#12 優秀な遺伝子
「あの?ママ?」
九曽神家の現当主、九曽神麗子は 真琴の姿を見るなり、全てを理解し――それじゃ、祓ってあげるわね。 ――そう言って、真琴の頭に手を乗せ、目を閉じた。
「はい。もう大丈夫よ?」
事も無げにそう言いのけた麗子。
「あ、ありがとう。じゃあ。」
そそくさと立ち去ろうとする真琴。
「真琴さん?」
麗子の声にゆっくりと真琴は振り返る。
「そろそろ、どうなの?」
真琴は指示されるままに、麗子の前に正座でばつが悪そうに俯いている。
母に助けを呼べば、すぐに解決してくれるのは分かっていた。では、何故尻込みしたのか?
「由紀乃の体の事は分かってるわね?」
「はい。」
「じゃあ、あなたがするべき事も分かるわよね?」
「は、はい。分かります。」
「もうあなたも27歳にもなるんだからね。」
九曽神家は言わずと知れた名家。その血は先祖代々脈々と受け継がれてきた。
いや、受け継いできたのだ。
「早く優秀な遺伝子を見付けるのよ?」
「言わなくても、分かってるよ。」
じゃあ、早くお相手を連れてきなさい。と麗子は言い、真琴は部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「あ!真琴さん?」
まだ小言を言われるのかと真琴が身構えていると
「憑き物の話だけどね?」
あ、その事かと安堵していると
「かなり質が悪そうよ。」
そう言って掌を見せた麗子。
「うわっ!」
真琴の目に写ったのは火傷のようにただれた皮膚だった。
あのCDには一体どんな思いが込められてるんだろう。
「とにかく気を付けなさい。」
と、麗子に釘を刺され、真琴は部屋に戻った。
――子供たちにあのCDを聞かせ続けて大丈夫なのかな…。
確かに自分は体質的に影響を受けやすいことは理解していたが、他の人に全く影響がない保証はない。しかも現時点では良い影響しかない。
――気を付けろって言われてもな…。
癒しの音楽が原因かどうかも、まだ決まっていた訳ではないが、真琴には確信があった。
――やっぱり鍵はルインってアーティスト。
「それと、あいつか。」
そう呟き、真琴は携帯電話の番号を押した。