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鉄拳ラビRemake  作者: hachikun
赤毛のサイボーグヒーロー
42/44

英雄少女?(2)

 愚か者たちの声がだんだん遠のいていく。

「やれやれ。ああやってわめいた内容ぶんだけ罪科が膨れあがるって知ってるはずなのにね。ああはなりたくないものだわ」

 女署長は大きくためいきをついた。

「普通、そういうのってあらかじめ警告するのも義務じゃないの?」

「普通はね」

 ラビの指摘に、クスッと女署長は笑った。

「彼ら、連邦でも顰蹙(ひんしゅく)買っていたらしくてね。そちらで裁けるものなら裁いてくださいって情報来てたのよ。あちらで犯していた罪状はもとより、我が国の法に思いっきり引っかかるデータが並んだリストまでつけてね」

「連邦から?」

「ええ。ちなみに、五、六回は死罪にして余りあるくらいの罪状ね」

「……マスコミ関係だよね?」

「そうよ。事件の被害者にむちゃくちゃな取材して自殺に追い込んだり、そういうのが大のお得意のね」

 ひとつためいきをつき、女署長は肩をすくめた。

「さすがに主犯レベルでは上手に逃げてたようだけどね、そこは悪知恵というべきかしら。

 だけど、それはすべて連邦側の法の目をかいくぐる事が前提なのよね。同じ事を我が国の刑法に照らしあわせた場合、特にドロイド系住民に対する行動だけで余裕で死罪になるレベル」

