#18 九曽神家にて part3
「真琴さん、お帰りなさい。」
艶やかな着物姿のとにかくオーラが半端ない女性がニコッと笑って
「ようこそお越し下さいました。」
呼吸を忘れるほどの緊迫感。
──これが九曽神家の現当主が持つ存在感か。
隣の真琴からは、親子関係にも関わらず、緊張感が伝わってくる。
「あ、あの、栂屋総一と申します。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます。」
別に招かれた訳ではなかったが、ガチガチに緊張した僕がそう口にすると微笑みながら
「九曽神麗子 です。お待ちしておりました。」
そう言って、頭を下げた麗子に合わせて、僕も頭を下げる。
1度下げた頭を再び上げるタイミングを失った僕の頭上を真琴の言葉が通過する。
「栂屋さんの憑き物を祓って欲しいんです。」
「そうね。これは祓って差し上げないと、栂屋様の生活にも支障が出てしまいそうね。」
その言葉に僕は顔を上げ、麗子に問い掛けた。
「あ、あの、すみません。僕は取り憑かれているのでしょうか?」
麗子は相変わらず優しい笑顔のまま頷いた。
やっぱりそうなのか。
原因はあのCDにあるんだろうな。
歴史と伝統ある九曽神家の人々と飼い猫にまで何かが憑いているというお墨付きをもらい、意気消沈してた。
「少しお時間を頂きたいので、お話でもしませんか?」
「は、はい。お願い致します。」
麗子の提案を受け入れた僕の隣で真琴はやけに焦っている。
「え?すぐにお祓いしないの?」
「栂屋様は真琴さんのお客様でしょ?私も栂屋様とお話させて頂きたいの。」
「え?いや、すぐにしようよ。あんたも忙しいでしょ?」
「いや特に。」
何故か焦っている様子の真琴に肩を殴られ、僕は意味が分からなかった。
「栂屋様もそう仰られている事ですし、すぐにお茶とお菓子を用意しますね。」
「コンコン」
まるで計算されていたようなタイミングで由紀乃がお茶とお菓子をテーブルに並べていく。
何とも上品そうなハーブの香りが部屋を包み込む中、顔を片手で覆い、俯いてる真琴。
「どうした?」
様子のおかしい真琴に小声で聞く。付き合いは短かかったが、普段は男勝りの真琴からは想像も出来ない。
──さすがに九曽神家ともなれば、娘でも緊張するものなのか?
「遠慮せずお食べになって下さいね。」
目の前の麗子、そして由紀乃も気取った様子もなく、むしろ好意的に迎えてくれている。
「ありがとうございます。」
お菓子を口に運ぶとほのかな甘さが口に広がる。
「美味しい。」
「そうでしょ?由紀乃さんが作ったのよ?」
「そうなんですか?」
──お菓子作りが趣味なんです──と微笑む由紀乃と対照的に真琴は俯いたまま。さすがに心配になる。
「栂屋さん?」
「え?は、はい。」
突然の麗子からの問い掛けに僕は驚いたが、次の質問にさらに驚く事になる。
「今、恋人はいらっしゃるのですか?」
「え!?恋人ですか??」