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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
冒険者の時代
49/63

異界の調べ7

追記 4/7 修正

「これだけの力を持ちながら、何故貴女はまがいものに手を貸すの?」


 光の奔流が途切れた後、遺跡は崩壊し、召喚者の頭上には青空が広がっていた。

 彼女の味方であった4体の天使の姿はなく、目の前には黒髪の少女と銀髪のエルフだけが立っている。


「…コレを持って超越者かみさまの庇護を得ようって方がどうかしてる」


 権杖を構えながらユウは周囲を見渡す。

 予定通り、四方の壁は無傷。しかし、上空にあった建築物が消滅してしまったのは、相手の放った攻撃の威力の凄まじさを物語っている。


「庇護を得ずにこの世界でやっていけるとでも?」

「…やってけないね」


 召喚者はトカゲ、半身半蛇、白煙、大男を周囲へ呼び出す。


火の精霊サラマンダー水の精霊ウィンディーネ風の精霊ジン土の精霊ノームの実体化? 僕は悪い夢でも見ているのか?」

「恐ろしいでしょう、エルフの精霊使い。コレだけのことが出来ても私達はレベル0なのよ?」

「レベル0…」


 カリローは言葉を失う。神話クラスの出来事を再現させる目の前の召喚者もそうだが、彼女は私達と言い、追い討ちをかけるようにレベル0という言葉を使った。

 それは仲間であるユウもまた、同じ次元の存在だと暗に告げている。


「アル、さがって」

「恩恵を打ち消す体質と言えど、この世界に元からいる存在は消せないでしょう?」


 ユウは権杖を片手に召喚者へ向けて走る。


 火の精霊サラマンダーが放つ灼熱の業火はすべてを溶かす。


 水の精霊ウィンディーネが放つ鉄砲水はすべてを洗い流す。


 風の精霊ジンが放つ竜巻はすべてを切り刻む。


 土の精霊ノームが放つ土石流はすべてを押し潰す。


 ユウは権杖を振るい、それらの現象を否定し、あるべき日常へとかえす。


「精霊の力を無力化?」

「私のアルカナは規律を遵守させる。精霊魔法はこの世界の法則を曲げている。だからそれを許さない」


 権杖に触れた瞬間、顕現した精霊達はその動きを束縛される。


「そして行き過ぎたその指向性は、他者の束縛を意味する」

「アルカナ? 知らない、私はそんな事、知らない」


 ユウは召喚者に接近すると左手で喉元を掴み、そのまま地面へ押し倒す。


「アルカナ使いの傾向として、レベルの恩恵がないことに悲嘆して体を鍛えることをしない」


 左手に力をこめると、召喚者は苦しそうにもがき、両手をユウの左腕に絡ませる。


「あなたもその例に倣って貧弱で助かった。おやすみなさい」


 抵抗など意にも介さず、親指で相手の頚動脈を強めに押さえて数秒。

 召喚者は意識を失い、伸ばした手を地面に落とした。それに伴い、束縛されていた精霊も姿を消す。また召喚者の右手に握られたコインも同様にひっそりと現世から消えた。


「説明してもらえるんだろうな?」


 固い表情のままカリローが背後から声をかける。


「望むのなら。…ただ少し待ってね。先に回収するから」


 ユウは権杖を手放しその姿が消えるのを確認すると、おもむろに召喚者の衣服をはだけ、その体を観察する。

 体に残る傷痕が虐待の影を彷彿とさせるが、それは彼女に後から聞けばいいだけの事なので後回しにする。上半身には見つからず、続けて下半身を探るうちに左太ももの付け根にそれらしい刺青をみつけた。


「何をしているんだ?」

「だから回収」


 ユウはポーチからナイフを取り出すと、刺青にあてがいスライドさせ、赤い軌跡を残す。

 次に自身の左親指の皮膚を噛み千切り血をにじませ、それを相手の刺青に押し付ける。そしてポーチをナイフをしまい代わりに取り出したハイポーションで傷口と治し血を洗い流す。すると、さきほどまであった刺青は跡形もなく消えうせていた。


「おしまい」


 ユウは独り言のように呟くと、はだけた彼女の衣服を整えなおす。そしてポーチから取り出した短めのロープで両腕を背後で縛ると一息ついた。カリローは終始無言で彼女の行為を見届け終えると、どう言葉をかけるか悩み、ねぎらいの言葉を皮切りに会話を広げようと口を開く、その時だった。


「…でもなかった」


 ユウは急に気を失ったままの彼女を担ぎ上げると、立ち上がって上空へ視線を向ける。話しかけるタイミングを逸し、釣られてカリローも空を仰ぐ。


「使徒に魔神の祝福が?」

「外にいた奴らか」


 2体の天使はそれぞれに深手を負った同胞を1体ずつ抱え、戸惑いの表情を浮かべていた。

 カリローは相手の言葉を探るより自らの安全を得るため、精霊魔法を行使しようとして異変に気付いた。すべての精霊のマナがまったく存在せず、今の状況では外部に頼った強力な魔法が使えない。