「つまり、この星の法で裁かれる事はない、自分たちは特権階級だからって感覚だったと?」

「そういうことね」

「……」

「ラビちゃんは知らないと思うけど、相手国からそういう通達がくるのって『こいつは返してくれるな。そっちで処分してくれ』って事なのよね。国際的慣習で」

「……いいのかよそれ」

 ラビが渋い顔をした。だが女署長はクスクス笑ってラビの額をピンと弾いた。

「あいたっ!」

「んもう、ほんっとにラビさんってば真面目っ子なんだから。うちの婦警たちにその半分も正義感があればねえ」

「正義感て……みんないい人じゃないですか」

「あらそうなの?」

「ええ。みんな、私なんかの事ラビちゃんラビちゃんって親切にしてくれて」

 それは別名おもちゃにしているとも言うのだが、女署長はそれを指摘しない。それは悪意ではなく、ラビの事を可愛いと思う気持ちに関してはその婦警たちと同じだからだ。

「話戻すけど、まぁ彼らの言っていたような世論も確かにあるわよね。ごく一部にはね。

 だけどあなたは受け入れられた。それは、それだけの事を成し遂げたって事なのよ。

 少なくとも、そこだけはもっと誇りに思いなさいな」

 そしてぽんぽんとラビの頭をたたくと、オーナーや他の客たちに笑顔でおじぎをして去っていった。

「……」

 ラビはしばらく入り口の方を見ていたが、やがて歌声が戻ったステージの方に向き直った。

 そこには先刻のふたりの他、なぜかミミも加わっていた。

 実は女署長が現れた時、警官たちの向こうをミミが通り過ぎたのだけど、ラビの方が挨拶どころではなかったのだ。

 改めて小さく手で挨拶すると、ミミもラビの目線に気づいたようだ。笑って手をふりかえしてきた。

 曲目もさっきとは違い、とても古い、しかしポピュラーな銀河の流行歌だ。

「あれ……これって確か」

「『(あかつき)の空の下で』。スタンダードナンバーだね」

 ラビの疑問にマスターが付け加えた。

 そう。確か大昔の伝説の歌姫のヒットナンバーのはずだ。ラビも元の身体だった頃に何度か聞いた記憶があった。ツインボーカルで聴くのは初めてだったが。

 ラビが驚いたのは、ミミの歌唱力だった。

「……こりゃ驚いた、意外な特技だね」

「すごいね」

 マスターまでも同意してきた。どうやらラビの気のせいではなさそうだった。

「ただの素人名人ではないね。最近やってないのかもだけど、根っこにあるのはプロの技術だ」

「そうなの?」

「ああ。素人でもたまに上手い者はいるが、安定しすぎている。むしろ、引退後の元プロを思わせる声だね」

「へぇ……」

 ふむふむとマスターとラビは三人を興味しんしんに見たのだが、

「そりゃそうでしょ。姉さんああ見えて元プロだもの」

「!?」

 突然にミミとよく似た声が背後で聞こえて、マスターとラビは仰天して背後を見た。

「!」

 ちなみにこの時、ステージにいるミミの笑顔が突然輝いて、ぶんぶんと二人のいる方に手を振っているのだが、顔を反対方向に向けたマスターとラビは当然気づいていない。

 だがこれは問題ない。この瞬間のミミの笑顔は二人に向けられたものではないからだ。

 果たして、マスターとミミが見た方向にはミミとうり二つの、しかし微妙に幼い少女がひとりいた。

 なんのつもりかロディアーヌ婦警の格好をしているミミと違い、こちらは空色のシンプルなワンピース姿だ。描かれている黄色の可愛らしい生き物の柄がドラゴンである事をのぞけば、この星の服屋に並んでいても不思議のないものだった。

「もしかしてミミの妹さん?えっと、メヌーサ・ロルァさんだっけ?」

「!?」

 ラビが首をかしげ、そしてマスターが「メヌーサ・ロルァ」の名前にギョッとした顔をした。

 そして当の少女はというと、ラビの顔を見てにっこりと微笑んだ。

「ええそうよ、勇ましい少女戦士さん?

 わたしがメヌーサ・ロルァ。この名前には色んな意味があるのだけど、あなたにとって重要なのは、わたしが彼女……あなたたちがミ・モルガンと呼ぶあの人の実の妹っていう点よね?」

 そこまで言うと、うふふとメヌーサは笑った。

「でもね、戦士さん。ここでは、ミミ姉さんには大切な義姉(ひと)がいるんでしょう?」

「あ、うん」

「姉さんって骨の髄まで長女な人だから、今まで、たとえ義理でもお姉さんなんて出来た事がないのよ。今はわたしがお仕事している関係で形式上はわたしの下って事になってるけど、それでもね。ずーーーっとわたしたち仲良しだったから今さら関係も変えられないし、それに姉さんが一緒に暮らしてた人もみんな妹分とか弟分みたいなのばっかりだったのよね」

「へぇ」

 女署長(おねえさん)に甘え全開のミミを知っているラビには少々複雑な話ではあった。

「だからね、今とても嬉しいんだと思う。お願いだから実の妹がいるなんて言いふらさないであげてね」

 なるほど。

「ああ問題ないさ。私は物忘れが激しいんでね」

「うん問題なし」

 オーナーは微笑んで拭いていたグラスを棚に仕舞い、ラビもにっこりと笑った。

「妹さんがいる事と、同じ顔なんだよっていう話はミミに聞いてたけど、本当にすごいね。まるで双子みたいだ」

「うちは六つ子……になるのかな?正しくはどう言うべきかわからないけど、とりあえずわたしたちは姉妹で、同じ遺伝形質をもっているというのは間違いないわ。姉さんは最初のひとりで、わたしは最後なの。だから、わたしは長女(メヌーサ)を名乗ってるけど本当は末っ子なのよね」

「六つ子かぁ、賑やかそうだねえ」

「そうでもないよ?全然しゃべらない無口な子もいるし、人間よりゲームが大好きで引き篭ってる困ったちゃんもいるわ。それに同じ顔が雁首揃えてもあまり楽しくないものよ?決して全員ともに仲がいいってわけでもないしね」

