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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
冒険者の時代
45/63

異界の調べ3

追記 4/7 修正

 建物の中は真っ暗で1m先の視界の確保も怪しい状況だった。

 ユウは視界の確保のためドアを閉めるかどうかを悩んでいると建物の奥から何かが動く気配を感じる。


「暗視技能も持たない者が暗殺ギルドに足を踏み入れるか」


 暗闇の中から女性の声が聞こえ、5mほど離れた場所にランタンに灯がともる。


「ドアは閉めておくれ。寒いのは苦手でね」


 ランタンの灯りが暗闇の中から猫人族リンクスの女性を浮かび上がらせる。ユウは声の主と間違いないと判断し、彼女の言うとおりドアをゆっくりと閉める。

 ランタン以外の光源が無くなると、同時に女性もランタンから遠ざかり闇に溶けていった。


 ユウは暗闇の中、ランタンを目指して慎重に歩き近づく。そしてランタンを手に取ろうとしたところで取っ手が金属製であることに気付き、慌ててポーチの中に手を突っ込み、その中にある皮手袋を探す。


「別にランタンに仕掛けなんかしちゃいないよ。どこまでも疑り深い子だ」


 相手の的外れな指摘を聞き流しながら、ユウは皮手袋を装着しランタンを手に取った。

 周囲を照らすと、特筆すべきことなど何一つない普通の部屋だった。敢えて違和感を挙げるなら火を焚いた様子もないのに暖かい部屋の温度だろうか。


「そこにある椅子に座りな」


 ユウが首を傾げてると、女性からの指示が下る。


「質問してもいい?」


 ユウは手近にある椅子に座り、ランタンを足元に置くと女性がいるだろう暗闇へまっすぐ視線を向けた。


「名はオ=ガヴォリテ。見ての通り猫人族リンクスをやっている。ギルドでの立場は、そうだね。幹部の1人だよ。アンタのヤンチャの仲裁に入ったのも幹部だったが、それはどうでもいい話かね」


 ガヴォリテと名乗った女性は早口でまくしたてると、ユウに恩着せがましい視線を向けてくる。


「…聞きたいのは手紙の件」

「手紙? ああ…ロキ様はアンタにも神託オラクルを告げた訳じゃないのか。なるほど、どうやら優先順位を間違ったらしい。なに、こちらの話さ」


 ガヴォリテの話に出てきたロキというのはさきほど世間話をしていた超越者かみさまで間違いないだろう。そうなると、暗殺ギルドにはユウを呼ぶ理由が神託オラクルとは別にあることになる。


「手紙の件は今度にする?」

「構わないよ、どうせ同じ内容だ。

 初めはそう、1月末からずっと続いてた妙な殺しを調査してもらう予定だった。丁度あんたらがこっちへ帰ってきた頃から始まってたからね、無関係じゃないとうちらは踏んでいた。

 けれど、今朝になってみれば幹部同士で神託オラクルを受けたと大慌てさ。5日後に『テンシ』が現れる。奇妙な殺しも、その準備だとご丁寧に種明かしをして頂いてね。こちらとしては手間が省けて大助かりだったわけだが、事件の解決に黒髪を巻き込めと神様からの指示さ。

 黒髪なんざ、公国内に掃いて捨てるほどいる。こちらが頭を悩ませてた時に丁度アンタが接触してきた。もう神様の思し召しと考えるしかないだろうってことで現在に至る。状況は掴めたかい?」


 ユウは謎の名詞『テンシ』は置いておいて、ガヴォリテの話した他の内容を吟味する。


 彼女が言うところでの殺し、つまり殺人事件がペータル公国内で起きていた。

 それが誰なのかまでは現在も特定出来ていない。

 タイムリミットは5日後、それが『テンシ』が召喚されるまでの猶予。


「ん、1つだけ教えて」

「1つでいいのかい? 先に言っておくけど、殺しの犯人は特定できちゃいないよ」

「それは織り込み済み。殺人の目的は分かる?」

「殺人の? 被害者の共通点を洗い出せってことかい? それはこちらで引き請け負うよ」


 ガヴォリテは極めて協力的だった。ただ、ユウの意図した質問の答えではない。


「…神託オラクルから推測するに『テンシ』は召異魔法による召喚」

「なるほど、殺しはその準備とみたわけだ。だが既に殺しちまった魂は捧げられんだろう?」


 召異魔法は対価を支払うことで異界からナニモノかを呼び寄せる。


 人の魂も例外ではないのだが、ソレを収集方法が存在しない。何しろ目に見えるものではなく、なんとなくそこにある程度の不確かな存在であるため、ソレを対価にする場合は大抵、儀式の最中で命を奪うことで魔法を成立させている。


