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鉄拳ラビRemake  作者: hachikun
赤毛のサイボーグヒーロー
19/44

ありし日の出会い

 過去のシーンです。ラビと老人の遭遇。

 灼熱の砂漠。

 強烈な日差しと砂漠の世界を、ひどく旧式のトラックがゆっくり走っていた。

 今にも壊れそうなひどい代物だったが、あまりにも単純な構造のせいか、揺れこそ大きいが壊れる気配はなかった。もちろんエアコンに重力制御つきの快適な乗りものも存在するのだが、お金のない男にそれが買えるわけもない。このトラックだって買ったものでなくジャンクを修理したものだし。

 そんなわけで、真っ昼間の砂漠だというのにエアコンもきかない 古いキャラバン・トラックは、今にも息をつきそうな博物館いきの旧式エンジンをゆっくりと回しながら、今回の目的地に迫ろうとしていた。

「ち、またか。ポンコツめ」

 恨めしそうに老人は計器を見て、そして少しだけ進路を修正する。

 しかし老人の顔は苦言とは裏腹に楽しそうだった。さすがに暑さには参っているようだったが、そもそもこの貧乏ツアーを自分なりに楽しんでいる感すらあったのだ。

 まぁ実際問題、いい歳してお金もないのに施設にも入らず、わざわざ苦労して自前で修理したポンコツカーで砂漠を歩いているような男だ。そのあたりの価値観が一般人とはいささか異なっているのだろう。

 さて。

 このあたりの砂漠はルークの若者たちによって調査済みのはずだし、どのみち金目のものが落ちているとも思えない。老人にしてみれば、金にはならないが自分的には価値のあるもの……すなわち昔の敵性グッズであるとか、古いマシンの用品類とか、そうしたものを発見するのが一応の目的なのだが、第一の理由はもっぱら物見遊山だった。まぁ残っているジャンクでもトラックの燃料代くらいにはなったりするので、それほど損でもない。

 儲けのわりに手間と時間がかかり、若者も業者もやりたがらない砂漠のジャンク集め。だけど、それ自体を面白がっているような退屈な年寄りにとっては、これでも立派な老後の娯楽だった。

「ん?」

 さて、そんな時だった。彼ご自慢のポンコツセンサーがおかしな反応をとらえたのは。

「地中?いやいやこりゃ砂の中か?近いが……いやしかしこれは」

 妙に反応が大きい。

「おい……こりゃスティカ式の突撃コアじゃないか?……いやいやそんなバカな」

 突撃コアとは、大気圏外から何かを届けるための装置だ。いわゆる上陸作戦にも使われる。降下というより墜落に近いポッドである。大きさもそこそこある。

 だが、そんなものならとっくにルークに回収されているはずではないか?

「確かにここは正規ルートから完全に外れちゃいるが……まさかな、センサーの故障だろう」

 だが気になる。看過できない。

「とにかく行ってみるか」

 老人は方向をそちらに変えた。

 

 

 事実は物語よりも奇なりという。どこの世界にも似たような言葉があるそうだが、老人はその言葉をまさに今、噛み締めていた。

「おいおい、これは」

 その呻き声も無理はない。まさに老人の目の前には、砂にほとんど埋もれてはいるが、まぎれもないスティカ式の上陸突撃コアが見えていたからだ。

 戦争当時のものなのは間違いない。何らかの理由で砂地に完全に埋もれてしまい、そのまま待機モードになってしまったのだろう。

「先日の砂嵐か。表面が出て、待機モードが解けたってところだろうな」

 砂漠には意外に金属反応などもある。地中に完全に埋没していれば、いくらルークでも見過ごしていた可能性は否定できないだろうと老人は考えた。

 ロックが外れてハッチが開いている。

 だが誰か出た気配はない。とはいえ、もし誰かいたとしてもおそらく死んでしまっているだろう。戦争中のものだとすれば、何十年も地中で停止していたという事になるのだし。

 老人は車をコアの横に止めた。ごつくて大きいはずの車であるが、いくらなんでも大型ポッドをまるごと収容できる大気圏突入コアとは比較になるわけもない。その小ささとボロさはちょっと情けないほどだった。

「いったい何を運んできたんだろうな」

 中は見えない。大きなカプセルポッドが入っているが、そちらは開いていない。おそらく中身の『何か』の稼働がキーになっているのだろう。

 車を降りると無造作に近寄る。

 システムが生きているのは既に確認していたが、警備システムの可能性を老人は考えていなかった。ずっと砂に埋もれていたのなら、そういうシステムが今も動いているとは考えにくいし、そんなものが出るような活動をしていれば、さすがに定期巡回のルークの船が見つけただろう。

