表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
はじまりの冒険者
22/63

ひっさつわざ1

紹介回です。

中身はありません。申し訳ない。


追記 4/7 修正

 冒険者の宿「踊る翠羽の妖精亭」はペータル公国の南東部に位置しており、レベル25~35までのいわゆる駆け出し冒険者から中級冒険者を抱え持っており、依頼もまたそれに見合った内容のものが多い。


「店長、僕は中級冒険者が解決できる難易度の依頼しか持ち込まないと聞いていたんだが?」

「名指しで依頼されたんだ、文句いうな」

鷲獅子グリフォン退治なんて荷が重い。お抱えのエースパーティに頼めばいいだろう」


 カリローは依頼書をカウンター越しに座っている店長ことスルガにつき返す。


「だからそのエースパーティに頼んでんだろうが」

「は?」

「あ?」


 押し付けられた依頼書を片手に頭をかくスルガがぼやくと、思わずカリローが聞き返し、スルガもまた彼の反応に思わず間抜けな声を出した。

 まもなく昼食時を迎える「踊る翠羽の妖精亭」で、ただ一箇所が時が止まったが如く二人が無言のまま気まずそうに見詰め合う。幸いにも第三者の介入で大した時間の浪費もなくこの問題も解決する。


「カリローか。珍しいな、この時間はいつも書庫にいるだろうに」


 鍛冶ギルドで一仕事終えたカピィールがカウンターに座る銀髪エルフの後姿を見つけて声をかける。


「ん、ああ…店長に呼び出されたんだ。せっかくの読書の時間が台無しだよ」


 カピィールはカリローの隣に座り、給仕に飲み物だけを注文する。カリローはその様子を横目に憩いの時間に思いをはせながらため息をついた。


「ほう、お前が呼び出されるということは新しい依頼か?」


 カピィールは目の前の読書狂いビブリオマニアにうんざりしながら当てずっぽうに呼び出された理由を口にすると、カリローはオイルの切れた機械のようにぎこちなく首をこちらに向ける。


「どうした? 寝違えでもしたのか?」

「カピィール。君は僕達のパーティを客観的に見てどう思う?」

「おかしなことを聞く奴だな?」

「いいから」

「そうだな…」


 カピィールは他の4人のメンバーの顔を思い浮かべながら答える。


 目の前にいるカリローは精霊魔法の使い手として申し分のない実力があるし、レベル38に見合った経験と知識を持ち合わせている。


 ハチヤという人間の男はレベル35のお調子者だが、剣術と神聖魔法の扱いに長けている。何より貴族の生まれということもあって知識がある。世事に疎い自分にはありがたい存在だ。


 ナトゥーアという女性冒険者はレベル37の銃使いガンナーだ。戦闘面ではレアな雷の精霊ヴォルトの精霊魔法を行使するし、日常では人懐っこい性格でパーティで意見を取りまとめるのも上手い。


 ユウという人間の少女はレベルが不明で強さを測る術がない。しかし身のこなしと格闘術は傍から見ても舌を巻く、その上やたら勘が鋭い。現に何度もパーティの危機を救っていた。


 カピィール自身もレベル36の戦士だ。少しだけ使える神聖魔法と頑丈さだけが取り得とはいえ、前線で体を張る分には今のパーティで求められている以上の実力があると自負している。


「名前こそ売れてないが中の上くらいの位置にはいると思う」

「では、上級冒険者だとは思うか?」

「あ? 上級冒険者ゆうしゃさまか、それはないな。平均レベル40以上の6人パーティなんて公国にも片手で数えられる程度だろ」


 真顔で冗談をいうカリローに思わず笑う。上級冒険者の定義を忘れたのかと、カピィールは柄にもなく懇切丁寧に説明してしまった。


「店長、そういう訳だから鷲獅子グリフォン討伐は無かったことにしてくれ」

鷲獅子グリフォン? なんの話だ?」

「依頼されたんだよ。鷲獅子グリフォン、レベル40の中型モンスターを退治してくれと」


 突拍子もないカリローの言葉にカピィールは声を失う。中型モンスターは人族に比べて基礎能力が段違いであるため、レベル詐欺の代表という見解が冒険者の持論セオリーらしい。


「…お前ら大番狂わせジャイアントキリングって影で呼ばれてんの知ってるだろ?」


 だから大物を狩るのは得意だろ、口にせずとも店長の表情がそう語っていた。


「さてはこの前の依頼のことも何か知っていたな?」

「何のことかな?」


 カリローの問いにスルガはあくまでシラを切るつもりらしかった。

 今思えば、前回の依頼は不可解なことが多すぎた。結局報酬は1人1000G、つまり当初の5倍支払われたし、通り魔が退治されたことも最終的に一般へ公開されることもなかった。

 大方、支払われた報酬に口止め料が含まれているのだろうと薄々は察していたが、関係者は誰もそれを明言する様子はない。

 今回の依頼も店長の様子を見る限り、前回の件が尾を引いているようだった。そんなカリローの胸中を知ってか知らずか店長は依頼書を弄びながら、彼の非難の視線を飄々(ひょうひょう)と受け流す。


 <大番狂わせジャイアントキリング


 言葉通り、店長はカリロー達をカタログスペック以上に買っているらしかった。実際、カリロー達がこれまでこなしてきた3つの依頼も結果だけ見ればすべて実力以上の成果をたたき出している。

 冷静になって自分達のことを鑑みれば、カリローはそういわれるのも仕方ないと感じ納得しかけたところで、その報いがこの状況を呼んでいるのだと納得する自分を戒めた。


「…ちなみに僕達が受けなかった場合はどうなる?」

「そりゃアレよ、俺の首が飛ぶ。物理的に」


 店長はジェスチャーを交えて、胴体と首が離れる仕草を笑みを浮かべたままこなす。

 ひょうきんそうに答えはしたが、目は笑っていなかった。どうやらあちらも大分参っているようだ。


「はぁ…依頼主は誰なんだい? 確認するのを忘れていたよ」

「ドミクト=D=ぺタール。公王継承権、第三位におわす方だよ」


(つまり前回の依頼、通り魔捕縛の報復ということか)


 カリローは隣で美味そうに麦酒を煽り、髭に泡をつけた仲間を見ると、給仕を掴まえて「彼と同じものを」と手早く注文を済ませた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