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鉄拳ラビRemake  作者: hachikun
赤毛のサイボーグヒーロー
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変化

 第一章のエンディングが近づいています。



 衛星軌道。

 そこは真空の地獄の宇宙空間であるが、同時に眼下の星に住む知的生命体にとっては重要なサポートの場でもある。

 地上にいる人々にデータを届けるためのサポート衛星や通信網を支えるための通信衛星、果ては誰かを守り戦うための戦闘衛星まで。そこは宇宙の一部でありながら、地上の喧騒をも少し引きずった場所となっている。

 そんな衛星軌道の一角に、その監視衛星は浮いていた。

 監視衛星には有人のものと無人のものがあるが、そこにあったのは有人のものだった。といっても常に人がいるわけではなく、少し離れたところにある宇宙港衛星から、たまに人がやってきて整備やチェックを行ったり、時には監視業務の一部を代行したりもするのである。

 そんな、どこにでもあるような船外作業の一幕なのだが少しだけ違いがある。

 ここにいる作業員ふたり。

 男のひとりはフル装備の宇宙服姿なのだが、もうひとりはなんと命綱だけであり、宇宙服もなく平気で作業しているのだ。

『ユッケル』

『なんだホブギュー?』

『おまえあの話聞いたか?』

『ん?あの話って……ああ、連邦勢力を我が国から段階的に排除するとかって話か?』

 ユッケルと呼ばれた男……宇宙服をつけていない方だ……は、ふむ、と少しだけ考え込んだ。

『時期的に早い遅いはあると思うが……ありえない話ではないだろうな』

『おいおい冗談だろ?だって連邦だぞ?敵に回したらこの国なんて』

『ははは落ち着けホブギュー、俺だって本当に連邦相手に戦争して勝てるなんて思わないさ……ん、これ緩んでるな。工具持ってるか?』

『はいよ』

『ありがとよ』

 宇宙服がない分、ユッケルの動きは相棒(ホブギュー)より数段上だった。しかし軽装のため、色々な工具やシステムに守られた相棒のように道具が揃っているわけではない。

 お互いのメリット、デメリットをうまく組み合わせ、ふたりはさっさと作業を進めていく。

『今の話だがな。連邦勢力はおそらく排除されるんじゃないと思うぞ。実際は連邦側の戦略的撤退ってやつで、段階的排除がどうのっていうのは我が国の国内むけの表現なんじゃないか?』

『どういうこった?そりゃ?』

『わからないか?』

 ユッケルは一瞬だけ肩をすくめて、それから作業を再開した。

『まず、連邦にとってここは重要な区域ではないって事さ。守るべきところは別にあるし、利用すべきエリアも別にある。それだけの事だよ』

『そうなのか?でも、今までは連邦人もたくさんいたよな?』

『そうだな。でも例の、なんだっけ……ラビって子が違法の連邦むけの工場があるのを暴いちゃって大騒ぎになったろ?ああいうのの影響は決して小さくないと思うぞ?』

『世論が敵になるって事か?でもなぁ連邦だぞ?』

『そうだな。でもホブギュー、さすがの連邦も、年々縮小していく勢力図は笑いごとじゃないと思うぞ』

『そうかなぁ?』

 ホブギューの方は、ユッケルの見解に懐疑的なようだった。

 これは別にホブギューが連邦寄りか、ユッケルがどうかという話ではない。そもそも二人は普通に友人たちなのだが、どう見てもドロイド系であるユッケルと素の人間であるホブギューが仲良くしている事でもわかるように、彼らは少なくとも連邦寄りの思考は持たない。といってもエリダヌス寄りでもなく、あくまで中立だった。

 そんなホブギューの疑惑に、ユッケルは微笑んで答えた。

『どっちの意見が正しいかなんて俺にもわからないよ。でも一つだけわかる事があるよな』

『なんだ?』

『それはつまり……』

 ユッケルが親友(ホブギュー)のため、自説をかみ砕いて説明しようとした、まさにその時だった。

『お、おいユッケル、なんだあれ?』

『え?』

 ホブギューに指摘され、その方向を見たユッケル。

 だが。

『……お、おい、まさか』

 彼らの監視衛星からいくらも離れてない場所で、突如として空間が揺らぎはじめた。

 その揺らぎはだんだんと大きくなっていった。やがて彼らの衛星のサイズをはるかに越え、キロメートル単位の中型船舶クラスまで広がった後、その中に『何か』の影が現れはじめた。