 カヴォリテの指摘はそういった一般論を根拠から来るものだった。


「そう、だから殺人の目的を聞いた。犯人の目的は邪魔されないために殺したのか、他にもっと何かあったのか知りたかった」

「あたしは前者だと思うがね、共通点が分かればこちらから知らせにいくよ。場所は「踊る翠羽の妖精亭」で問題ないかい?」

「うん、でも1つだけお願いが…」

「歯切れが悪いね。噂じゃ口数は少ないが、そういう煮え切らない態度は取らないと聞いていたけど」


 ユウは自分にガヴォリテがどういう偏見を抱いているのか少し気になったが、親しく付き合う仲になるわけでもあるまいと思い直し、用件だけを言った。


「次からの手紙は良識のあるものでお願い」


   ■


「だいたいの話は分かった。それで君は依頼を受けてしまったのか?」


 深夜の「踊る翠羽の妖精亭」、カリロー達のほかに人はおらず貸切状態だった。

 ユウはカリローの問いかけに首を左右に振って否定する。


「しかし、話を聞いている限りでは相手は受けたものだと勘違いしていると思うのだが?」

「依頼は宿を通してってことになってるよ?」

「体裁だけ整えただけで、断れる状況ではないだろうに…」


 ユウはカリロー達には超越者かみさまとの邂逅は伏せており、話したことはすべて暗殺ギルドでの出来事だけだった。なのに何故かカリローに怒られている。


「まぁ、依頼内容が事前に分かってるだけでも対策は練れるでしょ。その『テンシ』をぶっ飛ばせば万事解決じゃないの?」


 ナトゥーアからの助け舟。


「理想は召異魔法を阻止することだがな。何せ神託オラクルが絡むような出来事だ。『テンシ』とやらは僕たちにとって格上の存在と見て、まず間違いないだろう」

「そう、カリカリすんなって。神様が力貸してくれてるんだし、実際状況は悪くないんじゃねーの?」


 苛立つカリローにハチヤが楽観的な意見を述べる。


「ふむ、オレはどちらかというと噂にも挙がらない殺人事件の方が気になるがな。隠蔽工作とか情報規制しているんだろうが、通り魔事件の時のように妙なところからちょっかいが出されんもんかね」


 カピィールは通り魔事件の際、騎士団に囲まれ、いまひとつ活躍できなかったことを思い出しながら、同じ轍を踏むのは御免だとばかりにテーブルに身を乗り出す。


「ん、今回は暗殺ギルドが全部やってるみたいだし、背中から刺されるようなことはないよ」

「って言っても、キナ臭いギルドを完全に信用するのもな…」


 ハチヤは珍しくユウの意見に否定的だった。暗殺ギルドという負の極致にいるような存在をどうしても信用することが出来ない。


「難しいことは後にして、依頼報酬は? 一応貰えるんだよね?」

「えーと、前金で2000Gだったかな。成功報酬は別に用意してあるって言ってた」


 ユウはガヴォリテが帰り際に依頼報酬に関して口を滑らせていたので、それをそのままナトゥーア達に伝える。


「カリローさん、やったね。また希少な蔵書が増えるよ!」

「別に報酬をすべて当てている訳ではないが…」

「じゃあ、カリロー、他に何に金使ってんの? 武器や防具に金をかけてる素振りないよな?」


 ハチヤやカピィールは事あるごとに報酬を注ぎこんで装備のグレードアップを図っているし、ナトゥーアも銃器のバラエティを着実に増やしている。


「…防具は精霊の加護を受けたものに更新している。マナ軽減のために手ごろな宝石も購入してある。君らのように目立つ訳ではないので気付かないかもしれんがね」

「あ…」


 カリローの言葉を受けて思い出したようにユウがポーチを探り始める。


「ユウ?」

「これ、別口の報酬」


 そういってユウは青みがかった大粒の宝石をテーブルの上に無造作に置く。


「これは…また随分な代物だな」


 カリローは一目みて喉を鳴らす。そして宝石に手を伸ばしたところで自分が素手であることに気付き慌てて手を引っ込める。そしてポケットから取り出したハンカチを使って宝石を改めて手に取った。


「ブルーダイヤモンド。…しかも失われたカット技術を使っている。出すところを間違えなければ1万を超えるな。これをどこで?」

「かみさまから直接。前払いだってさ」


 興奮しているのかカリローはわずかに頬を高潮させている。


「神がそう顕現するわけがないだろう」

「つい先月、顕現してたけどな。黒尽くめの女の人と巨人、俺が会っただけで二柱」


 冗談ではなく真実を語れとカリローが目で促す横でハチヤがぼそり。


「ふむ、ユウの周囲だと珍しいことではないのかもしれんな」

「ん? 巨人…アレ、神様だったの?」

「ナトはそんなことも知らずに右腕吹き飛ばしちゃったのかー」


 ハチヤは表情を強張らせたままのナトゥーアに残念そうに声をかける。


「え、バチあたりな感じで天罰くだっちゃう?」

「その辺はユウが片付けたよ。後腐れの無い様文字通りアトカタもなく」


 動揺するナトゥーアをハチヤが落ち着くよう諌める。ハチヤの説明では納得がいかないのかナトゥーアは説明を求めるようにカリローへ視線を向ける。


「僕も気絶していてそのへんの記憶は曖昧でね」

「オレも2発目貰った時点でほぼ意識が途切れかけてたからな…」

「ん、私も説明出来る自信ない」


 カピィール、ユウと視線を向けても返って来るのはナトゥーアの求めるものではない。


「結果だけ分かってりゃいいだろーが。俺のさっき言ったとおりだよ」

「うーん、そういうもんか。そういうもんだね」


 ナトゥーアは少しだけ悩んで勝手に独りで納得してしまった。


「コホン、話は逸れたが神からの依頼でもあるなら受けないわけにも行くまい」

「じゃあ、今回の依頼受けるんだな」


「明日、正式に要請がくればな」


 カリローはハチヤの問いに『正式』の一言を強調して返事した。


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