「下位存在の仕業ではあるまい。魔神を召喚したか?」

「ちがうよ。ただ、今回は超越者かみさまの独り勝ち、お互い損したね」


 ユウの発言が気に障ったのか、天使が手を振るうが何の現象も起こりはしない。相手もまた大気中のマナ枯渇現象に気付き、戸惑いを隠せないようだった。


「あと、さようなら」


 天使がユウの言葉の真意を問いただす前に、銃声が立て続けに2発響いた。銃弾は2体の天使の頭を破壊しそのまま地面へ墜落する。


「ユウ、大丈夫か?」


 続けて数m上の地上からハチヤが顔を覗かせる。


「おのれ…、主よ。どうか不遜な子羊へ天罰を」

「…せめて魂だけでも元の世界に帰れるといいね」


 わずかに息のあった天使の頭と体を創造具現化術クリエイトウェポンで斬属性を付与した蹴りで両断すると、ユウは目を伏せて優しげな声音で呟く。


「ハチヤ、ここから上がるのにハシゴのようなものを用意してくれ」


 息絶えてなお残る天使の体を見ながらカリローが叫ぶ。


「ん、おう。ロープでいいよな。ユウが抱えてるのは生贄になりそうだった人?」

「…まぁ、似たようなものだ」


 カリローは若干苛立ちながら視線を向けると、ハチヤは既におらず地上にいるメンバーを呼びかける声だけが聞こえる。


「別に彼女を庇ったわけじゃない。説明するのが面倒だっただけだ」


 ユウはハチヤへ真実を語らなかったカリローへ不思議そうな視線を向けるのだが、彼は不機嫌そうにそれだけいうと黙り込む。


「そっか、じゃあ…ありがとう、だね」


 ユウはそう言って笑うと、ハチヤ達がロープを持ってくるまでの時間を、カリローと2人、お互い沈黙して過ごした。


   ■


「…ここは?」


 気が付くと柔らかなベッドの上で寝かされていた。


「気が付いたな、俺はハチヤ。アンタは『テンシ』とやらの生贄にされそうだったとこを、あの2人に助けられたらしい。感謝しとけよ、命の恩人ってやつだ」


 ハチヤという茶褐色の髪の青年が指差す先には黒髪の少女と銀髪のエルフの青年がおり、黒髪の少女は無関心のまま、銀髪のエルフの青年は意味ありげにウィンクをする。


「…生贄ですか。それは…その。…あの御使い…『テンシ』はどうなりました?」

「それならあたしらが全部やっつけたよ。安心して。あたしはナトゥーアね。こっちの女の子がユウちゃん。気難しいエルフさんがカリローさんね」


 私の計画はすべて失敗した。そして阻止した相手、ユウとカリローに情けをかけて貰った。それだけではなく、2人は首謀者としての罪すらなかったことにする予定のようだ。


「オレはカピィール。こっちは全員名乗った。アンタの名前を聞かせてもらえるか?」

「…スレア=ワイナリーと申します」


 スレアは強面なドワーフの顔とその野太い声に気圧され、思わず本名を口走る。


「悪いけど、ちょっとこいつを受け取ってもらっていいか?」


 ハチヤはこわごわとガラス球をスレアに差し出す。それはスレアにとっての因縁であり、人生を台無しにした人造神器アーティファクトだった。


「え、いや…」

「ユウが今なら大丈夫だって言えってうるさくて…痛っ、蹴るな」


 ハチヤが尻を蹴られて体勢を崩し、ガラス球を手から取りこぼす。

 とっさにスレアはそれを受け止める。


「いってーな。照れ隠しに暴力にでるのはよくないぞ? あ、スレアさん。ナイスキャッチ、落としてヒビでも入ったら大変なことに…?」


 スレアはガラス球に表示された数値を見て固まっていた。


「え、俺なんか気に障ること言った? 泣くのやめてもらえない?」

「ハチヤ君、女性を泣かすなんて酷い奴だね」

「いえ、ごめんなさい。ハチヤさんが悪いのではなく…」


 スレアは手で頬を触れ、初めて自分が涙を流していることに気付いた。そしてそれを意識した瞬間、堰を切ったようにとめどなく涙が溢れ、嗚咽し体を震わせる。


「まぁ、緊張の糸が切れたのだろうさ。しばらくはそっとしてあげよう」


 カリローはスレアの持つガラス球の数値を確かめた後、場を取り成すように動揺する仲間の3人に声をかける。3人ともスレアとカリローを交互に見ながら、やがて納得し彼女へ視線を向けるのをやめた。


「レベル23の一般人だもんな。生贄とか怖い目にあったし、しょうがねーよな」

「蒸し返さない」


 ハチヤの言うとおり、スレアの持つレベル測定器、神の瞳ウジャトには見慣れた0ではなく、23という数値が表示されている。世界にずっと否定され続け、それを覆すために、世界を創造出来る上位存在を召喚するというスレアの計画は阻止されたが、彼女の目的は意図せず叶っていた。


