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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
はじまりの冒険者
3/63

出会いの村3

追記 4/1 修正

 翌日の午前中にエリは再び酒場を訪れると、中で待っていたのはカリローとハチヤだけで、ドワーフと人間の女の子の姿は無かった。


「すみません、あのハチヤさん」


 エリはひとまず一番人当たりのよさそうなハチヤに声をかけてみる。


「ああ、エリさんだよな。どうだった、ゴブリン退治は依頼してくれそう?」


「はい、ただ報酬の方が収穫前の時期な事もあってそれほど出せるわけでは…」


 ハチヤからの応答とは裏腹にエリの表情は暗く、言葉もだんだんと小さくなっていく。


 その表情を見ていたカリローは椅子に背もたれたままハチヤの尻を蹴る。


「ハチヤ、ユウを連れて村長のところへ直接行って来い」


「え、直接行くの?」


「貴族の生まれの癖に交渉という言葉の意味も知らんのか」


 蹴られたことに怒りもせず、けなされても不満の一つも漏らさない、ハチヤはそういう性格だった。そしてカリローもそれに甘えている節があると考えて若干の自己嫌悪に陥る。


「カリロー、大体の情報は聞き出した…エリ。報酬は出してくれそうだった?」


 丁度外から帰ってきたユウとカピィールが、カリローにあらかじめ指示された内容を伝える途中でエリの姿に気付き、依頼の状況を確認する。


「…そう。じゃあ直接行かないと…案内、して?」


 エリが無言のまま視線を逸らしたので、ユウはエリの手を取り彼女の瞳を覗き込む。


 エリ自身困惑気味だったが自分より幼そうなユウの視線に耐え切れなくなって静かに頷いた。


「支度はこちらで済ませておく。適当に済ませて来い」


 カリローは酒場の外へ出て行く3人に不機嫌そうに言葉を投げかけた。


   ■


「村長ってどんなひとなんだ?」


「ええと、そうですね。いい人ではあると思うんですけど」


「…保守的で余所者を避ける傾向。よくあるパターン」


 これが村長の家に向かう道中の会話だった。


 誰がどう言って結果、雰囲気がどうなったか等、推して知るべしといったところだ。


   ■


「一人、200Gを要求する」


 挨拶をする前にユウは出会いがしらに村長にそう言ってのけた。


 ユウ以外の皆がフリーズしたが最初に復帰したのは村長だった。


「えーとですね。我々も確かに困っていますし人命にも被害が出ておりますが」


「今日死ぬのと、税を支払えきれずにこの冬に死ぬのとどちらがいい?」


 極論を出して再度村長を黙らせる。


 ユウは笑顔を浮かべたまま固まる村長を無愛想な表情で見ながらハチヤの足元を踏む。


 痛みで復帰したハチヤが慌ててユウを見るが後ろからでは表情を読み取れない。昨日の会話を経験するにユウは本当に最低限のことしかしない奴だ。ハチヤはユウに何かを期待されているのだ。


「あっと、えーっと、ユウ。俺達も駆け出しなわけだし。そーんな額を請求するわけにもいかないだろう。元々の報酬が…いくらですっけ?」


「200Gです」


「さすがに4倍は無理だろ。それにエリさんも収穫前でお金がない時期だって」


 ユウの肩に手を置いて無理を言いすぎだと一気にまくし立てる。それに乗っかるようにエリと村長がユウに視線をあわせてうんうんと頷く。


「…ならコネクションを差し出してもらう」


 一瞬だけハチヤに微笑むと、すぐに無表情に戻って要求する。


 具体的なものではなくコネクション、村長は逆に悩む。どのコネクションが目の前の少女にとって価値のあるものなのかが分からない。ましてや額は差額600G分。三ヶ月は十分に遊んで暮らせるだけの金額だ。その価値ともなると途方もつかない。


「…ペータル公国」

「そ、そうだ。俺達実はペータル公国で冒険者やる予定なんだよ。知り合いの冒険者囲ってる店主の知り合いとか居ないかなー。仮に紹介状とか貰えると今後が俺達楽になるよなぁ、ユウ!」


