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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
はじまりの冒険者
4/63

出会いの村4

追記 4/1 修正

 林が森となり、鬱蒼としたという形容詞がつく頃に、冒険者一行は目的地と思われる洞窟の入り口にたどり着いた。


 ハチヤが木の陰から洞窟を眺めながら、周囲を見渡すユウとカピィールの会話を盗み聞く。


「ゴブリンの言うとおりだったな。意気地のない奴だ」


「足跡も往路の分しかなかった。あの5匹以外はあの中だと思う」


「あとは情報どおり7匹が中にいるかだな」


「こうなると魔法を使うのがいるのも本当かもしれない」


「あのさ」


「何だ、ハチヤ?」


「お宅ら、その情報をどうやって入手したわけ?」


「コレとボディランゲージだ」


 カピィールは荷物袋から釘を取り出し、ハチヤに見せる。

 気のせいか、うっすらとどす黒いものがこびりついているように見えたし、なにかゴブリンの叫び声が耳元に木霊したが、ハチヤは敢えて口を閉じる。


「で、リーダーさんはどうなっている?」


「…もうすこし休養が必要みたい。ポーションで無理矢理回復させてもいいけど別に急ぐこともない」


 カピィールの問いに、ユウが後ろで木に身体を預けて息を荒くしているカリローを見ながら答える。


 カリローはそのやりとりが不満なのか、一度視線を二人にやるが、憎まれ口を叩く元気はないらしい。その様子をカピィールがにやにやと悪い笑顔を浮かべている。


「…カピィ、悪趣味」


「そうだぞ、人には得手不得手があるんだからなー」


 ハチヤの擁護にカリローが表情を歪ませる。


 その行為が彼のプライドを傷つけたことに本人は気付かない。ユウだけがそれに気付いて、無表情のままぷいっと洞窟に視線を向けた。


   ■


「…先に様子を見てくる。鎧組みは邪魔だから下がってて」


「一人じゃ危ないだろ」


 ようやく息を整えつつあったカリローを尻目に、ユウが森から出ようとするところをハチヤが止めようと思わず手を出すが、過敏に反応したユウが振り向きギンっとハチヤを睨む。


 ハチヤはその視線に怯んで、その伸ばした手を反射的に引っ込める。


「悪い」

「…いや、私も」


 出発の際のやり取りが脳裏によぎったのか、互いに視線を逸らして謝罪する。それでもユウは自分の仕事と言わんばかりに、1人で洞窟へ警戒しながら近づいていく。


「人には得手不得手があるんだろ? ハチヤ」


 気まずそうにユウの背中を視線で追うハチヤに、カピィールがフォローをいれる。


 ユウは森の切れ目から周囲を警戒、洞窟の入り口付近にいくつもの足跡がある。洞窟の方に耳を傾けるが特に物音はしない。さらに洞窟に入り込み陽が差し込んでいる部分を探索するが、特に何も見当たらない。


