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鉄拳ラビRemake  作者: hachikun
赤毛のサイボーグヒーロー
27/44

プラント(ミミ側)

 ラビと別れた次の瞬間、ミミは小さな部屋に移動していた。

 それはミミの『魔法』のひとつによるものだった。以前ラビに見せたここの写真はミミの友人が撮ったものだが、その者が連絡を断つ直前に送ってきた情報を頼りに瞬間移動をかけたのだ。ミミは本来この『魔法』が得意ではなかったが練習の成果があったようで、まさにその狙い通りの場所に移動する事ができた。

 逆に言えばミミはいつだってこの場所に来られた。

 だがいつ来てもいいというわけではない。ミミが知人に問い合せた結果によれば、正しいのはたった今で、彼女は最良の条件でその場所に立ったはずだった。

 そして、その狙いは正しかった。

三女(シャン)、いえ今は四女(クーカ)ね。おひさしぶり」

「はい、お久しぶりです。かつて長女(メヌーサ)であった次女(ピャン)様」

 ミミと同じ顔の娘がそこにいた。

 ただし服装も、雰囲気もずいぶんと違っていた。この星の女の子っぽいスタイルのミミと違い、その娘は異国情緒全開のローブ姿だったからだ。その立ち振舞にもどこか機械じみたものが感じられ、どこか人形じみた、ミミでは絶対にありえない奇怪な雰囲気を漂わせていた。

 そんなクーカを見て、ミミは優しげに苦笑した。

「あいかわらずガチガチねえ。やっぱりツムちゃんの方がいい?」

「お姉様。いつも申し上げておりますが、続柄は正しく呼ぶべきです。それと幼児語はご勘弁を」

「えー、いいじゃん。どうせもうトゥエラ語なんてわたしたちしか知らないんだし」

「ダメです」

「すんすん、ツムちゃんが冷たい……」

「お姉様」

「わかってますよぅ、もう」

 口調こそ硬いが、クーカと呼ばれた方の表情は穏やかだった。おそらくミミに対して悪意は持っていないのだろう。

 なお余談だがツムちゃんとは賢い子、機転の効く子という意味である。母や姉が幼い妹を可愛がる時の言い方、そして彼女たちの故郷の言葉である。ミミは昔、姉妹いちお固い性格のクーカをツムちゃんと呼び、仲良しの末妹が嫉妬するほど可愛がっていた事がある。

 ミミにそっくり、いや同一人物にしか見えないその少女(クーカ)は、じっとミミを見ていた。

 ふたりは、遠い昔に滅び去った彼女たちの母国語であいさつを交わした。ミミはかつての長女たる威厳に満ちあふれ、クーカはただ、静かに頭をさげた。

 ふたりは、顔こそ同じだが性格はまるで違うようだった。

 ミミを人間くさい女神と形容するならば、クーカは機械仕掛けの神を想像させる。素肌の下がメカニズムであったとしても驚かないほどに機械的だった。もしラビが彼女を見ていたら、同じ顔でここまで印象が違う事に関して、改めて考え込んでいたかもしれない。

 さて。

 しかし、ここにきたのは談笑のためではない。ミミは話を切り替えた。

「ところでクーカ」

「はい、来訪の理由ですね。伺います」

「前ここにきたわたしの友達。あの子をどうしたの?」

 クーカは少し首をかしげ、ああとうなずいた。

「半ドロイドのジャーナリストですね。ご想像の通りフロアの水槽の中です。そろそろ二体目を産み落とす頃でしょう」

「そ」

 ミミはフウッと少し怒りをにじませ、そして腕組みをした。

「彼女の回収をお望みですか?ならば手配いたしますが」

「ええ頼むわ。それも用件のひとつではあるけど、もう一つききたい事があるの」

「はい、なんでしょう」

「どうしてこんなところで連邦の手助けをしているわけ?」

 実の妹を目の前に、ミミは怒りを隠そうともしていない。

 だがそれは仲良しの姉が妹を叱る感じに似ていて、あくまで身内に対するものだった。そして妹の方も知っているようで、淡々とそれに対応する。

 そも、もともと昔からこの二人はこういう感じだった。姉は感情型で妹は計算型。衝突もコミュニケーションのうちと割り切っている部分があった。

 そして、そんな相手でも、ミミにとってはかつての末妹の次くらいにお気に入りの存在だった。

「約0.1ユムタン前、当時は四女(クーカ)であった五女(ギャン)の提案でわたしたちはボードゲームを開始しました。それは現在も小休止と舞台の変更を繰り返しつつ進行しています。現在五女(ギャン)は神聖ボルダの友邦であるテサッチ共和国に陣を構えており、両国の戦争に便乗する形でゲームを続行しております」

