表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZERO 第一部  作者: 栂屋総一
ZERO 第1部 栂屋総一編
5/37

#5 雨宮琉衣の想い

 「栂屋君?あのCDちゃんと聞いてきてくれた?」


 「はい、聞きました。音楽には詳しくないのですが素晴らしかったです。」


 社長は「そうでしょ!?」と満面の笑みを見せる。


 僕と社長の雑談はやがて会議へと意味を変えていった。昨晩の疑問であったシングルマザーへの癒しという目的、そしてその販促について。


 「シングルマザーというターゲットに対しての癒しについてですが、社長はどうお考えでしょうか?」


 「シングルマザーを癒すということは本人はもちろんの事…」


 要約すると社長の考えはこうだった。


 シングルマザーにとって、1番のストレスはやはり子育てからくるもの。――1人で育てないといけない。――そんなプレッシャーを抱えながら、だからと言って誰に頼ることも出来ず。さらにそんな母の心情を子供が理解出来る訳もなく、子供は知らず知らずの間にストレスを感じ、その子供の行動、ひいては子供という存在がさらなるストレスになる。


 そのストレスの矛先はと言えばもちろん子供だ。


 このストレスがストレスを産み続ける悪循環。


 「きっと子供たちが1番ストレスを感じていると思うの。ストレスが何かも知らずに。」


 「確かにそうですね。最近話題になっている恋人同士の無理心中だけでなく、母親単身の自殺率も高まってると聞きます。そして、虐待も跡を絶たないそうですしね。」


 そんな悲しいことはない。罪を犯したものが死んでもいいという訳ではないが、罪のない子供たちが辛い思いをしているという現実。


 そして、抱えきれない孤独感とプレッシャーを一人で背負うしかない母親たち。


 社長の言っていたシングルマザーを癒したいという意味がようやく分かった。


 「実はね、私の知り合いで、子供たちの面倒を見ている児童養護施設の施設長がいるの。」


 「そうなんですか!?」


 「その人にこのCDを提供したいと考えてるの。」


 そう言って、社長は電話をかけ始めた。


 「お世話になってます。Toys roomの雨宮です。」


 話している様子から、親しい仲なのではないかと想像できる。


 会話の中で社長はCDについての説明、そして先程話したような思いを伝える。


 そして最後に


 「では、今からそちらに伺いますので、よろしくお願いします。」


 そう言って、電話を切った。


 「栂屋くん?じゃあ今から行ってくれる?」


 「はい。」


 僕は社長の目をしっかり見て頷いた。


 「栂屋くん。ありがとう。」


 大学を出てすぐに、このToys roomで働き出して3年。僕も25歳になる。――ただ何となく生きている――という状態を抜け出したいと足掻(あが)いていた僕の胸の中で何かが高騰(こうとう)するのを感じた。


 「社長?そのお知り合いがされている施設の名前は何て言うんですか?」


 社長の考えに突き動かされるような形ではあるが、僕の足は今までにないほどに軽く、勢いそのまま会社を飛び出した。


 ――星の国か。


 何となく感じていた仕事、人生への使命感のようなものを僕はようやく見つけられた気がする。


 このCDには"何か"特別なものがある。それを伝えたいと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