『ば……おいおいおいどこのバカだよ!こんな衛星軌道付近にドライヴアウトなんて!』

 星のそばは重力が大きくゆがむ。

 重力制御型の超光速航法(ハイパードライヴ)は銀河系の多くの星間文明で用いられているが、その性格上、大きな引力発生源のそば……すなわち惑星のすぐそばのような所は避けられる。これは色々な意味での安全のためでもある。

 なのに、よりによって中型船で惑星の衛星軌道に直接飛び出してくるとは?

『やばい、逃げるぞホブギュー!』

『あ、ああ!』

 動きの速いユッケルが親友の命綱をひっ掴み、ふたりは自分たちの小型船(クラフト)に戻った。避難するようだ。

 ユッケルに運ばれている間、ホブギューはというと宇宙服装備のカメラを回している。もちろん上に報告するためで、こういう非常時にはそうしようと二人で日頃から決めてあるものだ。

 だが。

『……おい、本当に船かこれは?』

『なに?』

 ちなみに小型船(クラフト)は推進器と操縦装置だけの代物なので、宇宙服を脱ぐ必要はない。だから視界も広い。

 いわれるままに振り向いたユッケルだったが、

『……な!?』

 ユッケルも、それを見た瞬間に思わずフリーズした。

 

 そこに現れつつあったのは、あきらかに宇宙船とは異なる代物。むしろ古代神話に出てくる怪物という方がふさわしい姿だった。

 

 八本の長い首に、巨大な八つの頭。

 一匹の長さが、それだけで数キロはあるような、巨大な八頭の蛇をひとつに束ねたような姿。

 ここが真空の宇宙である事を忘れてしまうような、あまりにも生物的な容姿。だがそのサイズは確かに宇宙的なもので、まっとうな生物の大きさとしてはあまりにも非現実な代物だった。

『おい見ろホブギュー、あれ!』

『な!?』

 蛇たちの目が、口が動いている。長い舌がちょろちょろと伸びたり、いかにも生物的な動きをしている。

 そして。

『お、おいおいおい、生物反応だと!?』

『冗談きついわ、空間跳躍してくる中型船舶サイズの生物って、どこの化けモン……!』

 そこまで言ったところで、ユッケルが何かに気付いたように再度フリーズした。

『お、おい、ユッケル?』

『……まずい、急いで戻るぞホブギュー、さっさと手すりにつかまれ!』

『な……いいのかアレほっといて!』

『よくない!よくないがここは危険すぎる!戻るぞ!』

『お、おう』

 ふたりが乗り込んだ小型船(クラフト)は小さくスラスターを吹かせると、するすると衛星から離れていった……。

『……「探査開始」』

 残された衛星の方は、おそらくふたりの緊急通報に本部が反応したのだろう。クリクリとカメラをめぐらせ、巨大な飛来物を映しはじめた。

『映像確認、初期解析……完了。連邦データバンクに情報あり、個体名「八頭竜(ゲルカノ)」。詳細不明』

 さらに衛星は怪物(ゲルカノ)の全体探査を行い、頭のひとつの上にサイボーグ、またはドロイドらしき存在が二体ほどいるのを確認した。映像をズームアップして解析を試みる。

『映像妨害あり、解析困難。しかし現状のデータから推測するに、二百年前のケセオ・アルカイン事件の関係者である可能性が高い。注意喚起』

 衛星はゆっくりと、ただひたすらに情報収集を続けていた。

 

 

 

