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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
はじまりの冒険者
5/63

出会いの村5

追記 4/1 修正

 右側の空洞に蓋をした一行は、再び分岐点に戻ってきていた。


 行きとは違い、気絶したゴブリンはカピィールが背負っている。なによりパーティの雰囲気は来た時よりもいくらか重くなっていた。


「さらわれた5人のうち3人は生きていた。じゃあ残りの2人はどうなってるんだ?」


「僕もそれを考えていた。食うのが目的であれば、そもそもあの3人が無事でいるはずがない。何か儀式のようなもののために使うのが目的だったのかもしれないな」


 カピィールの疑問にカリローが分析し、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。そして最悪のケースを答えにする。


「人間、生物を使う儀式か。神聖魔法にもそういう類のはある、人造神器アーティファクトの作成なんかが代表的だけど、それほど大規模な魔法を扱えるのは一握りだしなぁ」


 ハチヤが神聖魔法の観点から生物を生贄とする魔法を思い浮かべてみるが、そもそもそのレベルの魔法を行使出来る魔術師が稀有であると判断する。


「ふむ、あとは召異魔法くらいだな。人族の魂ほどとなればかなりの大物を召喚出来るだろう」


「大物っていうと、例えば?」


「土蜘蛛や酒呑童子のような鬼の類は珍しくないな。さすがに72柱の悪魔が呼ばれたりすることはあるまい」


 カリローがさらに別の魔法を例に出すと、聞きなれない召異魔法についてハチヤが具体例を問うので、眉根を寄せて少し唸りながら実例を挙げる。


 カリローとしても専門分野ではなく、本のみの知識のためはっきり断定した言葉は用いない。


「なら急ぐ必要があるな。今も儀式の最中かも知れん」


「同意見だ、ゴブリン如きなら見合う報酬だが、召喚された異世界の魔物の相手となれば割に合わない」


 3人は頷くと左へ進む。


「…最悪、報告のみであとは騎士団に任せればいい」


 そして一番後ろから彼らのやり取りを見守っていたユウが、彼らのやる気に水を差した。


   ■


 左の道を進んでしばらくすると大きな空洞に着いた。

 一行は顔を見合わせると、無言のまま率先してユウが先行して偵察を行う。


 ユウはなるべく壁沿いに奥へ進み、空気が湿ったものが血生臭い何かに変わるのを肌で感じ取った。

 さらに奥へ進むとゴブリンたちの寝床とおもわれる場所に出くわす。


 一瞬頭の中が真っ白になったが耳から生物の息づかいが聞こえないことを頼りに再起動する。


 周囲を見渡すが特に何もない、外はそろそろ陽が傾き、午後と夕方の間の時間帯だ。夜行性のゴブリンといえど起きている可能性はあった。

 一旦戻ろうという衝動を抑えつけ、さらに奥へと進むと円状に並んで狂喜しているゴブリンの姿が見て取れた。


 そこに置かれた蝋燭と円内で言葉を紡ぐ人族の言葉、ゴブリンの奇声に遮られて聞き取り辛い、が会話ではなく何か力ある言葉マジックワードだということは感じ取れた。そしてさらに離れた場所にともすれば見過ごしそうなくらい気配を殺して潜んでいる巨漢の二足歩行、オーガが鎮座していた。