「そうなの?」

「そうよ?だって自分の劣化コピー見るみたいで、なんだか嫌だもの」

「……そんなもんなの?」

「ええ、そんなものよ」

 ちょっと苦笑いでつぶやくメヌーサ。そのありさまは外見同様に子供っぽいが、ミミよりもこの星の言葉を流暢な話すもので、さほどミミと変わらなくも見える。

「でも、ミミは好きなんだ?」

「当然、姉さんは大好きよ!」

 迷いもなく即答する彼女(メヌーサ)は、確かにお姉ちゃんっ子の末妹全開だった。

「ま、だからこそメルとリンにわざわざ伝言頼んだのに自分でも会いたくて来ちゃったんだけどね。あはは、わたし何してんだろ」

「メルとリン?」

「あそこにいるふたりよ」

 苦々しく笑う。公私混同もはなはだしい自分自身にためいきをついているようだ。

「ところで元プロって、どこかで歌のお仕事してたって事?あ、プライベートに立ち入りすぎかなこれって」

 メヌーサは「いいえ」と首をふった。

「わたしもよく知らないんだけどね、結構有名な歌手の子と暮らしてた事があるみたいなの。

 まぁ、姉さんは最初彼女をプロデュースするつもりだったらしいんだけど、その子に逆に口説かれてバックコーラスする羽目になって、そのままなし崩しにデュエット組まされる羽目になったって」

「へぇ……それって、その人はミミを手玉にとってたって事?すごいね」

 本気で驚いているラビに、メヌーサは困ったように笑った。

「あー、その様子だと姉さん、相変わらずなのね……ごめんね迷惑かけて」

「いやいや。こっちは楽しませてもらってるから」

 そんな会話をしているうち、メヌーサはマスターの態度がおかしいのに気づいた。そして「あら」といたずらっぽく笑った。

「……」

 マスターは、あっけにとられた顔でメヌーサとステージ上の三人を見比べていた。

「オーナー?」

「あー、オーナーさん、わたしたちが何者かわかっちゃったのね」

「?」

「いいのいいのラビちゃんは気にしないで。ていうか気にされても困るわ。わたしのお仕事がバレると色々面倒だから」

「そういやそんな事ミミが言ってたね。何のお仕事かよく知らないけど、数えきれないほど敵がいて、もう誰が誰やらって感じだったって。メヌーサさんもそうなの?」

「うんそうよ」

「そりゃいけないね。せっかくきたんだ、しばらくロディアーヌで休んでいくといいよ。お姉さんと水入らずでね」

「あはは、ありがと」

 と、そこまで返事してからメヌーサは感慨深そうにラビを見た。

「えっと、なに?」

「ラビちゃんっていい子なのねえ。そこまで事情知ってるのにそれ以上訊こうとしないなんて、色々とすごいわ。さすが姉さんのお気に入りね」

「?」

「あは、気にしないで。単なる個人的な愚痴だから」

 ごにょごにょと口ごもって言葉をラビは聞き逃した。正しくは聞こえているけど意味がわからなかった、というべきか。

 だが「いいなーわたしも一匹ほしい」などとぼやいたのをしっかり聞いてしまったらしいマスターは満面に苦笑いをはりつけ、さっさとグラスふきに戻っていた。聞かなかった事にしたいのだろう。

「さて」

 メヌーサはカウンターから一歩離れた。ステージの方では曲が終わりそうだった。

「わたしは姉さんと会って行くわ。ラビちゃんはそろそろお時間?」

「ん?あー、そうか、そろそろ行かないと。メヌーサさん」

「うん、姉さんにはよろしく言っとくわ。ありがとね」

 メヌーサの礼は、気をきかせてミミと話さず帰ろうとするラビへのものだ。

「いえいえ。マスターごちそうさま」

「ああ。そこに置いときなさい」

 ラビは立ち上がり、ミルクのボトルを置いて立ち去った。

 メヌーサはそれをしばらく見送ると、曲の切れ目を見計らってオーナーに小さく会釈し、ステージに向かって歩きだした。

「こんにちは」

「メヌ、久しぶり!」

「てーかなんでここにいるの!わたしとリンにわざわざ伝言までさせたくせに!」

「んーやっぱわたしも来たくてね、暇もらってきちゃった。ごめんねー」

「……なんだかなぁ」

 思い思いの言葉がステージに響きわたっている。

 ラビはその、姉妹の邂逅を少しだけ眩しげに眺めて。

「さて、いくか」

 そして満足げに微笑むと、マスターに軽く手をふって店を後にした。

 


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