#23 水沢琉生 part1
「施設長?ちょっとお聞きしたい事があるんですけど、いいですか?」
次の日の就業後、美穂と真琴は早速作戦を実行していた。
幸田施設長から聞いたところ、雨宮社長との付き合いは共通の友人の紹介から始まり、意気投合し、もう出会ってからは10年ほど経つらしい。ただその10年の間にも会ったのは数えるほどで──あの人は仕事の虫だから──と言っていた。
「でも、突然どうしたの?そんなこと聞くなんて。」
「いや、この前お会いしたときに親しげに話されてるのを見て、気になったんです。」
施設長に怪しまれないようにと考えたシュミレーション通りで、ホッとしていたが、肝心の ──雨宮社長=ルイン──という仮説には辿り着けない。
これ以上踏み込めないという歯痒さを抱えながら、真琴と美穂は時々目を合わせては気付かれないように首を振り、これ以上は無理だなと諦めかけていた。
その時「そう言えば…」と、施設長が核心的な事を口にした。
「雨宮さんね、確か昔にピアニストを目指してたはずよ。その共通の友達から聞いたんだけど。だからね、あのCDのルインって実は雨宮さんじゃないか?って思ってるのよ。」
──雨宮さんには言わないでね──と女性特有の噂話をばらまくように、施設長が発した発言に美穂と真琴は思わず目を合わせた。
「そうね。何だっけな。ピアニスト時代の名前…。み、みず…えっと…。」
「あ!」
美穂が叫んだ。
「水沢琉生だ。」
「そうそう。水沢琉生よ。美穂ちゃん良く知ってたわね。」
「あの社長さんの顔、どこかで見た気がしてたんです。」
施設長は名前を思い出し、すっきりした様子でその場を離れた。
「やったじゃん。美穂ちゃん。じゃあ、あの社長がルインで間違いないね?」
「いや、違うと思う。」
「え?何でよ?」
「あの社長にはピアノは弾けないの。今は。」
「今は?」
「大怪我でピアノが弾けなくなって、音楽界から引退した人なの…。」
「そうなんだ…。」
「何か近付いてるようで、離れていっちゃうね。」
二人が方を落としていると、星の国では家族がいる子供たちが家に帰る時間を告げるBGMが流れ始めた。
そう、ルインのあのピアノが。