 ユウは一旦動きを止め、こちらに気付いた素振りがない事を確認すると、慎重に3人のほうへ戻る。


「…儀式の最中か」


 ハチヤが苦々しげに言う。恐らくは生贄となった人間のことを思いやっているのだろう。


「ゴブリン5匹と種族不明の魔術師。それにオーガか。上手くやる必要はあるが、どの道、持久戦は避けられそうにないな」


「儀式の最中なら、こちらに呼び寄せて一匹ずつ倒す方法も取れんな。こちらから攻めんと」


 ゴブリン以外の存在と召喚儀式というイレギュラー要素にカリローとカピィールが唸る。


「ソレを松明にして灯りを確保するのがいいと思う」


 ユウはカピィールの背負ったゴブリンをあごで指して冷淡な口調でいう。その発言にカピィールとハチヤの表情が僅かに曇る。


「碌な手段を思いつかないな、君は。いや褒め言葉と取ってくれて構わない」

「…勝てば官軍」


 カリローがキザったらしく髪をかき上げながらフォローを入れると、それを嫌味と取ったユウが不満げに口を尖らせた。


「褒め言葉は本当だ、嫌味じゃない。予定通りカピィールが先頭でそいつをゴブリンに投げつける。ハチヤは壁になってゴブリンの足止め、ユウはオーガの足止めを頼む」


 カリローは再度ユウに丁寧な声音でフォローをいれると戦闘の流れを確認する。


「着火はカピィールでいいの?」

「言いだしっぺが汚れ役を買うのが礼儀だと思っているのなら気にするな。そういうのも含めてパーティだ」

「臨時だがな」

「…うん、ありがとう」


 ユウはカリローとカピィールの憎まれ口にキョトンとして礼を言った。


「では、梟の目オウルビジョンは戦闘開始時に解除する。投げつけた瞬間、目を瞑っておけば視界の確保はなんとかなるはずだ」


 カリローが3人を見渡すとそれぞれが頷き返す。


「行こう!」


 ハチヤは剣を鞘から抜くと背負った大盾を構え、荷物を脇に置いた。他の3人も同様に戦闘態勢に入るとまずカピィールが先陣をきって走り出す。


「とびっきりのいい酒だ、感謝して飲めよ」


 円状に並んで狂喜しているゴブリンを視認すると、背負ったゴブリンに酒をぶちまけミトンの金属板と兜の角を擦らせて火花を散らす。

 瞬間、ゴブリンの全身に炎が回る。


「ほらよ! 一緒に楽しめ!」


 炎に包まれたゴブリンを5mほど投げ飛ばして、しっかりと目を瞑る。それが地面に落ちる音と共に、驚嘆きょうたんの声がゴブリンたちからあがる。


「お前らの相手は俺だ」


 ハチヤが脇からタックルをするように、背を向けたゴブリンに片手剣を突き出すと相手の右手を掠めるようにすり抜け、そのままシールドバッシュを決めて2mほど吹き飛ばす。

 吹き飛ばした先にもゴブリンがいて、味方を反射的に受け止めその反動でしりもちをついてしまう。


 そこへカピィールの鋭い斧槍が振り下ろされ、上になったゴブリンの身体に深く切り込む。


火の精霊サラマンダー金属の精霊フェールム。集いて踊れ、鋼の蛇よ」


 最初に投げたゴブリンを拘束していた針金と、まとわりつく炎が絡み合って全長2mの紐状のものに揺らぎ、そして宿主を最初に締め上げながら焼き殺すと、次の獲物目がけて踊るように襲い掛かると先ほどと同様にその体を締め上げる。


「なんだ、敵襲なのか?」


 術者の動揺に、オーガが落ち着かせようと近寄るために構えを解いた瞬間を、ユウは見逃さなかった。


 広場で起きる味方の襲撃には目もくれず、ただその一瞬だけを狙って頚椎に浴びせ蹴りを決める。

 巨体が前方に揺らぐが踏みとどまり倒れはしない。体勢を整え振り向き様に払ってくる大きな両刃斧を倒れるようにしてかわすと、跳ね起きる要領でオーガのあごに両足を突きさす。


「ニンげン、ヤるナ」


 しっかりとダメージは通ったはずなのにまだ余裕を見せ、さらには人語を解すオーガに驚きながら、ユウはすぐに伸ばした足を引っ込める。

 そして今度は相手のスネに足を引っ掛け、それを軸にして自身を回転させ、遠心力を最大限に使って大きく距離を空ける。一筋縄ではいかない強敵を見てユウは大きく息を吐いた。


「…らもちいのらとら」


「オモしロい」


 目の前のオーガは再度重々しい両手斧を振り上げユウに身体を向ける。


 相手の筋肉は思ったよりも硬い。気功術で強化したつま先が決定打にならなかった。

 ユウは火力を求めて広場で戦う仲間の方ををちらりと見るが、増援は期待出来そうにない。物理だげきに強いのであれば別の方法を試みるまでだ、創造具現化術アイテムクリエイトを用いて拳の属性を氷に変換し再度構えなおした。


「オーガもダメか、だが足りない分の生贄は揃った。異界より魂を代価とし顕現せよ、土蜘蛛」


 既に手下のゴブリンが4匹やられていたが、術者にとっては好都合だった。

 仲間は残りゴブリン1匹とオーガに減ってしまっていた、されど生贄として足りなかった対価は人族に比べれば劣るものの4匹分の魂がここにある。後は扉を開ければいい。術者はにやりと笑いそして意識が消えた。