「え、例のゲームの続き?とっくに飽きてやめちゃったかと思ってたわ。まだ続けてたの?」

「はい」

 ふたりの言う『ゲーム』とは、長い時を持て余した彼女らが昔、色恋沙汰以外に編み出した娯楽だった。

 ボードは宇宙。その上に乗っているのは生身の国家であり人々。人間の国や世情を操り戦わせる神視点の戦争ゲーム。

 まぁ、傲慢の極致と言えばその通りなのだけど、彼女らにも切実な理由があった。

 彼女たち姉妹は、代表であるたったひとり以外は『予備パーツ』にすぎない。そんな自分たちの心を保つため、彼女らはそうした事で「変化」をもち、心をつないできた経緯があった。

、長い年月の間、その『主役』をしていたミミにそれを非難できるかといえば、それは無理。

 なのでミミは、その事自体は問題にしなかった。

「ま、そっちの是非は今はどうでもいいの。とにかく、ここで続けるのは止めてちょうだい、できるわよね?」

「申し訳ありませんが、それはできません」

 ミミの言葉をクーカは拒否した。

「どうして?あなたたちのゲームは本来世情とは関係ないでしょう?よそでやる事もできるんじゃないの?」

「もちろん可能です。しかし今回のこれだけは少し事情が異なりますから」

 どうして、とミミが問いかける前にクーカは右手をパーにしてミミに頷いた。すべて話しますという意味の、古い古い時代のゼスチャーだ。

 わかった、話しなさいという、これまたミミの古めかしい合図に

「今回演出している戦争はもう少し続ける必要があるのです。

 わたしたちの計算によれば、この戦いがあと半年も続けば、戦争特需などにより連邦の経済は若干持ち直します。これを元手にすれば連邦は、勢力圏こそ回復しないまでも数千年は何とか生き延びるだろうと試算しています。

 そして、人類の未来を思えばもう少しだけ連邦は必要なのです。警鐘を鳴らすものとして」

「警鐘?」

 ハイとクーカは頷いた。

「かつて六女(リャン)であった現在の長女(メヌーサ)により、新人類の鍵が撒かれてから連邦時間で約二百五十年が経過しました。

 ご存知のようにこの時点でわたしたちの仕事は終わった事になります。なぜなら、わたしたちが0.3ユムタンなんて長大な時間を生き延びてきた理由はただひとつ、宇宙に適応できる柔軟性の高い新人類を生み出す事なのですから。

 ですので、わたしたちの仕事は終わりです。ここまではよろしいですね?お姉様」

「ええ」

 ミミは頷いた。

「ですが、正直申し上げますとお二人とも有能すぎたようです。

 エリダヌス思想は圧倒的優位である事が理想ですが、いくらなんでも他の思想を食い尽くすほど発展してしまうのは未来に対する選択肢を失う事にもなりかねません。これは好ましくないという事でわたしと五女(ギャン)の意見は一致しています」

「まさかと思うけど……そのために戦端を開いたの?ゼロから両国に干渉して?」

「否定しません」

「……」

 ミミの顔色が一変した。

 それはラビどころか義姉の女署長すらも見た事のない顔だった。かつてエリダヌスの女神と呼ばれて長い時を駆け抜けた「人でありながら人でないもの」の顔だった。

 見る者すべてに不安をかきたてる、人ならぬ女神の双眸が細められた。

「わたしたちは神ではない。

 わたしたちはこの銀河系を含む周辺三つの銀河に住む人間、それもアルカイン型人類のオリジナルというだけの存在にすぎない。原器のように保存され、必要なくなればただ果てるだけの存在。

 わたしたち自ら戦争を起こすなど歴史に積極的に干渉するのは重大なルール違反のはず。極端な違反者は破壊も辞さない、かつて六名全員で確認している。そうよねクーカ?

