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レベル0の冒険者  作者: 須賀いるか
はじまりの冒険者
20/63

シティアドベンチャー6(2)

追記 4/7 修正

 依頼者とのアポを取り合わせると、カリロー達は久々にパーティ全員を揃えて依頼主の商工会、グラチャニンと呼ばれている場所へと足を向けた。


「久々に集まるが皆何をしていた?」


 先導するカリローの背中を見ながらカピィールが1週間ぶりに顔を付き合わせたパーティの面々に声をかける。


「アルバイト」

「ユウから剣術指南。あと防具の発注」

「私は新品の狙撃銃を探して町中を駆け巡ってたー」


 ユウ、ハチヤ、ナトゥーアの順に反応が返ってくる。カリローはこの話題に参加するつもりは無いようで振り向く様子すらみせない。


「カピーは鍛冶ギルドに入り浸ってたよなー」

「お前の防具を作ってたんだよ」


 ハチヤが不思議そうな口調で声をかけてくるので、カピィールは少し不機嫌そうに返答する。


「そうだっけ?」

「鋼鉄製の鎧なんぞ、そもそもの火力が足りなくて素材作りが面倒だったぞ」


「…炉の設備にもよるが、精霊魔法の使い手がいないと超高温での作業は難しいだろうからね」


 とぼけたように空を仰ぐハチヤにカピィールが作業手順の面倒さを思い出しながらぼやくが、それでも彼の苦労を一欠けらも理解していないハチヤにカリローが思わず口添えする。


「よく分かってんじゃねーか、カリロー」


 思わぬ援護射撃に気をよくしたカピィールがカリローの背中をどんと押すと、カリローも専門家からお墨付きを貰ったことがまんざらでもないのか、その行動に悪態こそつくものの、珍しく笑みを浮かべた。


「そういうカリローさんは自分のお家購入したんでしょ?」

「家というか書庫だな。寝泊りは相変わらず「踊る翠羽の妖精亭」にお世話になっているよ?」


 ナトゥーアがカリローの隣に立って肘で横腹をつつくと、彼はあごに手をやって答えた。


「…引き篭もり」

「だよなー、カリローの姿、酒場の方じゃほとんど見なかったしな」


 カリローの返答にユウが難癖をつけると、ハチヤがそれに乗っかって責めたてた。


「し、しっかしまぁ、あれだけ大金稼いだわりに、よく素直にみんな依頼オーケーしたよ…ねぇ?」


 二人から責めたてられて、見る見るうちに機嫌を悪くしていくカリローをみたナトゥーアが、カリローの目を見ながら慌てて次の話題を振った。


「蔵書を揃えるのに随分お金を使ってしまってね、実は所持金が心許ない」


 ナトゥーアの視線に耐えかねたカリローは、先程までの仕打ちを不問にすると、かわりに肩をすくめて現状を語る。


「俺も武器防具新調して上手いもん食ってたら、素寒貧すかんぴんだな」

「皆、金欠なのね」


 新しい狙撃銃の購入で懐の寂しくなったナトゥーアは深く同意しながらも、仲間の金遣いの荒さに呆れたようにため息をついた。


「ユウは? 金使った素振り無かったけど?」

「ポーションとハイポーション、あとエリクサー買い込んだからお金は無いよ?」


 お金が無いとぼやくカリローとナトゥーアを見ながら首を傾げるユウにハチヤが尋ねると、彼女は瞬きを何度かさせた後、当然のようにお金が無いことを宣言した。


 ポーションやハイポーションであれば100G程度の予算で収まるだろうが、瞬時にどんな大怪我を治してしまうエリクサーともなると価格は100倍に跳ね上がる。「エリクサー」という単語一つで4人共、ユウの所持金の無さを理解した。