 老人はそのままハッチの内側に入り込むと、接合コネクタを探した。

「スティカ式だから、えーと……あった、これか」

 コネクタに愛用のローカルネットデバイスをつなぎ、手元の端末と無線結合する。

 これが戦争時代なら、軍のデバイスと民間のそれをつなぐなんて無理だろう。

 しかし今は違う。当時の軍用コードは流出しているし、ジャンク漁りで何を見つけるかわからない老人は、もちろんその対応法を持っていた。

「やはりスティカ軍のか。これは……ほう」

 老人はちょっと考え込むように眉を寄せた。そして端末からコードを打ち込んで反応を見た。

「作戦行動中じゃないのか……?まて、するとこれは『補給物資』か?」

 ちゃっちゃっちゃっ、とボタンに指を走らせる。手元の暗号コードのようなものと見比べ、あれこれ打ち込んで反応を見みて、そしてさらに打ち込む。

「む、ビンゴか?」

 突然、ぴぴっと音がしてメインパネルが立ち上がった。

「……こりゃあ……」

 驚きの声があがる。

 無理もない。メインパネルの中は、冬眠状態で丸くなって眠る全裸の女の子だったからだ。もちろん人間でなくドロイドだろう。

 サイドの情報パネルには『人格情報なし』と出ている。培養されたっきりの新品なのだろう。

「負傷兵の予備ボディか?何があったか知らんが回収不能になっちまったわけだな」

 こんなものが未回収であるなど普通ありえない。老人にしても、生まれてはじめての邂逅だった。

 とはいえ、これは使えない。

「女の子なのが残念というべきかな。ふふふ」

 確かに途方も無い発見だが、それ以上のものではない。軍用サイボーグの予備ボディなんて普通のルートで売れるものではないし、だからといって再利用も難しい。

 これが少年のボディなら、ほかならぬ老人自身が使う手もあるのだが。

 老人の肉体はもうガタがきていたし、若返り目的でドロイドのボディにするのも最近は決して珍しいものではない。そもそも住人そのものがドロイドと混血しつつある現在、ドロイドボディに移植したからって差別が起きようはずもない。さすがにあまりにも高価なので、老人には夢物語だったが。

 だが少女のボディでは使えない。老人は男だからだ。

 この国では性の混乱を避けるためにそういう事が原則禁止になっている。性同一障害などの書類を偽造する手もあったが、持ち前の正義感ゆえに老人にはそういう感覚がなかったし、生き延びるためとはいえ異性になるというのはどうか、という気持ちもあった。

「他には何もないのか?」

 使えないボディでは収穫にはならない。他に何かが欲しい。

 だがこういう時に限って、他にも何もない。少女の入っているカプセルなどは通報すれば持っていかれてしまうだろうから、これも収穫にはできない。

「……ないか。まぁ仕方ない」

 ためいきをついて、老人は通信機に手をかけた。もちろんルークか警察か……この場合はルークだろう……当局に通報するためだが、

「……」

 モニターの中の少女を、じっと見てしまった。

 そして老人の中を、遠い日の記憶がよぎっていった。

 

 

 それは、まだ老人が幼子だった頃の事。

 当時、子供向け番組でヒーローものが流れており、彼はそれを夢中で見ていた。

 まぁ小さいころの話で、細かいストーリーまでちゃんと見ていたわけではない。だけど、その時の気持ちは今も覚えている。

 ……ヒーローになりたい……。

 

 

「コンピュータ。スペックを表示してみてくれ」

 画面のサイドに基本スペックらしいものがズラズラと並ぶ。

「特殊能力なし、腕力は人体の最大660倍。高速思考能力その他……」

 完全な格闘戦仕様であった。

 その機能を最大限に生かすにはもちろん訓練が必要だ。だがきっちり能力を使いこなせれば、この星に『彼女』に勝てる者などおそらくありえない。徒手空拳で戦う限り。

 途中で読み上げるのをやめて、じっと男は考え込んだ。そして自分の両手を見た。

「……」

 何かを迷うような表情。

 迷うままに、しかしきっぱりと命令を出していく。

「コンピュータ。3Dゲーム用の体感入力装置で、あれをリモコン操縦はできるか?」

 コンピュータは少し悩み、こう答えた。

『可能ですが慣れるまでは強い違和感が伴います。ひとによっては耐え切れないかもしれません。あなたが用いた場合は重大な健康障害を惹起する恐れがあります。

 また現在の設備ではリモコン不可能です。コントローラはありますが、フィードバック設備がありません』

「生体フィードバッカーは使えるか?」

『ルイル43以上のフィードバッカーが必要です。これがあれば汎用の計算機とネットワークを使ってリモコンシステムの構築が可能です』

「わかった」

男は少し考え、そして頷いた。

「持ち帰ってみる事にする。ポッドの輸送は可能か?」

『不可能。大きすぎます』

「では、この場で一時的に奴をリモコンする事はできるか」

『リンク可能です。しかしフィードバック設備がないので制御困難です』

「そうか。ではリンクを試みよ。あとの操作は私がやる」

『警告。手動制御はさらに困難です』

「完全制御の必要はない。起動してポッドが開いてくれれば、あとは本体を私が回収する」

『了解しました』

 コンピュータの回答を見つつ、老人はつぶやいた。

「フィードバッカーなら、心当たりがある」

 生体フィードバッカーとリモコンシステムを組み合わせた遠隔操作。

「……リモコンなら。中に入らなきゃいいんだろ?」

 人生の最後に出会った、小さな可能性。

 それは破滅の始まりなのかもしれない。

 しかし今さら失うものなんて、せいぜい老い先短い自分の命くらいしかないではないか。

 だったら。

 だったら……たった一瞬でもいい、夢がかなうのなら。

「……」

 モニターの中で、少女は丸くなって眠り続けていた。


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