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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
冒険者の時代
38/63

蛮族と響きあう冒険者3

追記 4/7 修正

 そこは鬱蒼とした森林だった。

 枝葉で視界が遮られ、見通しも悪い。思った以上に酷い場所だ、それがナトゥーアの第一印象だった。それに加えてむせ返るような血の匂い、その正体が何なのかまでは考えない。


「しかし、依頼条件をよく呑んでくれたなー」

「あちらとしても渡りに舟といった様子だったよ。ただまぁ…」


 カリローはそこで一旦言葉を閉ざし、どう言ったものか考えあぐねた後ぼそりと。


「逆に目を付けられたかもしれん」


 ハチヤはカリローが顔色を悪くしながら呟くのに首を傾げる。冒険者として知名度が上がることはリスクもあるが、決して悪いことだけではない。レベルも飛躍的に成長しているし、あの遺跡の時みたいに実力不足が懸念材料になるとも思わない。


「静かに…」


 先頭を歩いていたユウが仲間の方に振り返り、口の前で指を押さえる仕草をする。そして視線をすっと逸らしてガサガサと茂みをかけわけて進む動物を注視する。


「この辺だねぇ」

「うん。罠の数が増えてるし…」

「念のため魔法で姿を隠すか?」

「やめたほうがいいかなー。それに今からじゃ遅い」

「まるで向こうにばれてるような物言いだな」


 ユウは小声で議論を交わす仲間を背に罠を1つ解除。

 発動すれば矢が飛んでくるシンプルなものだが、これまでの罠も含めて総じて殺意が高い。どうも罠をしかけた相手は命を奪うことを目的として、侵入者を報せることを考えてはいない。


「ん…と、アル。私達の居場所は把握できてる?」

「大体はな」


 この森林自体が地図化されてないため、絶賛作成中の地図をカリローが見せて現在地を指で指し示す。


「…」


 ユウは地図に目を落としたまま何も言わない。カリローはその仕草になんともいえない心地悪さを覚えた。彼女の行動に不気味なものを感じたのか、ハチヤもカピィールも固唾を飲んでその様子を見守る。


「…今日は戻ろう」

「理由は?」


 カリローはせっかく近くに目標がいると思われる場所まで来たのに手ぶらで帰るのは惜しいのか、ユウの発言に乗り気ではない。


「思ってたのと違う」


 ユウはカリローから地図をひったくると自前のペンで彼が作成した地図を添削し、ついでに罠のあった箇所に印を加えていく。カリローは視線でもって足りない言葉の説明を要求するのだが、彼女はそれに応えるつもりはなく、またこれ以上進む気を失っているようだった。


