出会いの村7
追記 4/1 4/3 修正
一行が村がたどり着く頃にはすっかり陽が暮れていた。
村の入り口でカリローがさらわれた人達を背負う三人を振り返る。
一番身軽な身でありながら一番疲弊しているのも彼だった。それでもリーダーとしての面子があるのか、行きほどの醜態をさらしてはいない。
「あんたら?」
「やぁ、今日は君が見張り番かい。巣穴退治を受けた冒険者とでも名乗れば話は通じるかな?」
村の入り口に立つ男が一行を松明で照らしながら恐る恐る声をかけると、カリローは珍しく気さくに応答する。
「ああ、…ああ! 後ろにいるのはさらわれた…?」
「さすがに全員は無理だった。だが遺品などはなるべく持ち帰ってきた…」
見張りは後ろの3人が背負う顔に知り合いでも居たのか、声を震わせている。
さらに見張り番は感極まって「良かった、良かった」と何度も同じ言葉を繰り返す。
「そ、そうだ。村長に報せて来る。あんた等は…?」
「酒場で待つとしよう。後ろの人達もそこのベッドを借りて寝かせるようにするよ」
言葉の通じそうに無い見張り番をどう扱っていいものかとカリローが悩んでいると、我に返った見張りがカリローの肩をつかんで揺らしながら問うてくるので、カリローはふむと少し悩んでから応答した。
■
村の酒場にたどり着き、店主に訳を話してさらわれた人達のためにベッドに寝かせると、一行はようやく緊張を解いた。
ひとつのテーブルを囲って座ると、思い思いのポーズでリラックスする。
「ようやく村か。結構距離あったなぁ…、ユウ。お前頭から血ぃ出てんぞ?」
「ん、デカブツから避けた時に頭ぶつけてた。大丈夫、問題ない」
ハチヤがふぃーと息を吐きつくしていると、頭をぬぐうユウの姿が目に映る。ぬぐったその手とおでこには赤いものが付いていた。
「せっかくだ、治してやれ」
「そだな、頭出せ」
ハチヤが頷いて、神聖魔法を行使しようとマナを集中しようとして手の先を見ると、ガントレットを睨むユウの姿がある。
少し過去を振り返り、ユウが金属アレルギーだったことを思い出したハチヤは慌ててガントレットを取り外し素手になると、自分が金属を身にまとっていないことを大袈裟にアピールしてから、改めてユウに手招きする。
「…分かった」
少し難しそうな顔を浮かべてしてから、覚悟を決めてぱっつんの前髪をかき上げて患部をハチヤに突き出す。
「ん、あれ。止まってないよな?」
「マナ切れか?」
ハチヤが瞑想して右手に紫紺の輝きを宿すのだが、ユウの傷の癒える気配は一向にない。
「そんな訳ない、カピー。お前の手を出せよ」
「…む、治ったな」
カピィールが帰りの道中の草木で切った傷を差し出し、ハチヤが先程と同様に瞑想すると傷はすぐさま癒える。
「おっかしいなぁ」
「…冗談半分で聞いてくれて構わない。私は今この世界…ウヌカルに住んでる神様に嫌われている。だから神にかかわる奇跡の恩恵は受けられない」
首をひねるハチヤにユウが告げ、3人が固まる。さらに追い討ちをかけるようにユウが言葉を畳み掛ける。
「みんなも御伽噺で聞いたことがあるかもしれない。爪弾きのこと」
■
「とまぁ、そういうことがあったわけだよ」
場所と時間は変わって、ペータル公国にある冒険者の集う宿「踊る翠羽の妖精亭」の密会用の部屋で、ハチヤは店の主ことスルガ=ブロウリィに詰め寄った。
「まぁ、確かに紹介状もあるし、取引先の男も凄い冒険者だと、わざわざこの俺に喧伝する有様だ。俺も何とかしてやりたいのは山々なんだがな」
スルガはハチヤを引き剥がすと、奥に座るユウの頭をくしゃくしゃにしながら、手前に座るカリローとカピィールの視線の先にある彼女の手元にあるものを見てため息をついた。
ユウの手元には手のひら大のガラス玉が収まっており、なんともすまなそうに顔を伏せている。
「だがな、レベル0はまずい。お譲ちゃんが爪弾きとかいう御伽噺の存在だろうが、この世界で…ウヌカルでレベルの重要性は分かっているだろ?
