#5 雨宮琉衣の想い
「栂屋君?あのCDちゃんと聞いてきてくれた?」
「はい、聞きました。音楽には詳しくないのですが素晴らしかったです。」
社長は「そうでしょ!?」と満面の笑みを見せる。
僕と社長の雑談はやがて会議へと意味を変えていった。昨晩の疑問であったシングルマザーへの癒しという目的、そしてその販促について。
「シングルマザーというターゲットに対しての癒しについてですが、社長はどうお考えでしょうか?」
「シングルマザーを癒すということは本人はもちろんの事…」
要約すると社長の考えはこうだった。
シングルマザーにとって、1番のストレスはやはり子育てからくるもの。――1人で育てないといけない。――そんなプレッシャーを抱えながら、だからと言って誰に頼ることも出来ず。さらにそんな母の心情を子供が理解出来る訳もなく、子供は知らず知らずの間にストレスを感じ、その子供の行動、ひいては子供という存在がさらなるストレスになる。
そのストレスの矛先はと言えばもちろん子供だ。
このストレスがストレスを産み続ける悪循環。
「きっと子供たちが1番ストレスを感じていると思うの。ストレスが何かも知らずに。」
「確かにそうですね。最近話題になっている恋人同士の無理心中だけでなく、母親単身の自殺率も高まってると聞きます。そして、虐待も跡を絶たないそうですしね。」
そんな悲しいことはない。罪を犯したものが死んでもいいという訳ではないが、罪のない子供たちが辛い思いをしているという現実。
そして、抱えきれない孤独感とプレッシャーを一人で背負うしかない母親たち。
社長の言っていたシングルマザーを癒したいという意味がようやく分かった。
「実はね、私の知り合いで、子供たちの面倒を見ている児童養護施設の施設長がいるの。」
「そうなんですか!?」
「その人にこのCDを提供したいと考えてるの。」
そう言って、社長は電話をかけ始めた。
「お世話になってます。Toys roomの雨宮です。」
話している様子から、親しい仲なのではないかと想像できる。
会話の中で社長はCDについての説明、そして先程話したような思いを伝える。
そして最後に
「では、今からそちらに伺いますので、よろしくお願いします。」
そう言って、電話を切った。
「栂屋くん?じゃあ今から行ってくれる?」
「はい。」
僕は社長の目をしっかり見て頷いた。
「栂屋くん。ありがとう。」
大学を出てすぐに、このToys roomで働き出して3年。僕も25歳になる。――ただ何となく生きている――という状態を抜け出したいと足掻いていた僕の胸の中で何かが高騰するのを感じた。
「社長?そのお知り合いがされている施設の名前は何て言うんですか?」
社長の考えに突き動かされるような形ではあるが、僕の足は今までにないほどに軽く、勢いそのまま会社を飛び出した。
――星の国か。
何となく感じていた仕事、人生への使命感のようなものを僕はようやく見つけられた気がする。
このCDには"何か"特別なものがある。それを伝えたいと。