#16 九曽神家にて part1
僕は真琴と会っていた。
「だから、あんたは取り憑かれてるかもしれないっていってるでしょ?」
「いやいや、急にそんなこと言われても信じれる訳ないでしょうが。」
そして、休日の昼時のカフェでこんなやり取りをかれこれ一時間近く続けていた。
というのも
「明日は暇でしょ?付き合え。」
と電話で一方的にスケジュールを埋められ、今に至る。
「だから!」
真琴いわく、僕は取り憑かれているかもしれないらしい。そんな自覚はなかったが──昨日、体調を心配されたばかりではあった──もし真琴がそんな僕の様子を感じて身を案じてくれているのなら、それはとてもありがたいことだ。
しかし、僕が取り憑かれている理由が納得いかない。
「あのCDを聞いたからって、取り憑かれる訳ないだろ?」
「可能性の話をしているの。」
真琴も何かに取り憑かれて、母親にお祓いをしてもらったと聞いた。思い当たったのがあのCDと言うのだが、それに納得がいかない。
僕にとって、あのCDは特別なものだ。
確かに「ルイン」という謎の存在があるものの。
──あのCDを世の中のシングルマザーや子供たちに届けたい。
その気持ちには揺るぎようがない強い意志があった。
「あのCDが何か変だって、あんたも気付いてんでしょ?」
確かに真琴の言う通り、何かは感じる。
ただ、それは真琴が言う取り憑かれるなどとは違う何かであって、それを言い替えれば「癒し」と言うのだろう。
そして、それが社長やルインの想いな訳で…。
「ルインの想いか…。」
「え?何?」
――ルインはどんな想いをあの音楽に込めたのか?
今の自分は社長に共鳴しているだけ。やりがいや使命感などという言葉を使ってはいたが、偶然手にしたものを薦めているだけじゃないのか?
──それは、ただの偽善者。人の為に善いことをしていると言っているだけで、自分のためじゃない。これじゃ、僕はゼロじゃないか。
「真琴?僕に憑いてるものを祓って欲しい。」
僕は確かめたい。自分が何のために生きているのかを、何のために生きるのかを。
「だいたい、私が言ったんでしょ?それを何よ、自分が思い付いたみたいに言っちゃってさ。」
「いや、それはその…。」
真琴の言う通りだったが、それを認めるのは何か照れ臭かった。
改めて、お祓いをお願いした僕を真琴は外に連れ出す。
「で、どこに向かってるんだ?」
「え?私の家だけど?」
「そっか。って、え!?」
日本有数の名家、九曽神家。
先祖に有名なイタコを数多く輩出しており、そもそもイタコとは、死者を口寄せ、つまり自分の体に取り憑かせて、生きているものとの仲介者となる巫女のこと。
その歴史と由緒ある九曽神家に相談に訪れる人の中には、政治家、芸能人などの著名人が多いらしく、一般人は手が届かない。
その理由は莫大な料金。
「真琴が祓ってくれるのか?」
「無理無理、私には出来ないもん。」
──え?お祓いって凄いお金かかるんじゃないの…か?
不安そうな僕の様子を見て、真琴は「大丈夫!何とかなる!」と言った。
家族の真琴が言うんだから、何とかなるかと思ってはいたが、不安は拭えず真琴の後を追ってタクシーに乗り込んだ。