 姉妹の中でも最も冷静沈着なあなたが居ながら、どうして皆の合意を無視してそんな事をするのかしら?返答次第によってはタダではすまさないわよ?」

「それは無理です」

「無理って何がよ」

「タダではすまさない、というのは実力行使という意味なのでしょう。しかしお姉様にそれを成す力はないはずです」

 極めて冷静な返答だった。

「力なき意思は無力とは申しません。ですが今現在、わたしはお姉様の意見に従う事はできません。

 そして現在のお姉様では、わたしや五女(ギャン)に攻撃する事で意思を変えさせる事はできない。なぜならお姉様は武器をお持ちではありませんし、最前線を離れてずいぶん経たれてます。現代の武器の知識もお持ちではないはず。

 そうですよね、お姉様」

「そんな机上の空論はどうでもいい、話をそらさないでくれるかしら?それより自ら戦争を引き起こした事に対する釈明はないの?」

 クーカは静かに首をふった。

「既にご説明さしあげたはずです。

 また今回は都合上、事後になってしまう事については謝罪いたしますが、今後の対応について姉妹間で提案をするつもりでした。エリダヌスという長年の目的も果たされた今、わたしたちもそろそろ転換を図るべきではないかという事で」

「もういい、わかったわ」

 ミミはクーカの話を遮った。

「本来ならメヌーサ(あのコ)がやるべきなんだろうけど、ここまであからさまに重大違反したうえにその体たらくじゃ、それこそ事後報告で十分と判断するわ。

 クーカ。古きエリダヌスの誓いに従いあなたを破壊する。今ここで」

「そうですか」

 クーカは小さく頷くと、

「とても残念ですが仕方ありません。武器持たぬ存在とはいえ、お姉様は甘く見ていい存在ではない。危険要素としてあなたを破壊します」

 そう言うと同時に右手をあげた。

 そこには小さな指輪がはまっていた。その指輪が赤く鈍い光を放ち、

「おやすみなさいお姉様」

 その言葉と同時に、指輪から赤い光がミミに向かってほとばしった!

 だが、

「!?」

 しかしその赤い光はミミを素通りし、反対側の壁に命中した。

 ジュッという音がして一瞬で壁に大きな穴があいた。僅かなタイムラグで異臭が漂ってくる。

「これは……なに?」

「あら、わたしを破壊するんじゃないのクーカ?どこを狙っているのかしら?」

 クスクスと笑い出すミミ。

「なるほど、ボルダ由来の防御法ですか。では光学兵器は曲げられる可能性があるという事ですね。ならば」

 そう言うと、クーカはどこかから銃のようなものを取り出した。

「わお、また懐かしいもの持ってるわねえ。ヨンカ式のコンパクトブラスターだっけ?」

「これなら光学兵器ではない。ボルダやキマルケの技術であろうと、なんの準備もなく止められるものではないはず」

 そう言うと引き金をひいた。

 銃口が黄色く光り輝き、そこから凄まじい高熱のエネルギーがミミに向けて叩きつけられたが、

「いいえ、そんなもの効かない(・・・・)わ」

 ミミがそう言った瞬間、ミミの手前で見えない何かにかき消されるように消えてしまった。

「な……!」

 あわてたように連射する。だがそのエネルギーもミミに届く事なく宙に消えるのみ。

 やがてエネルギーが尽きたのか、それとも攻撃する意義を感じなくなったのか。エネルギーは消えてしまった。

「気がすんだかしら?」

「……」

「このまま反論がなく降参もしないならクーカ、あなたの頭をぶち抜いておしまいにするけど?」

「わかりましたお姉様、降参いたします。これ以上やれば破壊されるのはわたしでしょう」

「ふふ」

 妹が戦意を失ったのを見て、(ミミ)は表情を和らげた。

「それじゃクーカ、現状は一旦白紙に戻してくれるわね?」

「はい」

 今度は素直にクーカもうなずいた。

「あと、それが終わったら皆に連絡頼めるかしら?今の話、一度ちゃんと姉妹会議にかけましょう」

「え?」

 ミミの反応が予想外だったのか、クーカ再び改めクーカは、少し目を丸くしてミミに問いかけた。

「よろしいのですか?お姉様はわたしの意見を却下されたのでは」

「あのね」

 ミミは眉を寄せた。

「クーカの意見だって一理あるでしょう?

