エピローグ:えーっと…やっぱり暴挙ですよ?
「…あれ?」
朝、目が覚めた時に感じたのは違和感だった。
「おはようございます」
その声は、日常の様に自然だった。なんてことの無いようなそんな声は、しかしこの状況にあまりにもそぐわず、つまりは不気味だった。
「えぇっと…何だこれは」
違和感の正体を推察する。そうだ。俺の身体は何故かベッドに縄でくくりつけられていて、身動きが出来なかったのだ。
「どういうことかな霞さん」
「安心していいんですよね」
あら? 会話になってない。
待て何だこのコピペのようなデジャブ感。
あれ? でも何かが違う。霞さんの顔はじつににこりといい笑顔をしていた。
「どんなことがあっても…私が、もう誰にも心を許せなくなっても、真一さんが傍にいてくれる。そう信じて、いいのですよね?」
「それはやぶさかでないのだが…」
「あぁ真一さん…」
そうはならないだろう? という言葉は切り取られた。同時に、思いきり体を思い切り抱き締められ、密着する。薄着の着物は少し着崩れて、下着の姿が見当たらない綺麗な肩と呑みこまれそうなほど深い胸の谷間がちらちらとこちらを覗く。
さて、この前のあれはどうにも演技くさかったというか、心がこもっていないというか恐る恐るという感じではあったのだが。何だろうか。熱っぽい吐息、紅潮する頬、激しく鼓動しながらもどこか安心感を伴っているかのような心臓の鼓動としなだれかかってくる柔らかな肢体。
「一つ聞きたいのだが、霞さん。明日香と愛希とはどうなった?」
「はい。真一さんのおかげで打ち解けることが出来ました。すっかり仲良しですよ」
「そうか。それはよかった」
愛希と明日香と霞さんと。仲が良くなってくれたことを俺は純粋に喜んだ。
「でも…」
と、霞さんの白魚のような指は俺の心臓のあたりをいじいじとくすぐる。
「それは真一さんがいてくれたからです。忘れてはダメですから。ね?」
親に誉めて誉めてとせがむような、そんな期待に満ちた目をしていた。霞さんに聞いた過去を考えると…考えさせられるようなことはあるかもしれんがまあとりあえず。うん。霞さんは可愛い。
手足が自由であれば頭を撫でるくらいはしたいのだが全く困ったものである。
というか何でこんなことを。
「えぇっと…や…やってみたくなってしまって…その」
なるほど。理解できたと。なぞっている部分が無いわけではないだろうけれど。それでも、こうしてしまうような心情が共感できた? と。
「勘違いかもしれませんけどね…その…いざ真一さんに抱き締められたり触れられたりすると考えると…その……で、ですから…その」
いいですよね? と霞さんはすがるような瞳でこちらを見る。
「うんだいじょ…」
「大丈夫なわけあるかぁああああ!!!」
バン! とドアを激しく開ける音がする。俺の声を遮ったのは、愛希の声であった。
「霞さん何やってるの!? バカじゃないの! えっと…その…バカじゃないの!」
愛希も色々混乱しているようだ。
「あえて言わなかったが霞は…やはり強かだな」
やれやれ、と。それを尻目に明日香は俺の拘束を解いた。
「ダメ…なのでしょうか?」
「ダメ! こういうのする前に私…うーん? 私達に相談するの! そうしないとダメ! 許さない!」
「…愛希さん…」
「まあそういうことだな。別に排他を目指す必要もあるまい。どうせならば、問答無用によりよき結末を目指せばそれでよい」
「明日香さん…」
三人は手を取る。
「いやバカ兄貴も」
もとい四人。手を繋いで、今日が、これからが始まる。
「でも…たまにはその…いい、ですよね?」
「…やはり強かだな」
手抜きではないですよ(震え)