「ジッグラト遺跡だっけ、壊れちゃったけど弁償どうすんの?」

「てか、あの遺跡を吹っ飛ばしたすげー光はユウの仕業だよな。前にも似たようなの使ってたし」

「そうだよ」


 ハチヤの問いにユウは素直に肯定すると、意味ありげに隣に座るカリローに視線を向ける。


「…アルカナといったな。アレは一体どういう力だ?」


 カリローはしばらく思考を巡らせていたが、ユウに続いて他の仲間からの視線も集まり、とうとうプレッシャーに耐え切れなくなって、当たり障りのない質問を口にする。


「この世界を創った元からいる神様の力のことだよ」

「前にも似たような言い回しをしたことがあったな。元からいるとか、別の神様とか」


 カリローは以前、大金が手に入った時の使い道について、ユウがたどたどしく語っていた、神聖魔法は効かないのに薬品の効果がある理由を思い出して呟く。


「…ハチ達が呼んでいる超越者かみさまは世界を創造するほどの力は持たない。よその世界からやってきたって言えばいいかな」

「それは召異魔法?」

「厳密には違うけど、それで理解してもらって問題ない」


 ナトゥーアには神様にも格があるくらいの理解しか出来ていない。


「結局、ユウの力、アルカナだっけ、はなんなの?」

「この世界の創造神の欠片。死骸の一部」

「創造神の癖に死んじゃったのかー。理由は?」

「さぁ? 暇だったんじゃないかな?」

「…神様の感性は凡人には理解できねーな」


 あっけらかんに創造神の死を語るユウにも、その事実にも拍子抜けで、ハチヤは理解することを諦めた。


「神聖魔法を無力化するのもその力のせいか?」


 カリローは未だに感情のまま涙を流し、呪いから解放されたもう1人のレベル0へ視線を向ける。


「ん、超越者かみさまに目の敵にされてるのは事実だけど、爪弾きツイストっていう体質とは別だと私は思っている。手放したからといって超越者かみさまの恩恵を受けられるとは思わない」


 ユウもまた、カリローの視線を追って、呪いから解放された同じ境遇の女性に優しげな視線を送る。

 カピィールは聞き役にに徹し、彼女が以前語った冒険者になる理由を思い出す。


『生きる為』


 彼女は強くならねばならないと漏らしていた。


「ふむ、1つ質問だ。これからも神様はユウを狙ってくるか?」

超越者かみさまは気まぐれだから、保証は出来ない。ただ普通に暮らすよりは確実にその機会は増えるよ。だから…」


 ユウはそこで言葉を詰まらせる。その先の言葉を言うべきか悩む。


「つまり、俺達はこれからも強敵とやりあう羽目になるわけだな!」

「…ハチヤにしては冴えているな」


 カリローは内心は怯えて今すぐにでもパーティ解消、ユウと縁を切りたいと願っているはずのハチヤの気持ちを汲み取ると同時に、それでも彼女に連れ添うことを決めた彼の覚悟を心の内では賞賛する。


「ユウさんは…、世界に愛されていないけれど、人間には愛されているのですね」


 スレアはこれまで虐げられた人生を振り返りながら、呪縛から解放されずとも前向きに生きる彼女とそれを支える仲間に嫉妬した。もし、彼女の位置に自分がいれば自暴自棄にならずに済んだかと思うと、その先の未来を思うと、どうしようもなく居たたまれない気持ちになる。


「スレアは今後どうするの?」

「私は…そうですね。身の振り方はおいおい…。ただ平凡な生活を望みます」


 ユウとは相容れない。決別の意味を込めて『平凡』という言葉を敢えて強調する。


「そのほうがいいな。ちょうど僕らが所属する「踊る翠羽の妖精亭」で給仕を1人募集している。その気があるなら紹介しよう」


 スレアはカリローの提案に曖昧に頷く。


「うーん、とりあえず、あたし以外に決め技を持つ人が増えたってこといいよね」


 ナトゥーアもまた、これからもユウと共に歩むことを宣言した。


「オレも今まで通りだな、神様と出会う機会が増えるということはそれだけ希少な祭器と出会う機会が増えるのだろう。願ったり叶ったりだ」


 カピィールもまた、ユウと共に歩むことを宣言する。


「…死ぬかもしれないよ?」

「死ななかっただろ? それが現実だ」


 ユウは仲間達の宣言に困惑し、彼らを遠ざけるように宣告する。それでもカリローは離れようとする彼女をたった一言で引き止める。


「悪いが、君みたいな規格外を手放すつもりはないよ。諦めることだね」


 カリローは止めの言葉をユウに放つ。

 スレアは彼らの姿に嫉妬することすら諦めた。


 レベル0でも社会に受け入れられる様子は彼女の中で羨望に変化した。


「ユウさんはお仲間に恵まれてますね」


 心底、うらやましいという気持ちをスレアは虚飾のない言葉で表現した。


これにて一区切り


この物語における『召異魔法』って何ぞや? を説明をするのが目的でした。

フタをあけてみれば、随分ナナメ上に流れてしまった感じです。


あと、若干更新速度が落ちてますが、平行でやってるのが原因ではなく

今回のお話自体のオチを考えてなくて、それで苦労してました。

まぁ、書き終ってこうして後書きを書いてる最中でも、本当にコレでよかったのか微妙なかんじです。

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