 ぼそっと呟いたユウの台詞を引き継ぐとハチヤは「どうにでもなれ」とハチヤはユウの頭をがしがしと撫で回しながら言った。

 そして台詞の最後にはユウの頭を引き寄せて最大限の笑顔で村長を見る。


「そ、そういうことでしたらうちで作っているラム酒を卸している冒険者の宿があります。紹介状を書けばよろしいのでしょうか?」


「ああ、0から探すのとコネがあるのとじゃ雲泥の差だからな。すっげー助かる」


 ハチヤの笑顔に村長は胸をなでおろす。対してユウは村長に見えないよう背中でサムズアップいわゆるグッジョブとハチヤにハンドシグナルを送る。

 ハチヤとしては交渉ってこんな一方的な脅しでよかったんだっけとかもう頭の中はぐちゃぐちゃのまま笑顔を浮かべきるしかなかった。


 こうして依頼は正式に受領できた。


 報酬は200Gと冒険者の店への紹介状。


 憔悴しきった村長を後にして再び酒場へと戻る道中にユウが「あ」と声を出す。


 ハチヤとエリはまだ何かあるのかと思わず身体をこわばらせる。


「…カピーがここのラム酒をすごく気に入っていた。商品にならないようなものがあれば一本譲って欲しい。エリでもそのくらいは出来そう?」


「は、はい。そのくらいなら融通してもらえると思います」


「よかった。カピィはお金じゃ動かない面倒な性格をしている。酒一本で解決する分単純かもしれないけど」


 相変わらずの無表情で冗談なのか本当なのか分かりづらい口調で淡々と話すが、依頼をもちかけたエリも出来ることが見つかっていくらか気を楽にしていた。


 ハチヤはユウのそんな言動を見ながらもう一度一瞬だけみせた彼女の微笑を思い出していた。


   ■


「上出来だな」


「ハチ、グッジョブ」


 エリと別れて店に戻った二人に対して完全に上から目線でカリローは報酬の内容に評価を下した。そしてユウは無表情のままハチヤの後ろから言った。


 これにはハチヤも目を丸くした。褒められるとはまるで思っていなかったからだ。


「けど、ユウは最初800Gをぶんどろうとしたんだ。完全に負け戦だったと思うんだけど」


「ユウは単にハッタリをかましただけだ。どっちが上の立場かはっきりさせることで心象的にも我々が相場よりも安値で受けたと村長も胸をなでおろしていることだろう。なによりせいぜい400Gがいいところだ、好印象がメインで冒険者の宿への紹介状はオマケだな。そういう意味では予想外の戦果という奴だよ」


 ハチヤは不完全燃料気味に愚痴ると、カリローは外套を着込んで手荷物をまとめながら悠長にそういう。


「…じゃあ準備してくる」


 ユウはまだ不服そうなハチヤを置いて二階の部屋へと戻っていった。


「ハチヤ、お前も支度して来い。準備が出来たら行くぞ」


「ん、どこに?」


「奴らの巣穴だ。ここから徒歩で一時間すこし歩くが森の奥の洞窟に居るらしい」


「そんなのどこで聞いてきたんだよ?」


「先に準備して来い。瑣末さまつなことなど捨て置け、僕とドワーフをいつまでも二人にしておくと喧嘩別れするからな」


 カピィールとハチヤの問答にカリローが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


 ハチヤは疑問を抱えたまま言われたとおり準備を整えに二階に上がる。


「おー、そだ。カピー。ユウがここのラム酒をボトルで貰えるよう交渉してたぞ、喜べ」

「とっとと行け!」


 ハチヤが忘れ物といった感じで階段から暢気そうに声をかけるとカリローが何故か異常に怒るが、カピィールはハチヤの言葉に目を輝かせ、カリローのことなどどうでもよくなっていたので特に何も言わなかった。


   ■


 村はずれの先端でカリローが地図を見ながら気難しげに口を曲げていると最初にユウがやって来た。


 革製の胸当てで左半分を覆い、膝まであるデニム製のズボンを革のベルトで関節や縫い目を覆ったものを身に着けており、あとはゴブリン騒動と同様にナックルガードとレッグガード、そしてサンダルという出で立ちだった。何故か腹部は丸出しのままで普段着の時より僅かに露出が増えてるのではとカリローは悩んだ。


「年頃の女の子より身支度のかかる男がいるとはね」


「…同感」


 ユウは近くの木に寄りかかると手荷物を地面に置いて村の方を見る。


 鉄製のフェイスガードを上げ下げ出来る兜をかぶり、チェインメイルで上半身、下半身を覆い、鉄製のガントレットと革製の半長靴を履き、腰に剣をぶら下げ背中には大きな革の大盾を背負ったハチヤががしゃんがしゃんと音をたてながら走ってきている。


 そしてそのさらに後ろに何の意味があるのか角の生えた鉄のリングと革で構成された兜をかぶり、上半身をリングメイルで覆い、下半身は革製のズボン、両手は金属板を貼り付けたミトン、足元から膝まで覆う箇所も同様に金属板を貼り付けたレギンスを履いて獲物の斧槍を右肩にあずけえっちらほっちらと走っているのがカピィール。


「貴様ら、遅いぞ!」


 そして樫で出来た杖と木綿でできた上着にズボン、そして革製の編上靴へんじょうかを履きその上からリネン製の外套を羽織ったカリローが二人を怒鳴る。既に日は半分のぼり午前と呼ぶには苦しい時間帯になっていた。


   ■


「…みんな暑くない?」


 街道を外れ森の中を進軍中の重装備の二人と外套を羽織ったエルフにユウは辟易しながら尋ねる。


「いや、暑いは暑いけど。ユウはその格好どうなのよ?」

「ひぅ!」


 ハチヤがユウのへそまわりを触ろうとすると甲高い声を上げてユウが飛びのいた。


 普段の無表情とは違い顔を上気させ若干涙目になっている。


 ハチヤはその表情に嗜虐心がわいたのかさらに追い討ちをかけようとすると、ユウに割と本気なミドルキックをもらってうずくまった。


「…金属アレルギーだから」


 カリローとカピィールから視線を向けられ、うっと言葉を詰まらせると涙声でぼそり。


「その…触らないで」


 うずくまったままのハチヤに触れようにも、全身金属鎧まみれのハチヤに触れられず、あうあうしながらユウが目一杯の謝罪を込めて言葉を続ける。


「「まぁハチヤが悪い」」


 樫の木で兜をこつり、槍の柄でハチヤの背中をごつり、エルフとドワーフにしては息の合ったタイミングでそれぞれ言い放った。

 そしてハチヤはひたすらただ泣いた。


衣服の説明とか楽しいけど難しいですよね。

特に専門用語系。鎧ってなにさ?

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