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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
はじまりの冒険者
29/63

旅路の果てに1

追記 4/7 修正

 本格的な冬の到来を迎え、早朝だとすれ違う人も大分減った、自分の足音だけが響く静かな街中を走りながら、ここに来た頃の喧騒と比較しながらユウは思う。

 冒険者としての稼ぎが大きくなっても、ユウは相変わらず朝刊配達アルバイトを続けている。

 抱えた残りの新聞も大分減ったしもうすぐおしまいだろう。走る足を止めると、握った拳をほどいてほうと息を吐いて冷たくなった手を温める。白い吐息が手の中で舞って街中へ散っていく。


(帰ったら暖かいものでも食べよう)


 そう考えたら急にお腹がすいた、とっとと残りを片付けようと視線を前に向けた時、違和感を覚える。


「そう身構えないで下さい。今日は君が目的ではありません」


 先程まではまったく気配がなかったはずなのに、ユウの前に唐突に目の前に端正な顔をした長い黒髪で黒尽くめの服装、そして赤い目をした女性が互いに声の触れ合える距離にいた。


「フギンの方がこっぴどくやられて以来、私は大忙しなんです。元凶に文句の一つも言いたくなりまして、神託のついでに立ち寄らせてもらいました」


 女性は警戒を解かないユウの様子に皮肉めいた口調で語る


「君も今は随分と充実した生活を送っているようですね」

「…どうも」

「この間、用意した勇者候補を倒したのは君?」

「勇者候補?」


「質問を質問で返すのは感心しませんね。でも神様だから寛容な精神で許してあげましょう。ヌァダというトロール。神話になぞり、片腕をもがれることで人ならざる者…神に比肩する勇者となる予定の子だったのだけれど、どういうわけか殺されてしまいました。そのへんのモブに」


 完全に八つ当たりだとユウは彼女の笑顔に辟易する。


「…そのへんのモブに」


 彼女は僅かに怒気をはらんでいる。相変わらず超越者は苦手だ、すべてを知って、すべてを見透かしているにも関わらず、あえて言葉を引きずり出そうとする。


「倒したのは私。けれど貴方達相手の力を使ってはいないよ?」

「やはり君ですか。でもおかげで上司にはいい報告が出来そうです」

「よかったね」


 ユウは彼女の笑顔につられて曖昧な表情で返事をする。


「君は皮肉という言葉を覚えた方がいいですよ」

「うん、覚えておく」


 他ならぬ超越者からの忠告だ。ユウは素直に頷いた。


「歴代の中でも君は特に優秀だけれど、同世代にいる他の誰よりも敵意はないですね」

「恨む理由がない」


 困った風に笑う彼女にユウは即答する。


「君のお父さんは私達の眷属の手にかかりました」

「前に聞いたよ?」


 最初に聞いたのは祖父の家だった。二度目は戦場、転機があるたびに現れては言い残していく。最初は衝撃だったが、そもそも顔すら覚えていない相手の復讐など不毛だ。


「ふぅ、噂以上です。どうしたら嫌ってくれます?」

「私に用事は無かったんじゃないの?」


 相変わらず話好きの超越者だとユウは思う。


「そうでした。こちら側の勇者候補が少々歪んでしまったので矯正してたんです」

「いや、聞いてない」

「中間管理職ゆえ、愚痴る相手がいないんです。同僚フギンは貴方が倒してしまって、あと1000年は戻ってこられそうにありませんし」

「ごめんなさい」

「謝るくらいなら素直に殺されてください」

「それは断る」


 さらりと物騒なことをいう女性にユウは思わず笑ってしまう。その様子をみて得心したのか彼女はユウに背を向けた。


「では、失礼しますね。私に殺されるまでご健勝をお祈りしております」


「祈られる立場から言われると思わなかった」

「ふふ、君のそういう反応は嫌いじゃないです」


 彼女は口許を覆い笑い声を響かせる。

 ユウがその様子に目を丸くしていると、彼女はそのまま朝霧の中に消えていった。


「はぁ…、めんどう」


 誰とはなしに呟くと、すっかり冷えたからだに鞭を打ってユウは再び走り始めた。


すこしマスターシーンが続きます。

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