「見事に回復薬ばっかだな?」


 前回のクエストで大怪我を負ったものの、神聖魔法によって傷を癒した身としては、大金をはたいてまで回復薬を買う意味を理解出来ないとカピィールがユウを視線で責める。


「…神聖魔法の恩恵を受けられない体質か。薬品の方は効果があるんだな」

「神様が…っと、今のが関与してない、この世界に元々…っと、別の神様が造った精霊や法則で作られた物だから問題ない」


 カピィールの疑問にカリローがユウに代わって答え、さらにわいた疑問を口にすると、ユウは説明を難しそうにたどたどしく言葉をつむぐ。


「今の神様?」

「神様なんて今も昔もないだろ?」

「この世界つくったのが神様じゃないの?」

「ん…。え…と…、カピィはお金使った?」


 3人からの追撃を無理に誤魔化すようにユウがカピィールに話題を振る。カリローがなにか物言いたげそうに口を開くがハチヤに肘でつつかれると、その口を閉じた。


「オレも自分用に炉の作成依頼を行ったから懐の方は寂しいな」


 自然と仲間4人の視線がカピィールに集まったが、片眉をあげてユウを見やった後、破願してユウの頭を揺さぶりながら笑い声をあげた。


「みんな金遣い荒ぇ」

「お金を持ってあの世には行けないんだよ?」


 ハチヤのぼやきにナトゥーアが茶化して笑った。


   ■


「君たちが「踊る翠羽の妖精亭」から派遣された冒険者かい?」


 目的地に着くと3階建ての商館の前に立つ男から声がかかった。


「そうだ。徽章もここに」


 カリローが懐から「踊る翠羽の妖精亭」の妖精の姿が刻まれた手のひらサイズのメダルを相手に渡す。


「なるほど、スルガさんのトコなら問題なく任せられるだろう。奥へ案内するよ」


 相手はそのメダルを一目見ると、すぐにカリローに徽章を返し商館の中へと導く。


「わりとフレンドリーな対応されてるね」

「ごろつきと対して変わらんからなぁ。店長が積み上げてきた信頼に感謝しておくか」


 ナトゥーアはカリローに続いてハチヤとユウが商館へ入るのを見ながらカピィールに耳打ちすると、カピィールも小声で素直な感想を述べた。

 案内されるがままに商館の中を進んでいくと、やがて20人は楽に入れそうな広さの部屋に通される。男はユウたちが部屋の中に入るのを確認すると、一礼して部屋を出て行った。


 互いに顔を見合わせながら無人の部屋で待たされること5分、唐突に部屋の扉が開いた。


「おれがここいらを仕切ってるタカシ=エクチェンブローカーだ」


 後ろに秘書と思われる男を引き連れて小柄で無精ひげを伸ばしたままの初老を迎えた男が早足で部屋の中に入ってくる。無精ひげとは裏腹に、身なりは上等で糊の利いた黒いスーツを着ており、そのちぐはぐさがどこか胡散臭い雰囲気をかもし出していた。


「依頼の確認だが通り魔の退治ということでいいのかな?」


 タカシが部屋の中央に置かれたソファーに座ると同時に、それまで部屋に飾ってあった絵画とにらめっこをしていたカリローが突っ立ったまま質問する。


「まぁ待て。おれも娯楽に飢えてる身だ。すこし世間話でもしようじゃないか」


 タカシは立ったままの5人を見渡した後、向かい側のソファーを指差しながらにやりと笑う。

 真っ先にユウがソファーの端っこに腰を落とした。ソファー自体は3人がけのため座れるのは残り二人だが、そう考えてカリローが仲間を見渡すとカピィールとナトゥーアが首を振って拒否の態度を示す。


