何も恐れずに寄り添って、恋をした…まぁそれはちょっと勘違いだったみたいだけど」

 はははと苦笑いしたのは俺だけであった。何とも気まずい。

「それを見ていて、私達はまた求めるようになった。えぇ幸せだったわ。こんなことを遠ざけてしまっていたのかと、笑ってしまうくらいに。けれどそのことに関して私達はずっと気にしていたの。私達のわがままが、あなた達の関係にひびを入れてしまうのではないかって」

 案の定、愛希は動いた。動かざるを得なかった。理不尽に抗うように、泣き喚いた。

「ごめんなさい」

「私も、ごめんなさい」

 え? と母さんは驚いたように愛希を見る。

「ずっと言いたかったのは私も同じ。私が悪かった、なんて言う気はないけど。それでも、皆に迷惑かけたんだってことは気にしてた。まあぶっちゃけちゃえばさ。あの時のあれは恋だったなんて、そんな風に言い切ることなんて出来ない。ホントはバカ兄貴の言うことだって分かってた。バカ兄貴がバカ兄貴で傷ついてるのだって…分かってた」

 けれど止まらなかった。何かが間違っているんだと。言葉が足りなくても叫びたかった。

「ホントに。愛想尽かせられればいっそのこと楽だったのにさ」

 溜息を吐く。不甲斐ない俺ではあったがそれでも愛希がまだ俺に愛想を尽かしていない、ということが嬉しい。そう思った。

「あぁもう! バカ兄貴のそういうところが!」

「そういうところが…何だ?」

「……キライじゃなくなってるのが悔しい」

「何だそれは?」

 愛希は膨れているが、俺達は笑った。

(ありがとな…愛希)

 言葉にはしないが。俺は俺であることを許されたような気がして。感謝した。いや


『大好き…だから、大丈夫』

 

 分かっていたこと、なのだけれどな。

 なお、このような話をするきっかけとなった俺達の『婚約式』について知られていたという事実について、愛希が毎夜のようにベッドに頭を擦りつけて悶絶するように叫ぶようになったのはまた別の話。

意地でも黒歴史ではありませんがこれはさすがに恥ずかしい

愛希の立場からは何も言えないのですが主人公を支えていた友助については複雑ながらも感謝していたりします


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