 そりゃあ、わたし個人的には積極的干渉は反対よ?だけど、でもこういう意見が存在するって事は姉妹の中で共通認識にあげるべきでしょう。何しろクーカの言う通り、わたしたちの第一の役目はもう終わっているんですからね。

 それにもし共通認識としてそっちの方向に決まったら、あなたたちだってコソコソやんなくてよくなるのよ?合理的じゃないの」

「はいお姉様。感謝いたします」

「やめなさいって、まだ結果はわかんないでしょう?結局は却下になるかもしれないのよ?」

「ですが、うまく行けば全員の力が借りられるという事でもあります。

 それに却下なら却下で、別のよい案が提案される可能性もあるでしょう。

 無意味な対立なしに話が進められるのならば、それもいい。無駄なエネルギーも使わず犠牲もないのですから」

「あいかわらずねえ」

「お姉様こそ」

 そう言うと、クーカはどこかリラックスしたように表情を和らげた。

「しかし今のは驚きました。推測するに、ご結婚なさっていたボルダで学ばれたものでしょうか?しかし例の盾によく似ていましたが」

「そりゃそうでしょ、ボルダ髄一の天才魔道士が作ったエミュレーションだもの」

「!」

 クーカは一瞬絶句した。

「盾をボルダ式魔導で再現したというのですか?銀河にふたつとない究極の盾を?それはまた凄まじい。おそらく銀河初ではないですか?」

「完全再現は彼でも無理だったみたいだけどね」

「十分です。似た効果を出しただけでもおそらく史上初でしょう」

 ふうってためいきをついた。

「なるほど、完全なわたしの見込みミスだったようですね。ボルダ式魔道についての認識を今後改めます。大変失礼いたしました」

「いいのいいの。さてそれじゃ頼めるかしら」

「わかっております。こちらの施設の閉鎖、それにマスコミ関連への情報リークをしてこの国における事態の収拾を図ります。ところでお姉様」

「なぁに?」

「申し訳ありませんが、これから妹に連絡して急いで後片付けをしたいと思います。おひまをいただいてよろしいでしょうか?」

「ええいいわ。ごめんね折角やりかけた事にダメだししちゃって」

「こちらこそ、穏便にすませていただき感謝いたします。では」

 そういって踵をかえし、クーカは部屋を出ようとしたのだが、

「!」

「なに?銃声?」

「コンピュータ、今の報告なさい」

 クーカとミミの眼前に唐突にモニターが開き、大広間のラビが大写しになった。

「!」

 ラビはズタボロだった。明らかに大量の銃口で一斉射撃されたのがありありとわかる状態で、四肢はちぎれかけており、胴体も血と肉の塊のような外観になっていた。頭は無傷だが、むしろそれが奇跡といえるほどの光景だった。

「これは……お姉様のお連れの方ですね?」

 こくん、とミミは頷いた。その間もラビを厳しい目で見ている。

「おかしいですね、警備にこんな事させる権限は与えていないはずですが……いえもしかして」

 ふむ、とクーカは画面を見て考えた。

「お姉様、申し訳ありません。どうやらこちらの組織内にお姉様やあの方を狙った別動部隊がいるようです。心当たりはおありですか?」

「あるある。ここの政府与党関係ね。バックにいるのは連邦のエージェントだけど」

「なるほど、そういう事ですか。わかりました、そのエージェントのさらに背後はわたしの方で引き取りますが」

「……わたしの方は、とりあえずフロアーの子たちの救助かな?」

「子たち?」

 ミミの返答の意味がよくわからないのだろう。クーカの目線がミミのそれを追った。

「お姉様、あの方が何か?……その、すみませんほとんど即死だと思うのですが」

「クーカ」

「はい?」

「非戦闘員をすぐ逃しなさい。ドロイドに関する技術者を残して他は全部」

「は?」

「それと全ユニットの開放操作もして、今すぐ」

「今すぐですか。生命維持困難まで弱っている個体が少しあるはずですけど」

「ガラスが割れたとかならともかく設備電源がまとめてふっとんだらみんな死んじゃうでしょう?たとえ可能性は低くともシステム側の医療プロセスに委ねたほうがまだマシよ。早くして」

「え?あのすみません、どういう」

「いいから早く!あとで説明するから!」

「あ、はい」

 あわてて壁面のパネルにとりつくクーカを横目に、ミミはつぶやいた。

「やれやれ。ここまで計算違いとはね」

 眼前のモニターの中では、血まみれのラビがピクリともせず倒れたままだった。


長女が次女になったり移動している件について。


この『鉄拳ラビ』とはあまり関係ない話なので一言ですませますが、彼女たちの「代表者」は必ず姉妹の長女を名乗る事になっているための措置です。

現在、その代表者をやっているのは、かつての末妹です。そのため末妹が長女を名乗り、本来の長女が次女になり……と、ひとりずつズレているのです。


ではでは。


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