「…例えば先の件、『金剛石の災害』ディザスターを葬った連中が誰だとかな」


 カリローが長居することが無い旨を口にしようとする瞬間を狙って、タカシは先んじて口を開いた。そしてにやにや笑いながらソファーに座ったユウに視線を寄せる。

 カリローはため息をつくと、ハチヤを指差し連れ立ってユウの隣に座った。


「僕らが行ったときには既にこと切れていたよ。面白い話はできないな」


 試すような視線にストレスを感じながら、カリローはタカシの問いかけに世間一般に公表した内容うそを元に答える。


「現場の近くに血まみれの衣服が投棄されていたんだが、そいつについては何か知らないか?」

「初耳…っずあ!」

「それだったら私のもの。証拠を持ち帰る時に頭をぶった切ったから返り血を浴びた」


 関係ないと言い張るカリローに構わずタカシは話を続け、カリローがさらにとぼけようとするのを隣に座っていたユウが彼の手の甲をひねって中断。思わず声を上げたカリローに構わず、ユウは涼しい顔で事実を答えた。


「よ、予備の服があってよかったよな」

「ユウちゃんの一張羅はオシャカになっちゃったもんねー」


 妙な方向に転がっていく会話に慌ててカピィールとナトゥーアがユウの言葉に相づちを打つ。


「…、お嬢ちゃんがやったのか。男共は随分と頼りないようだな」

「同感」


 タカシがカリロー、ハチヤ、カピィールと視線を移した後、少し考えてからユウを意外そうな表情で褒めると、またも彼女は表情一つ変えず涼しい顔で答えた。


「なるほど、随分と頭の回る連中を抱えているな、カリロー=アルチュリューさん」


 しばらくの間、ユウを観察した後、得心がいったようにタカシはカリローに話しかけた。


「制御できない仲間を優秀だとはとても思えないよ」


 カリローはこの男には大体がばれているんだろうなと心の中で舌打ちをしつつ、笑顔で声を返す。


「さて…場も暖まったところで、依頼の件だ。詳しく話そう」


 自分の膝の上で肘をついて手を組み、その上にあごを乗せると、タカシはその表情を厳しいものに変える。部屋の温度がぐっと下がるのを感じてカリローは表情を引き締めた。


「通り魔事件自体は去年から始まっている」

「うそ…」


 その一言にナトゥーアが思わず声を漏らした。ほんの一ヶ月前にやって来た4人に比べて、長い間この街に住んでいた身としてその情報は驚くには十分だった。


「よく隠蔽できたな」

「金さえあれば大抵のことは出来る」


 ハチヤは褒め言葉とも皮肉ともとれる声色で感想を言うと、タカシはその拙い煽りようを鼻で笑う。


「頻度は月に1度程度だった。だが今月に入って加速度的に被害件数が増大している」

「全部同一人物なのか?」

「突剣による刺突。傷口はほぼ似たようなものばかりでな、まず間違いないだろう」


 カリローの問いにタカシは淀みなく答える。


「被害者は、被害者はいったいどの層なんだ?」


 ハチヤが1年にも渡って街の人々に危害を与え続けている通り魔に憤慨して声を荒げる。


「最初の頃は一般人、主に成人男子が巻き込まれていたが、ここ最近はもっぱら衛士が狙われている。こちらも私兵を出したが一人きりのところを狙うらしく、空振り続きで参っている」

「被害者は常に1人きりのところを狙われているのか?」

「そうだ、例外は無い」


 カリローが確認するように「1人きり」を強調して尋ねるとタカシが強張ったままの表情で断言した。


「死者は?」

「これまでに3人。いずれもレベル33に到達した熟練の衛士ばかりだ」


 カリローは回答内容、死者が出ていることに困惑し、口元を右手で覆う。事前情報からそれほどの大事ではないと踏んでいただけに危険度がぐっと上がった依頼を受けるか諮詢しじゅんする。


「…相手の姿は?」


 ユウは以前の世間話が嘘でなかったことの方に驚きながら、沈黙したままのカリローに代わって質問を続ける。


「相手はフードとマントで全身を覆っていてな、大雑把な情報しかない。分かるのは精々、背丈は160センチ、やや小柄で華奢な体格らしいことくらいか」

「らしい?」


 これまで断言してきた言葉尻が急に曖昧なものに変わったことにナトゥーアが引っかかりを覚えて反芻する。


「先程も言ったとおり被害者は1人きりのところを狙われていてな、証言を得るには被害者本人からしかないわけだが、殺されるかもしれない状況で相手のことをじっくり観察するという発想はせんだろう?」