このままじゃうちに冒険者登録するのは難しい…というか無理だ」
スルガはユウから離れてハチヤの隣に立つと、机の上においてあった羊皮紙を3枚突き出す。
「これは俺たちの分…」
羊皮紙には3人分の冒険者証がそれぞれ書かれている。ユウの分はない。
「いや、俺だって別に言いたくて言ってるわけじゃないんだぜ?
お宅ら3人のレベルについては既にこの神の瞳で確認済みだ。
ハチヤは33、カピィールは35、カリローに到っては38!
既に中級冒険者の風貌すら見える。
それに引き換えこのお譲ちゃんにはレベル0。そんな数値はあり得ない。
要はこの世界でお嬢ちゃん実力を裏付けるものは無いってわけだ。偽証してもいいが、冒険者は信用第一だ。偽者にうちの連中の命を預けさせるわけにはいかない」
「分かってる、けどよ…」
「私が問題なのならここを去るだけ。非登録でも仕事を選ばなければ、生活するくらいどうとでもなる」
ハチヤの否定を込めた台詞の途中でユウが割り込み、自分は大丈夫だと問題ないとスルガの手元にある羊皮紙と3人を交互に見ながら作り笑顔をぎこちなく作った。
その痛ましい笑顔を見て押し黙る3人に訪れる沈黙をスルガがわざとらしく咳払いをして破る。
「あー、そこで一つ相談なんだが、あんたらパーティを組んでみる気はないか?
お譲ちゃん一人なら正式登録は難しいが、4人で一組となれば代表者が登録するだけで残りのメンバーの質は問われない。似たような質のメンバーで組むことが多いからな、パーティでの登録は」
「そんなのアリなのか?」
ハチヤが表情を輝かせてスルガに迫る。
「アリだ。だが同時にオススメも出来ない。斡旋できる仕事が自然とでかい仕事やリーダーのレベルに合わせた仕事になっちまうからな」
「なるほど、僕たち4人でパーティ登録をすればユウもこの店で冒険者をやれるということだな」
「あんたらが嫌じゃなければな」
挑発するような口調でしゃべるスルガが最後まで台詞を言い終わらないうちに、カリローは自分の冒険者証をスルガから奪うと魔法で燃やす。
ハチヤとカピィールも顔を合わせ、にまっと笑うとスルガから奪ったお互いの羊皮紙を破り捨てた。
「パーティ用の冒険者証はあるかい? 僕が代表者になっておこう、構わないかな?」
カリローは燃え尽きた羊皮紙から視線を動かし、ハチヤとカピィールの顔を見ながらキザったらしく言う。そしてスルガはあらかじめこうなることを想定していたかのように、首尾よく懐から取り出した羊皮紙をカリローに渡した。
「ハチ、カピィ、アル…」
ユウは今まで伏せがちだった顔を上げ、信じられないものを見るように3人の名前を呼ぶ。
「なに、袖すり合うも他生の縁というだろう。君の爪弾きとかいう体質には興味がある。僕はメリットがあるから君とパーティを組もうと言ってるんだ」
「俺は体術とか教えて欲しいかもな、あのすげー回し蹴りとか」
「ハチヤはその前に冒険者の常識を学ぶのが先だな。まぁユウお前も同じだ、見ていて危なっかしい。人生の先輩として指導してやらんとな」
彼女の手元にあるガラス玉、神の瞳には0の数字を表示したままだ。世界は彼女を否定したが、目の前にいる仲間は彼女を肯定してくれた。
「…うん、ありがと」
3人の言葉をかみ締めながら、ユウは感情の乏しい…それでもいま出来る精一杯の感謝を込めた笑みを浮かべ言った。
一旦区切りです。
クーデレのユウ。
熱血漢のハチヤ。
ツンデレのカリロー。
情が厚いカピィール。
以上、4人の冒険譚でした。