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ZERO 第一部  作者: 栂屋総一
ZERO 第1部 栂屋総一編
15/37

#15 未来日記

「んー。どうしよう。」


美穂がベッドに寝転び、携帯の画面を眺め始めてから既に30分ほどが経とうとしている。


健康志向の美穂の朝は早い。

5時30分に起床、ジョギングを30分、シャワーを30分浴びて、野菜中心の朝食をしっかり噛んで食べてから、家を出る。


それは、今日の休みのような日でも変わらない。


「何て連絡すればいいんだろ。」


ルインのこと、子供たちの様子、何かしら接点はないか、話題はないか、考えてもなかなか上手く文章にならない。


書いては消しての繰り返し。


宛先だけは随分前に埋まっている。


『栂屋総一』


美穂にとって、今一番気になる存在。


「私だって、真琴ちゃんみたいに呼び捨てで美穂って呼ばれたいな。」


美穂にとって1週間前の時間はあまりにも楽しすぎた。


あんなにハメを外したのは学生の頃以来で働き出してから、朝のジョギングをサボったのは始めてのこと。


「あ!」


メールの内容に悩むあまり、美穂はもう一つの日課を忘れていた。


美穂は日記を書くのをずっと続けていて、しかもいわゆる寝る前に書くものではなく、その日の朝に今日1日をどのように過ごすかを記す。


言わば『未来日記』のようなもの。


「今日をこんな日にしよう」と意識して過ごすと何も考えないで過ごすより充実すると、もう10年近く欠かさず書いている。


几帳面で真面目な美穂らしい一面だ。


ちなみに真琴にこの事を話したときには、目を丸くして驚き「私なんて三日坊主。いや最初から絶対やらないから、丸坊主だわ。」なんて、笑っていた。


そんな、あまりにも相反する性格の二人が仲良くなったのは、不思議だった。


美穂がきっちり整理されたカバンからスケジュール帳を取り出そうとした時


「え?嘘?どうしよう…。」


カバンに入っていたのは例のCDだった。


身に覚えはあった。

昨日、戸締まりをする際、いつもCDを保管している施設長から預かり、紛失しては大変とカバンに入れたまま、帰宅してしまったのだった。


「今から返しに行かないと。」


別に明日の出勤時に持っていけば何の問題もないはずだったが、美穂は性格上、すぐに持って行かなければ気が済まなかった。


急ぎ足の軽めのメイクだけして、美穂は家を出た。


「あれ?」


美穂が星の国に着くと、見慣れた靴と見慣れない女性用の靴が一足ずつ。


「真美施設長と誰だろ?」


施設長室の中から親しげな話し声が聞こえる。


「ほんと、あのCDのお陰で星の国の評判も凄く良くて、お母様からも子供が家でも、とても良い子になったなんて声ばかりなんですよ?」


「そうなの?それは、良かった。商品に関しては確信はあったんだけど、こうして反響を真美さんから直接聞けて、本当に嬉しいわ。」


聞き耳を立てるつもりはなかったが、会話の切れ目にドアをノックしようと待っていたが、なかなか会話が止まらず


『コンコン』


「佐伯です。失礼します。」


そう言ってドアを開けると


「え!?美穂先生??どうしたの?」


美穂の目に、驚いた表情の施設長、向かい合って座っている女性は見たことがない。


「すみません。」


CDを誤って持ち帰ってしまい、大切なものだから、持ってきた旨を伝えると


「別に明日でも良かったのに。」


と施設長は笑い、向かい合って座る女性を紹介した。


「こちら、そのCDを制作されたToys roomの雨宮社長よ。」


「初めまして。お世話になってます。星の国の主任保育士、佐伯美穂です。」


「お世話になってます。Toys roomの雨宮です。」


この人が栂屋さんの会社の社長さんかと、美穂が思っていると、施設長から雨宮社長とは旧来の付き合いがある友人だと聞かされた。


「では、失礼しました。真美施設長?このCDは今お渡ししてもよろしいですか?」


「あ、そうね。私が預かっておきます。わさわざお休みの日にありがとうね。お疲れ様。」


「いえいえ、すみませんでした。では、お疲れ様でした。失礼します。」


そっとドアを閉め、外に出た。


目的を果たし、おまけに意中の人の上司にも偶然出会えたことで、連絡する理由が出来たと美穂はホッとすると共に、嬉しくて仕方なかった。


ただ、気になることがある。


「あの雨宮社長、どっかで見たことある気がするんだよな。」

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