 ユウはひとまず安全と判断し、こちらに3人が来るよう手招きをする。


 外にいる男3人組もそれを見て、おっかなびっくりでそろりそろりと、ユウに近づく。


「…ヘタレ」

「いや、だってお前…散々脅す素振りしといてそれは無いだろ」


 ユウが傍まで来た3人を眺めて小声でぼそりといい、ハチヤがげんなりしながら応答する。


 カリローは何か考えているようで、二人のやり取りを気にはしていない。


「暗いな、松明を使うか?」


「そだな、視界確保した方が便利だしな」


「いや、せっかくだから。魔法で解決しよう。闇の精霊シェイドよ、力を貸せ。梟の目オウルビジョン


 カリローは最低限の声量で詠唱すると軽く杖を振るう。


「お、なんか見えるようになった」


「まぁ逆に明るいところでは見えなくなるがね。ゴブリンのような蛮族は夜行性だからな。闇夜でも目が利く、慢心はしないことだ」


「…呼び鈴がある、押す?」


 カリローが得意げにハチヤに語っていると、ユウが少し先に進んで足元に張られた糸と鳴子を指して振り返る。

 ハチヤとカリローは顔をぶんぶんと左右に振って無言で答えた。


「罠だな、一応切っておくか。ユウ、向こう側の端っこを持ってくれ」


「分かった」


 カピィールがユウの脇にしゃがむと向かい側に顎を向ける。ユウが地面を気にしながら大回りして向かい側にたどり着くとしゃがんで糸を掴み、カピィールに頷き合図をする。


「切った、そっち側も頼む」

「よし、おろすぞ。3、2、1」


 ユウも糸を背中に挿したナイフを取り出し糸を切ると頷き、カピィールの合図で鳴子を下ろす。じゃらんと静かな音を一度立てるだけだった。


   ■


「…突き当りまでは罠はない」


 先に進もうか迷っていたハチヤにユウが声をかける。


 おう、と陽気に返事を返すと安心して洞窟の奥へ進むが突き当たりで立ち止まり、振り返って仲間と顔を見合わせる。


「左右に分かれているな、どちらが本命だ?」


 カリローがユウのほうを見る。


「足跡は左の方が多い。僅かだけど右にも」


「では左に…」

「静かに」


 足元を調べてカリローに報告し、その内容を吟味し決断を下そうとすると、ユウが口元に人差し指をあて3人を見渡す。


 カリローは片眉をあげ、ハチヤとカピィールは両手で口を押さえてユウの動向を見守る。


「右から何か呻き声が聞こえる」


 そういわれて3人も耳を澄ませるが、特にこれといって聞こえてくる音はない。


「気のせいではないのか?」


「エリが村人がさらわれていると言ってた。ひょっとしたら監禁されている可能性がある」


 しばらく耳を澄ませてからカリローがユウに声をかけると、ユウがあごに手をやり一考し生存者の可能性を示唆する。

 無言の時間が続き、ユウは改めて3人の表情を確認する。


「…おいおい、さすがに人間一人を抱えてここまで来るとなると結構な労力だぞ?」


「いや待て、仮に監禁されていた場合、先に左を攻めて取り逃しが出れば人質にされかねん。右を一旦調べるか、いやリソースの消費もバカにならんしな、どうしたものか…」


「行こう、人がいる可能性があるなら助けるべきだ」


 カリローとカピィールの意見のぶつけ合いを見たハチヤが苛立ちをあらわにして強めの口調で言い切る。


「ふむ、ハチヤ。お前のそういうトコは嫌いじゃないな、行くか」


 カピィールはハチヤの背中をばんと叩くと右の通路へ進み、それに続くようにユウとカリローが続く。


 ハチヤは呆けたように3人の後姿を眺めて、一人でうんうんと頷き勝手に納得して3人を追った。


 4人がしばらく歩くと開けた空間に出る。ざっと見渡してみるが動くものは無さそうだった。


 ユウは3人を止めると一人で先行し空間の奥へ進む。


 彼女の姿が闇の奥に消えた頃に、くぐもった悲鳴のようなものが聞こえ、そして途絶える。


「見張りがいた」


 闇の奥から、気絶したゴブリンを引きずりながらユウが現れる。ゴブリンを足元に捨てると、さらに奥の方が気になるのか顔をそちらに向けたまま黙る。


「…奥に女性が一人、老人が一人、あと子供が一人いた」


 3人の視線に耐え切れなくなったのか、心の中で決心がついたのか、ユウは努めて淡々とした口調で闇の奥の状況を報告する。


「じゃあ、助けないと」


「衰弱が酷い。手持ちのポーションで足りるとは思えない」


 ハチヤが反射的に応答するが、ユウが視線を落として声のトーンを落として言葉を返す。


「見捨てるって言うのか?」


「待て、僕が見てこよう。3人に声はかけたのか?」


「パニックになるから声はかけていない」


 ユウを責めるような口調でハチヤが一歩踏み出すと、カリローがそれを押しとどめる。

 カリローは最低限の情報を確認すると、ユウの隣を通り過ぎ闇の奥へと消えた。


「それはどうする?」


「左側の巣穴に放り込んでやればいい。いい陽動になる」


「ふむ、たしかに怪我人が一番の敵だな。そこまで蛮族に恩情があるかは別として」


 カピィールはそれ呼ばわりしたゴブリンを縛り上げると、運びやすいようにしてから担ぎ上げた。


「そだ、ハチ。あなたもカリローに着いて行った方がいいかもしれない」


 カリローが闇の奥に消えてしばらく経ってから、ユウがハチヤに声をかける。


「かも?」


「あまり、見ていて気分のいいものではないから、判断は任せる」


 ハチヤは煮え切らないユウの発言に首をかしげると、ユウは精一杯言葉を選んで言葉を返した。


 彼女の言葉の裏には、衰弱という言葉以外にも3人への損傷があることを示唆していた。ハチヤはそれを正確に受け取ると、少し悩んだが神聖魔法でいくらかの助けになるのならと、カリローに続いて闇の奥に消える。


 カリローが闇の奥でみた3人の姿は想像以上に凄惨なものだった。


 いずれも身体の一部が欠損しており、放っておけば死ぬであろう事はすぐに判断できた。だからこそユウが衰弱という曖昧な表現をしたことに疑問を浮かべる。


 3人にはっきりした意識はなく、最低限の止血がされているだけだった。


「暖を取れれば少しはマシか」


 懐から香油を取り出すと木の精霊ドリアード風の精霊ジンの力を借りて簡単な焚き火を起こす。


 洞窟内は湿気ており火の精霊サラマンダーを呼び出すのは難しいための香油だった。いくらか冷えた身体が温まったのか3人の表情が安らいで見える。


「カリロー、俺も出来ることをやりたい」


 3人の惨状を確認し、それでも何とか意識を正常に踏みとどめハチヤがカリローに指示を請う。


「なら、彼らの痛みを和らげるような精神干渉を行う施術を行ってくれ。肉体の復元など荷が重かろう」


「分かった。彼らの意識は戻らないのかな?」


 ハチヤは神聖魔法を行使しながら3人の様子を見る。いくらか表情が安らいでいるのがせめてもの救いだが、それと同時に自分の実力のなさを痛感し歯噛みする。


「いまの”衰弱”を見る限りでは望み薄だな、レベル40もある高祭司殿の手にかかればあるいはといった所か。最低限の命を繋げるくらいなら我々でも可能だ」


 カリローは出来る処置は終わりだと告げると、ユウとカピィールの元へ戻ろうとする。ハチヤも出来ることを済ませると立ち上がりカリローの後を追った。


「ユウは何の前情報も無しにコレを見て、どうして平然としてられたのかな?」


「馬鹿め、あの仏頂面が我々にどうするか相談したのだぞ。一番戸惑っていたのはあの小娘だ」


 ハチヤがユウの在り方を糾弾するようにカリローに訊ねると、カリローは樫の杖でハチヤの兜をかつんと鳴らして苛立つように答えた。


「では、一旦こちらの入り口は閉ざしておこう。土の精霊ノームよ、隔てる壁を作れ、ハードロック」


 一行は通路まで戻ると、カリローの精霊魔法で右側の空間を土の壁で閉ざし、3人の要救助者を安全な場所に隔離した。


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