#1 ZEROの瞬間へ
ZERO三部作の第一部『栂屋総一編』になります。
いわゆるどこにでもいる25歳のサラリーマンの身に起こる少し変わった日常。
その少しがやがてZEROへと向かっていく。
どうぞ、お楽しみください。
10、9、8 … 3、2、1、0
ハッピーニューイヤー!!
新年を祝う人の喧騒の中、僕はフラフラと海月みたいに人波に揺られながら歩いていた。
──ふと思う。0の瞬間について。過去と未来に挟まれて生き続ける事への違和感。0の瞬間とは、今年なのか、来年なのか。答えも応えもないまま、僕は生きていく。
僕は栂屋総一として、有り続け、生きていく。
「おはようございます。」
Toys roomは繁忙期を迎えていた。朝の挨拶として使われる挨拶は仮眠明けの社員同士で交わし合い、業務へと取り掛かっていく。おもちゃメーカーのToys roomにとっての繁忙期は間違いなくクリスマスから始まる年末年始だ。
クリスマスを終え、来るべきお年玉商戦を乗りきるべく、僕も疲れた体に鞭を打って、デスクのパソコンの電源を入れた。
仕事に入る前にいつも時事のニュースをチェックする。というと格好いいが、要はネットサーフィンをする。
近頃、世間を騒がしているニュースと言えば
「結婚禁止令」「無理心中」の2つ。
そして、この2つは深く関わり合っていた。
「なぁ栂ちゃん?結婚禁止令がいよいよ実現しそうだな。」
隣の席の榊雄二が話し掛けてきた。
こいつは、お世辞にも仕事はあまり出来る方ではないが、持ち前の社交性から憎めないキャラクターとして、社内で地位を確立している。
ちなみに25歳で、30代が多く占める社内では唯一の同い年だ。
「あぁ。それで結婚禁止令反対派のカップル達が、当て付けに無理心中か…。」
とまぁ、そんな関連性の2つのニュースが連日世間を騒がせている。
「わざわざ、死ななくてもいいのになぁ。」
独り言か、話しかけているのか分からない雄二のつぶやきを、独り言と決め付けて、僕は業務に入った。
メールチェックをしていると雨宮社長からの連絡が社員の全員に送られていた。
――すみません。今日も打ち合わせで出社出来ません。各自で業務を進めて下さい。
とある。
文中にあった「今日も」からも分かるように、社長はここ数週間の内で数回しか出社していない。
僕が働き出してから、こんなにも社長と顔を合わさないのは初めてだった。
隣の雄二なんかは、油断しまくっていて、先輩の目が光っているのだが、当然のように本人は気付いていない。
僕は気付いていないフリをした。
こうして、始まった1日が当たり前のように終わっていく。
惰性で働いてる訳ではなかったが、刺激が欲しいと思い初めていたのは事実だった。
――このままではダメだ。何かしないといけない。
年齢という名のカウントアップ、それは同時に死へのカウントダウンでもある。
「始まり」があれば、必ず訪れる「終わり」。
それが何年後、何ヶ月後、何日後、何時間後、何分後、何秒後。
そうして、0の瞬間へのカウントダウンを僕らは続けている。