「ちょ、おい。なんかでっけえ蜘蛛出てきたんだけど!」


 ハチヤは倒れたゴブリンに止めを刺したところで異変に気付いた。


 空間が割れて赤目の鬼の顔が術者の上半身を食らった。そして無理矢理壁をこじ開けるようにしてその虎縞の胴体を左右に揺らしながら長い蜘蛛の爪足を揺らして迫ってきていた。


「ふむ、術者自身が生贄となって魔物を召喚したか。さほどの手練れでは無かったと見える」


「冷静に判断しとる場合か!」


 ゴブリン最後の一匹の脳天に斧槍を叩き込むと、カピィールは僅かに下がりカリローに怒鳴った。


「お土産召喚というのは大抵、レベルの低い魔物しか呼び出されん。図体だけだ、案ずるな」

「マジかよ」

「なら、てめーが相手しろ」


 カピィールは斧槍を振り上げ、6本あるうちの一本を切りつけるが、切断までには至らず体液が染み出すだけだった。


 ハチヤも恐れず鬼の顔目がけて盾を構えて特攻するが、その巨体を揺らすほどの威力には至らない。


「燃やすか? いや、火の精霊サラマンダーの要素が足りない。しかし土と水だけでは決め手に欠ける…」


 鬼の顔をした虎縞の蜘蛛を睨みながら、カリローは舌打ちする。

 その途端、マナの駆け抜ける感触を受け取りカリローは突然目の前がぐにゃりと歪み、そしてたまらず地面に突っ伏した。


 ユウは広場の異変に急かされながら、オーガ左ジャブと右ジャブひたすら連打。むき出しになった腹と胸は凍傷で紫色に変色していた。


(ダメージ自体は蓄積しているはず…)


 ユウは思い切って拳の属性を火に変更、オーガの腹部へ貫手で突く。相手の腹にずぶりと指が根元までめり込む、素早く引き抜くとオーガの表情を伺う。不適には笑っているもののどこか嘘くさい。


「ノらモなトなモいキち」


 声を搾り出すようにオーガが口を動かす。


 ユウは気にせず、腹部に力一杯のミドルキックを繰り出すと、その痛みにオーガは思わず膝を折って、崩れ落ちた。


 敵の顔がユウの真正面に現れると、ここぞとばかりに相手の顔面目がけてパンチを連打する。先程の胴体とは異なり顔は脆く、歯を折り、鼻を潰す。

 そして猛ラッシュ敵意が失せた瞬間を敏感に嗅ぎ取ると、両手を引き一歩前に踏み込み両手の掌打を顔面に叩き込み、相手の意識を飛ばした。


「…こちにこちに」


 ユウは視線だけ落として呟くと、止めは刺さず巨大な蜘蛛目がけて走る。


「ユウ、気をつけろ、思ったより素早い。へんな魔法も使った!」

「ハチ!」


 叫んだハチヤが蜘蛛に吹き飛ばされ、何とか起き上がろうとしたところで、身体から力が抜けたように不自然に崩れ落ちた。

 ユウが蜘蛛の周囲の様子を見ると、カリローも同様に倒れていた。カピィールだけが顔を赤くさせてはいるものの両足でしっかりと立ち、槍を構えて蜘蛛に牽制攻撃を行っているようだった。


「畜生、体に酒が回っれる感覚だ。オレはそっちの方が調子いいがにゃ!」


 斧槍を振り回し鬼の顔に傷を入れると、景気よくカピィールが叫んだ。


 相手をアルコール中毒にする魔法。

 とっさに判断するがそれが精霊魔法なのか神聖魔法なのかまでは判断がつかない。


 ひとまず正気なのは自分だけだとユウは判断し、一番遠くで寝転がっているカリローを担ぎ上げる。


「カピィ、一度撤退しよう。このままじゃ全滅する」


 叫んだ瞬間、土蜘蛛から思念のようなものが肌に触れたような気がしたがユウはそれを無視する。土蜘蛛のほうはユウの態度に驚いているのか一瞬動きを止めた。

 その隙を逃さず、カピィールの大振りが胴体にクリーンヒット、土蜘蛛がさらに怯んだ。


 それを見届けると、ユウは空洞の入り口に走り出す。


「ちょい待て、ハチヤを置いて行けん」


「アルを置いたらすぐに戻る、そしたら囮役を交代!」


 カピィールの酒の強さに感謝しながら、普段滅多に出さない大声を張り上げると、ユウはカリローを引きずって空洞の入り口を目指した。


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