「力押しで攻めてくるとあたしは思ってたんだけど、罠の種類を見る限りもっと面倒な奴だよ。今回」


 それまで黙っていたナトゥーアがどこかから監視されていることをに気付く。そして聞こえるように小声ではなく平時と同じ大きさの声で話し始めた。

 その様子にハチヤがぎょっとして声のボリュームを抑えるようにジェスチャーするがそれを無視。


「たぶん、ある程度人数が減るまで姿は現さないんじゃないかなぁ」


 よく考えてみれば、人族の言葉を理解出来ていない可能性もある。ナトゥーアもそれを承知で煽り文句を周囲にばら撒く。当然のように反応はない。


「ふむ、ナト。その言い回しだと蛮族に見つかっているように聞こえるが、語弊ではないのか?」

「あってるよ?」


 地図の添削を終えたユウはペンをポーチにしまいながら、未だに小声での会話を続けるカピィールの疑問に答える。


「い、いるのか? どこかに?」

「ハチ、うるさい」


 ユウは大声で叫んで慌てふためくハチヤのすねをレッグガードで蹴る。


「元より金属鎧で着込んで歩くってだけでそれなりにやかましいのに、隠密行動なんて期待できるわけ無いでしょうに。さー帰ろ」


 ナトゥーアは立ち止まったままの仲間に振り返ると、呆れ顔で現状を指摘する。


「金属鎧…」

「原因はハチヤか!」

「お前もだろ!?」


 既に小声で話すことなど忘れて、ハチヤとカピィール大声で会話のやり取りを始める。次第にヒートアップしてお互いの体をぶつけ合いながらナトゥーアの後ろに続く。


「…確かに、集中力的にも限界だったようだな」

「アルも顔色悪いよ?」


 ユウはポーチから取り出したポーションをカリローに押し付けると、彼はそれを一気に飲み干す。


「すまない。僕も知らないうちに疲労がたまっていたようだ」

「ん、…どういたしまして?」

「しかし、どうして今引き返すんだ? もっと早いタイミング、それこそ蛮族に見つかったと分かった段階で戻る選択肢もあっただろう?」


 戻る道中、カリローはどうしても解せないユウの発言に何か深い事情があるのではないかと勘繰る。


「ん…」


 ユウはどう説明したものかと腕を組んで頭をひねる。二度三度首を傾けなおしてから、ようやく頭の中で整理がついたのか腕をほどいて地図を取り出す。


「罠が増えてきたのは言ったよね?」

「そうだな、ナトゥーアもあの辺りが怪しいと言っていたし、蛮族の拠点の近くだったんじゃないのか?」

「確かに怪しいんだけど、あそこは拠点から一番離れてる」


「言ってる意味が分からん」

「んと…拠点の近くに罠を張ると、日常生活に支障がでる」

「といっても、いまは平時でもないだろう」

「そうだね、でも仕掛けられた罠は決まった方向から攻撃されたように見せかけるものばかりだった」

「罠に引っかかった人族を誘導する意図があったと?」

「そんな感じ。帰ろうって提案したのはハチやアルの疲労もあるけど、サンプルが十分得られたから」


 ユウは地図に付けた罠のあった印から、1つずつ逃走先を指でなぞり、最後にはある一点に集約されることをカリローにみせると、試すように彼の顔を覗き込む。カリローはむむっとうなると、彼女から地図を受け取り、彼女の行動を真似るように地図を指でなぞり始めた。


「しかし、そうなると偵察は明日もか…」

「そうだね」


 カリローの声には疲労がにじみ出ていた。それほど悲観することでもないだろうとユウは笑った。


   ■


 人族の拠点へと帰るボウケンシャの背中を眺めながら、ゴブリンは胸をなでおろしていた。


 連日、戦い続けていたキシダンよりもずっと個体のレベルが高く、まともにぶつかりあうことを恐れていたからである。木陰に身を隠したまま彼らをやり過ごすとボウケンシャの通り道にあった罠を設置しなおしていく。これが彼に与えられた任務であり、唯一の取り得だった。


 ゴブリンという種族は力はなく、知能も低い、素早くもなければ身のこなしに優れているわけでもない。ないない尽くしの中で唯一優れているのが手先の器用さだ。


 彼はその器用さを生かし、チカラが物を言う蛮族社会では極めて稀なケースで高い地位を手に入れた。それがここいら一帯を治める蛮族のボスの配下、偵察部隊にしてトラップのスペシャリストという肩書きだ。


 チカラに勝るトロールやオーガが脇を固める中、ゴブリン種の自分は分不相応に思えたのだが、今のボスはそんなことを歯牙にもかけない。後ろ指を差して笑うものがいれば卑怯者と断罪する。


 ボスは彼のアコガレだった。


 そして最近になってここいら一帯に人族の襲撃が始まり、ボスに従わない同族は狩られていった。誰もがざまあ見ろと思う中、ボスは奴らに助け舟を差し伸べた。避難先を設け、来るものを拒まず受け入れる。日に日にその数は増しており、今では彼が見たことのない大集団と化している。

 現在、彼はそれを人族に悟られないようにこうやって罠を仕掛けて回っていた。おいそれと領域に足を踏み入れようものなら、彼の罠がボスのいる主力部隊へと誘い込み、誰一人帰しはしない。

 連日、キシダンが罠にかかっては設置しなおすことが日課となっていたのだが、今日のはオカシナ連中だった。今まで見破られなかった罠をあっさり看破し、こうして解除もしている。その手際も見事なもので、罠を設置しなおすよりも壊された仕掛けを再活用したほうが効率がいいくらいだった。

人族もなかなか侮れない連中がいる。彼は森の中へ姿を消すボウケンシャの姿を体に刻み込むようにじっと睨みつけた。


私はどちらかというと判官びいきするタイプです。

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