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ZERO 第一部  作者: 栂屋総一
ZERO 第1部 栂屋総一編
3/37

#3 癒しという名のストレス

 ただただ眠るだけで終わった休日明け、雨宮社長から「朝から新商品の会議がある。」と告げられていた。時期から考えても、入学シーズンに向けた商材だろう。


 Toys roomは子供向けおもちゃの小売店への卸売業とHP上での小売業を展開している。


 僕は買い付けを担当しており、いわゆるバイヤーと呼ばれるポジション。どの商品がどれくらい売れるかを予測し、仕入れるという非常にやりがいのある仕事。時には想定よりも商品が売れないという失敗もあるが、自分が売れると確信を持った商品が売れると言い知れぬ達成感がある。


 特におもちゃを扱っているため、時々そんな僕のイチオシ商品で楽しそうに遊んでいる子供を見かけると本当に幸せな気持ちになる。


 ただ、今日は自社のオリジナル商品の発表。子供じみた表現だが、僕はワクワクドキドキしていた。


 「おはよう。今日は新商品についての会議をします。」


 Toys roomを一代で築いた女社長、雨宮琉衣(あまみやるい)

いつも、見た目を気にする社長らしく、今日も真っ黒なスーツ姿が良く似合う。


 そう、美人社長という名前がピッタリの人だった。


 「早速だけど、これが新商品のサンプルになります。」


 雨宮社長がテーブルに差し出したのは一枚の丸いディスク。


 「?」


 固まる社員一同。


 新商品というからには、もちろん子供向けのおもちゃだと思い込んでいたからだ。


 「社長、これは?」


 思わず口にした僕に呼応して、社員は社長の顔を見た。


 「みんなも結婚禁止令の事は知ってるわよね?」


 初婚後の離婚率が80%を越え、世の中にはシングルマザーが溢れ、しかしシングルマザーを支える法整備は遅々として進まず。それならばと根源である結婚、婚姻という制度の廃止。抜本的な解決とは程遠い、消去法のような発想ではあったが、賛成と反対では前者が多かった。


 ただそれだけの理由の多数決で、この国から結婚という制度がなくなろうとしているのだ。


 ──まぁ、彼女さえおらず、独り身の僕にはあまり関係のない事だが。


 「苦しんでいるシングルマザーのみんなの癒しになることを探していたの。」


 と、社長は話した。


 で、この新商品についてだが、簡単に言うと「癒しの音楽が入ったCD」らしい。


 「はい。そうですか。」とはいかなかったが、社長が「売れ」と言われれば、そこに感情論などは存在しない。


 しかしだ。


 「この商品の販促は栂屋くんに一任したいと思います。」


 社長の発言に僕は自分の耳を疑う。社長の方針上、プロジェクトを進める際に責任者を決めることは分かっていた。ただ、社内でも最年少の自分が任せられる事になるとは。


 「はい。分かりました。」


 社長からサンプルCDを受けとる。様々な感情を抱えながらも、僕は「癒しの音楽」というとんでもないストレスを抱える事になったのだった。

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