#14 揺れる心
それから1週間が、社長は体調不良による欠勤が続き、ルインには全く近付けていない日々。
焦る気持ちを抑えつつ、Toys roomの一人として、しっかり仕事も進めなければならない。
普通の会社で言えば社長の不在となると一大事とも言えるかも知れないが、Toys roomでの業務に関しては主任の宇佐美さんが社長より業務を一任されていたため、社長不在の間も特に問題はなかった。
では、社長と言えば、取引先との商談、そして新商品開発がメインで、社員との連携を取って仕事をするという訳ではなく、独自で動いていた。
「あの宇佐美さん?この商品なんですが、販売延期だそうです。」
「え?そうなの?じゃ榊に言ってHPの表記を変えといて。」
「分かりました。」
社長は宇佐美さんだけでなく、仕事を各社員に一任することが多い。そして「思いっきりやりなさい。責任は私が取るから」と言ってくれる。
そんな社長の社員教育の甲斐あり、社長の不在がまだしばらく続くと聞いたところで、業務的には普段と何も変わらなかったが。
「社員、体調不良だって。大丈夫なのかな?」
「どうだろ。体調不良だけじゃ何とも言えないよな。」
「それより、栂ちゃんこそ、あのCDの方は順調なの?」
「あぁ。かなり評判はいい。」
――嘘は付いていない。しかし引っ掛かるのは「ルイン」という存在。
そして「ルイン」の存在が気にかかっているのは僕だけでなく、むしろきっかけになったのは真琴で、1週間も音沙汰なしでは、きっと心配しているに違いない。特に彼女には特別な力もある上に、毎日のように星の国であのメロディを耳にしているのだから。
――真琴にも連絡しないとな…。
連絡しようにも、進展がない状態を伝えるのが正直気まずかった。
「栂ちゃん?大丈夫?」
「ん?」
「顔色も悪いし、疲れてそうだから。」
――疲れて見えているのか…。明日の休みはゆっくりしよう。
確かにここのところ、癒しの音楽の件から始まり、星の国でのこと、ルイン、様々な要素が重なり、疲労も溜まっていたかもしれない。そんなことを考えながら、就業時間も終った帰り道、真琴から電話が入る。
――ルインの事、どう説明しよう。
気後れしながらも、電話に出た僕に真琴が告げたのは心配していたこととは別の用件だった。
そして、真琴が埋めた明日を、僕と同じく全く別の件で悩み過ごす人物がいた。