 中央都市の一角。

 追い返される形で戻ってきたツカサだったが、特にペナルティが課せられるでもなく、そのまま釈放になった。

 そしてその際、ツカサは担当官にひとつの質問をした。

 担当官は不思議そうにツカサを見たが、穏やかな顔でひとつの情報を提示してくれた。

 そして今、ツカサは、その情報にあった場所の前に立っている。

 古びた建物だった。

 それは何かの団体の中央都市支部だった。しかし看板が出ているわけでなく、何やらこの中央都市では秘密結社的な扱いになっているようだった。

 ツカサは少し悩んだが、来客パネルに手をかざした。

『はい、どなた様ですか?』

「ツカサ・メレンゲ・マリと申します。こちらはエリダヌス教の中央都市支部で間違いありませんか?」

 窓口担当らしい女の声が、ツカサの声に答えた。

『はい、その通りです。何か御用でしょうか?』

「エリダヌス教についての本を読みたいのです。中央で売られている書籍のものでなく、教団側によって書かれた本を。こちらだったら読めますか?寄付金が必要なら支払いますが」

『少々お待ちください』

 そんな返答が聞こえたかと思うと、何やらツカサの体に何かのエネルギーが走った。

 走査されたのだとツカサは眉をしかめたが、来訪者の安全確認をしているのだろうとすぐに気付いた。

『安全の確認をさせていただきました。鍵はかかっておりませんので、どうぞお入りください』

「……鍵がかかってない?」

 なんだそれはとツカサは思ったが、とりあえず入る事にした。

 

 建物の中はすべてが古びていたが、意外なことに埃っぽさは皆無だった。

 目に映るすべてがツカサの知らない時代のもので、過ぎた時間は百年や二百年できかないと思われた。どれだけの長い時間かわからないが、ここはずっとこのままなのだろう。そんな気もした。

 とはいえ、ここはまだ入り口ホールだ。ここだけですべてがわかった気になるのはあまりにも早計だろう。

 そんな事を考えていると、通路の奥、暗くてよく見えない区画から、ひとりの女が現れた。

 現れたのだが。

「……え?」

 現れた女の顔を見て、ツカサは唖然としてしまった。

「ようこそツカサ様、エリダヌス教支部へ。……どうなさいました?」

「え、いや、えと……?」

 ツカサが慌てたのも無理もない。おそらくラビがこの場にいたとしても驚いただろう。

 何しろ、ツカサの目の前にいる女は、ロディアーヌでミミと呼ばれている警察娘にそっくりだったのだから。

「ああ……もしかして、ロディアーヌでお姉様に会われましたか」

「おねえ……さま?」

 はい、と女は微笑んでうなずいた。

「わたしたちは六人姉妹なのですが、全員が同じ顔なのです。

 そして困った事に、エリダヌスの女神……メヌーサ・ロルァの似顔絵そっくりなので、非常によく間違われるのです」

「……そうなんですか?」

「ええ……まぁ確かに全くつながりがないとは申しませんが、さすがに人違いですわ」

「なるほど」

 ツカサはためいきをついた。

「実はそのお姉さんに怒られまして。出直して来いって追い返されました」

「あらあら、お姉様もあいかわらずだこと」

 女はクスクスと笑いだした。

「エリダヌスについて何を知りたいのですか?」

「わたしの知らない事をすべて」

 明確に言い切ったツカサに、女は「あら」と楽しげに笑った。

「それは一般の方向けのもので?それとも」

「いえ、なろうと思えば貴女みたいな役職にもつけるレベルで」

「……」

 ふむ、と女とうつむき、そして言った。

「そうですね……お姉様が推薦なさるだけの事はあるかも。ええ、わかりました。こちらへ」

「……推薦?」

 女の言葉にツカサは首をかしげたのだが。

「お姉様は、貴女が想像されているよりずっと苛烈な方ですのよ。普通なら貴女は今頃この世にはいないはずです。

 なのに、その封印のかけかた。そして自由意思でここにきた。そうでしよう?」

「はい」

「それは、お姉様が貴女を気に入ったという事ですのよ」

「そうなんですか?」

「ええ」

「……どんだけツンデレですか。普通わかりませんよそんなの」

「あははは」

 ツカサは頭を抱えた。

 無事にエリダヌス教に保護された彼女がこの後どうなるか。

 いや、それはまず彼女の知的好奇心が満たされてからの事となるだろう……。



 ストック全部使い切りました。

 すみません、以降の更新は少し遅れ気味になる可能性があるかと思います。


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