 ナトゥーアは肩をすくめると、タカシの言い分に納得したように首を縦に振った。


「要するにはっきりと目撃した人間はいないということでいいかな?」


 カリローは口元を覆っていた右手を膝の上に戻すと、通り魔の正体がまるで掴めていない事を確認した。


「そうだ。そして通り魔は生け捕りが好ましい」


 再び断言するタカシを見て、カリローは依頼を降りるかどうかを考える。

 レベル33の戦士が殺される程の相手。1人きりの時以外は遭遇できない。1年に渡りその姿を確認したものはいない。さらに生け捕りとなると難易度は高い。


「報酬の方だが1000Gしか出せなくてすまないな」


 沈黙したままのカリローを見てタカシが声をかける。相手もこの依頼が報酬と釣り合わないことを自覚している。であれば、報酬は他にあるのだろう。カリローは腹積もりを決めた。


「構わないよ。金額の方は少ないがグラチャニン商工会とのコネクションは頂けるのだろう?」

「そうだな。…老婆心からだが、そういうものははっきりと口に出すものじゃない」


 依頼を受ける。そう決めたカリローが軽口をたたくと、タカシは僅かに頬を緩め彼に皮肉を言った。


   ■


「タカシはどうして嘘をついてたんだろうね?」


 商館からの帰り道、「踊る翠羽の妖精亭」までもう少しというところでユウはカリローの袖を引っ張って足を止めさせると、心底不思議そうにカリローに問いかけた。


「嘘?」

「通り魔の正体を知ってた」


 鸚鵡返しのように問い返すと、ユウはあっけらかんにそう答えた。


「んじゃ、戻って聞いてみるか?」


 真に受けたハチヤが間抜けな提案をする。


「阿呆が。素直に話す訳が無いだろう。それにユウ、君が言っているのは憶測だろう?」

「そうだけど?」


 「何か文句でもあるの?」と言わんばかりの表情で見つめてくるユウにカリローは頭を悩ませる。ユウの言葉通りに疑った目で見るなら、あの男が何か隠している素振りはあった。だが、それを聞き出せば追加報酬は無くなることも予想は出来た。


「根拠もなしに依頼者を疑うような発言はよしてくれ」

「分かった」


 意外にもユウはあっさりと引き下がってくれた。他の3人も不満こそ隠さないもののカリローの指示には従う意思を示すように口々に「はーい」「そうだぞー」「任せた」と言葉をくれる。


「とりあえず、事件のあった場所を調べてみるか」


 先程のやり取りの後、通り魔事件があった場所をメモしたこの街の地図を手渡されている。グラチャニン商工会の領分で無い場所も混じっているが、その辺りの問題は向こう側で解決してくれるらしい。


「僕とナトゥーア。ハチヤとユウ、カピィールで二手に分かれよう」

「期限はないし別に一緒に行動しても問題ないんじゃない?」


 ナトゥーアが戦力分散させることが下策だと仄めかすように反論。


「現場の保存状況は期待できない。なるべく鮮度の高いうちに調査をしておきたいのさ」


 カリローは前提条件である時間制限が無いということが誤りだとナトゥーアに言って納得させる。


「どうして期待できないんだ?」


 それまで黙っていたカピィールが首をひねる。


「被害者を金で黙らせているような状況だ。事件現場の保管なぞしたら目立つだろうが」

「「「「なるほどなー」」」」


 半ば切れ気味にカリローが説明すると、カピィール以外からも、というか仲間全員から納得の返事が返された。


「き、君たちは本当に斥候スカウトの心得があるのかい?」


 カリローは思わずぶっ倒れそうになるのを堪えながら、尊敬のまなざしを向けている女性陣に向けて嫌味を一つ返した。


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